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光の色2

懐古シーンの続きです。


 調査隊のリーダーである聖騎士は少し考えた後、メンバーを二つに分けた。

片方は、聖女と共に中心地にいる『それ』を見に行く者たち。

片方は、何かが起きるようなら即座に援護および王都への知らせを出せるよう、この場にとどまる者たち。

前者には聖騎士自身と聖女、エルフ剣士、それに老魔導師。

後者には騎士二名と上級司祭、学者、弓師。

聖騎士は老魔導師も後者に入れようとしたが、老魔導師本人が付いていくと言い出したのでその振り分けとなった。


 ここで大魔法が発動したのは何年も前なのに今なお黒く焼け草すら生えていない大地を、四人で歩いていく。

先頭を身軽なエルフが。その後ろを聖騎士が続き、荒れた足場に戸惑う聖女に手を貸した。老魔導師は初めから歩くのを断念したようで、器用に魔法で宙に浮かび三人の後ろをついて行った。

やがて、丸く抉れた最深部近くまで辿り着くと、一行は立ち止まる。

 向かう先にいる何かが、ゆっくりとこちらを向いた。

弓師が言ったとおりに影のように黒い体、それに暗く光る銀色の髪。人ではないと一目でわかる色のその者は、酷く美しかった。

影のようなその何かが、芝居がかった仕草で一礼する。


「ようこそ、聖女とそのご一行。ここでお会いできた幸運に感謝を」


 男性としてはやや高い魅惑的な声と共に顔を上げ、その青みがかった銀の目を細める。

瞳のないつるりとした宝石のような目を見据えながら、聖騎士とエルフが、いつでも聖女を守れるよう立ち位置を変えた。老魔導師が浮遊の魔法を解いて聖女の横に立つ。

聖騎士の大きな背に守られる位置から、慌てて一歩横にずれることで聖女は魔族と視線を合わせた。


「魔族の方とお見受けします。……そこで何をなさっているのか、お聞きしても良いですか?」

「……おや、あなた方も『これ』を見に来たのではないのですか?」


 美しい舞いのような動作で、黒き麗人は、己の立っている場所の斜め後ろを指し示す。

聖女たちの立ち位置からは、まだよく見えないところだ。


「私たちは、ここで奇妙なことが起きていると聞いたので調査に来ただけですが……」

「ちょっと、――――。なんで全部正直に話してるの!」

「……え、でも」

「――も止めなさいよ!」


 すんなり喋ってしまう聖女にエルフ剣士の方が慌てる。聖騎士までとばっちりを受けて文句を言われた。その様子に老魔導師が、こつとエルフの背を杖で叩く。


「多分、これであっておる。あれが我らに何かするつもりなら、とっくの昔に消し炭になっておるよ」

「そうそう。警戒しなくとも」


 老魔導師の言葉に、魔族が続ける。


「奇妙なこと……それは、『これ』の所為でしょうね。はた迷惑なことにまたこの世に具現化してしまったようです」


 さぁ、こちらに来て見てごらんなさい、と、手招きする。

警戒心を解かぬまま、聖騎士は一度仲間の顔を順に見、それから視線を魔族へと戻した。


「先に、貴殿がこちらに何もしないという約束が欲しい。そもそも、なぜ我々の正体が分かった?」

「約束、ねぇ。……それは、見ればわかりますよ。そんな『色』を纏っているのは聖女ぐらいですから。過去に何人か聖女を見ましたが、あなたはその中でも一際美しい。光り輝くようだ」


 うっとりとした目で聖女を見る魔族に、聖騎士は顔を顰め、エルフは露骨に嫌悪を顔に出す。老魔導師だけが、ほっほっほ、と楽しげに笑った。

聖女自身は困ったように眉を寄せる。若干頬が赤くなっているので、唐突な賛美の言葉に照れてもいるようだ。


「元より何もする気はありませんがね。それでも約束が欲しいと言うなら、聖女に誓いましょう。今、この場において、私はあなた方に何もしないと」

「……」


 その言葉を確かめるように魔族を睨む聖騎士のマントを、つんと聖女が引いた。


「――、とりあえず確認をしましょう」

「えぇ、それが良いかと思いますよ、聖女。あなたが見ないことには何も始まりませんし」


 聖騎士は聖女の方を見て、小さく息を吐いた。

この表情をしている時の彼女は引かない。

か細く、守らないと簡単に手折られてしまいそうな儚さなのに、時々見た者を焦がしそうなほどに強い目をする。その目を見るたびに鮮烈な光を浴びせられたような気分になる。


「……それに、私の願いを聞いてくれるなら、戦いを終結させるお手伝いもしましょうかね」

「それは、本気?」


 さぁ、と手招きしながら付け加えられた言葉に、エルフが訊き返した。


「えぇ、本気ですとも。我々としてもそろそろうんざりしていますから」

「確かに、もう十年か。こちら側もうんざりしているのぉ」

「でしょう?」


 髭を引っ張りながら同意する老魔導師に、魔族は分かりますとも、という風に頷いた。


「わかった。まずはその言葉を信じよう。……後ろに残してきた連中を呼ぶ。少し時間をくれ」

「えぇ、皆様一緒に見るといいでしょう。『これ』が出てくるのは久方ぶりです。そこのエルフの君はともかく、他の皆様の寿命では見られて生涯に一度でしょう。是非とも見て欲しいですね。『これ』も、聖女に負けず劣らずとても美しいですから」


 さりげなくまた美しさを称えられた聖女は、困惑したような顔で魔族を見た。



リドが色々若いです。グレンダがちゃんと聖女っぽいのも書いててちょっと悶えます。

そしてシルバーが書けば書く程胡散臭いです……

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