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光の色3


 奇妙な緊張感が漂う中、離れたところで待機していたメンバーが合流するまでに、魔族と聖騎士たちは軽く自己紹介をすることになった。

と言っても名乗ったのは人側だけ。魔族の方は好きに呼んで良いと真名は名乗らなかった。

聖騎士が、その容姿から捻りもなくシルバーと仮称を決め、「非常にシンプルで分かりやすい名前ですね」と、嫌味なのか本心なのか分からない言葉と共に受け入れられた。

彼は高位魔族の一人であり、力量としては王にあと一歩というところだという。

シルバーは聖女の美しさを改めて賞賛し、その魂の『色』が見えない人は不憫だと言った。

度重なる褒め言葉に聖女は困惑しつつも照れ続け、聖騎士は機嫌が悪くなり、エルフはげんなりとその様子を見守る。魔導師は人でもその『色』を見られるようになるかと興味深げに問うていた。

 しばらくして騎士二名と上級司祭、学者、弓師も合流し、ようやくシルバーの言うところの『これ』を見ることになった。


『これ』は小さな、手のひらに乗るほどの若芽の形をしていた。


 大魔法ですり鉢状に抉れたその最深部。他に何も生えていない真っ黒に焼けた地面に、ぽつりと生えているもの。水晶か何かのように透き通り、光を跳ね返している。わずかばかり緑色を帯びているが、それ以上に跳ね返す光で、まるで水の上に浮いた油のようにも見える。確かにシルバーが言うように綺麗ではあった。しかし、周りの光景と相まって不自然さの方が際立ち、どこか不安を覚えるような、そんなものだった。


「ね、美しいでしょう?」


 我が物のように言う魔族には、もしかしたら人とは違うように見えているのかもしれない。

半円を描くようにいる聖女たちに対して、シルバーは『これ』を挟んで向かい側で笑う。


「……『これ』は、何なのですか?」


 皆を代表するように聖女が問うと、黒き麗人は大袈裟に驚いた顔をした。


「あなた方の国でも神話として伝えられているでしょう?」

「……」

「力あるモノ、恵みを齎すモノ、願いを叶えるモノ……。神樹、と呼ばれていましたかね。その新芽です」


 聖女が驚く様子を楽しむように、魔族が言葉を重ねる。


「ほう、これが神樹……」

「えぇ、ただ、私たちの中での呼び名は違いますがね」


 なるほど、と乗り出し気味に神樹の若芽を観察する老魔導師に、シルバーは、にぃと形の良い唇を釣り上げた。


「ふむ、そちらではなんと?」

「招かれざるモノ。……この異界の神は大変美しいですが、この世の理を引っ掻き回す厄介な代物ですからね」

「異界の、神……?」

「えぇ、この世界の外からやってきたモノ。我々とは違う次元の力を持つモノ。ここだけおかしくなっているのはその所為です。『これ』の力は大変美しく強大で魅力的ですが、影響力が大き過ぎて我々魔族でも持て余す。さっさと処分した方が良い代物ですね」


 語る内容とは裏腹に、その口調は明るく楽しげですらあった。


「……貴殿は、なぜ我々にそれを教える?」


 聖騎士の問いかけに、魔族は待っていましたとばかりに大仰な仕草で聖女を示す。


「我々は処分したくとも出来ないからですよ、聖騎士殿。『これ』は、そこにいらっしゃる聖女にしか扱えないモノですから」

「……っ」


 息を呑んだのは、聖女ではなく上位司祭だった。

その反応に何人かが司祭の方を向く。注目を集めてしまった彼は、その視線に耐えられず俯いた。まさか、と、小さな呟きが零れていた。


「おや、あなたは何か知ってらっしゃるのですね」


 「どんなことを?」と、遠慮なく魔族が問う。

仲間たちからも無言で促す視線を向けられてしまった上級司祭は、落ち着かない様子で話し始める。


「……これだけは先に言わせてください。私は命令されたここに来ただけで何も知りません!」


 緩く首を何度も横に振りながら、彼はまずそう言い置いた。


「……今回の調査任務について当初は上級司祭二名とその護衛数名が充てられる予定でした。ですが人員決定がされる直前に、急に上層部が聖女に行かせるようにと言い始め……。私自身は元々調査人員に内定していたのもあり、その変更の理由を訊きに行ったのです」

「それで理由はなんと?」

「このために用意した聖女だから、と。」


 その言葉に、その場にいた誰もがしばらく無言だった。

一人魔族だけが、「なるほど、なるほど」と面白げに頷く。


「人の国にも『これ』の存在はちゃんと申し送りされていたようですね。中々愉快なことを考えた方がいたようですが。ふむ、なるほど、ねぇ。……もしかしてここに聖女の守護者が一人しかいないのもその所為ですか」

「……」

「これだけの美しい光を帯びた聖女なのに、聖騎士がたった一人なのはおかしいと思ったのですよ。その時代に現れる聖騎士は、聖女の光の強さに影響されると言われていますから。……他の聖騎士はどうしたのです?」

「……みんな、死んだわ」

「おぉ、そうでしたか。それはお気の毒に」


 吐き捨てるように言うエルフに、魔族は笑んだまま、仕草も添えて哀悼の意を表した。その芝居がかった仕草に、エルフが露骨に嫌悪を顔に出す。

上位司祭や魔族の言葉を黙って聞いていた聖騎士は、その意味するところに握りしめた拳が怒りで震えていた。

聖女は見る見るうちに顔色が白くなり、ふらついたところを弓師に支えられる。

騎士たちは押し黙り、学者は苦虫を噛み潰したような顔になっていた。


「私は……、難しい任務だからこそ聖女を充てるのだとばかり……」


 聖女と同じぐらい真っ白な顔で、上級司祭が言う。


「誰もお前を疑ってなどおらん。大丈夫だ」

「……っ」


 その場で崩れ落ちた上級司祭の肩を、老魔導師が優しく叩く。

弓師から聖女を受け取り、守るように抱きしめたエルフ剣士が口を開いた。


「……どこのバカが何をしたかは、今はおいとこ。それより、『これ』について話し合わないと。シルバー、知ってることを洗いざらい話して。――――に何かやらせるにしても、知らないままやるわけにいかない」


 種族的に常に少し引いた場所から俯瞰しているようなエルフが、静かに怒っていた。


書くことは決まっていたのに、いざ書こうとするととてもとても難産でした……

ぺらっぺら喋ってくれるシルバーはいいのですが、周りが上手く反応しきってくれないというか。

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