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願い6


 寝巻にしているズボンの上に、リドルフィの無駄に大きいシャツを着こんだ私は、夜も更けているのに馬上にいた。

久しぶりに外に出たが、秋も本番。しかも、もう夜だ。空気が冷えている。

その寒さを見越して、リドルフィは私に厚手の靴下を履かせ、自分のカーディガンを私に羽織らせた後に、更に自分自身が身につけたマントの中にしっかり私を包んでいた。

……リドルフィはまともな格好をしているのに、私はお包みで包んだ赤ん坊みたいな状態だ。なんだかとても釈然としないけど、病人だから仕方ない……と思うことにする。

ついでに言えば、彼のシャツを着こんだ私を見て、なぜかリドルフィが肩を震わせていた。あまりのサイズの違いに、まるで親の服を着た子どもみたいになっていたからおかしかったのかもしれない。でも、これを着ろと言ったのはリドルフィじゃないか、それを笑うとは。

そんなわけで私は膨れていた。不機嫌になってもいいと思うんだ。


「そろそろ機嫌直してくれ」

「……」


 リドルフィは愛馬シュバルツの手綱を操りながら、夜道を難なく走る。馬の少し前を、リドルフィ自身が出した小さな明かりが浮かんでいて、行く先を照らしていた。

明るく大きな月も出ているので、もしかしたら魔法の明かりがなくてもこの馬なら走ってくれるかもしれない。

村を出て少ししたところで足音が増えた。リドルフィが片眉を上げる。

馬に並走するようにして、銀色の大きな狼が走っていた。

接触していないから会話は出来ないが……リドルフィの反応からすると、予定外のことなのだろう。


「蒼き風、どうした?」


 彼の問いかけに、ちらりと狼がこちらに視線を寄越す。そのまま一緒に走っているところを見ると、ついていくということなのだろう。

もしかしてこの格好のまま私は王都に連れて行かれるのだろうかと困惑し始めたところで、リドルフィが馬の速度を緩めた。知らぬうちに街道を逸れて横道に入っていたらしい。

古いが石造りの小さな館が月明かりに照らされていた。

村の近くにこんな建物があったなんて初めて知った。


「……ここ?」

「あぁ。先方もそろそろ来る頃だ」


 門を入り、館の馬小屋に乗ってきた馬を止める。

誰かの住まいというわけではないらしく、手入れはされているが、人気は感じない。

リドルフィは、まず自分が降りてシュバルツを繋ぐと、その鼻面を撫でてやり待っているように言い聞かせてから、馬上に残していた私を抱き下ろす。

そして、私を横抱きに抱き上げたまま、勝手知ったる様子で館へと入っていく。蒼き風は、一度馬の方を見てから当たり前のようについてきた。


 館の中に入ると、まるで見えない召使いでもいるかのように、勝手に明かりがついた。

順々についていく明かりに導かれるように、リドルフィは歩いていく。入ってすぐの応接室らしき場所につけば、数人掛けのソファに腰を下ろした。私はそのまま彼の膝に座らされる。蒼き風が近くに腹ばいで落ち着いた。まるで忠犬か何かのような仕草だが、サイズがかなりおかしい。ソファの横にこんもりと小山のようになっていて存在感がある。そして、しっぽを私のひざにのせた。まるでブランケットか何かのようだ。温かいから嬉しいけどね。


「こんなところがあったのね」

「公にはされていないからな」


 知らなくて当然、とリドルフィが頷く。

館自体はさほど大きくないが、よく見れば置かれている家具や調度品は良いもののようだ。人はいないのに手入れもされている。おまけにさっきの自動でつく明かり。他のところも使用人などがいなくても不便がないような仕掛けがされていそうだ。

そして、近くの住人にも知らされていないということは……。きっと極秘裏の会談などに用いられる要人向け施設ということなのだろう。それをなぜリドルフィが当然のように使っているのかは、多分、考えてはいけないところだ。昔からよく分からないところが多い人だし。


「もし眠くなったら寝てしまっても構わない。体力も戻ってないから無理しなくていい」

「そうは言われても……」


 こんな状態では寝ろと言われても寝られるわけがない。

くくく、と笑う気配がする。蒼き風だ。多分、リドルフィの過保護っぷりに呆れたのだろう。


「我もついている、心置きなく寝るがいい」

「いや、そう言われても、分かったって寝られる状態じゃないでしょ」


 元気ならリドルフィも蒼き風も軽く蹴飛ばすぐらいしたいところだけど、今は出来そうにない。


「それに誰かいらっしゃるんでしょ。なのに寝てるわけには」

「……構いませんよ、グレンダ。何も問題ありません」


 包まれた芋虫状態でぶつぶつ言っていたら、男の声が割り込んできた。どこか面白がるような口調に私は顔を上げる。


「聖女グレンダ。あの時以来ですね」


 応接室の入り口で芝居がかった仕草で一礼する。

黒い服を纏った麗人。その頭には角があり、耳は尖っている。豊かな銀髪は腰近くまで伸びていて、無造作に結ばれている。肌は漆黒で顔は人に酷似しているのに瞳がない。よく磨き上げた玉ような金色の目がこちらを面白そうに見ていた。


「借りを返しに参りました」


 魔族の王の一人は、私たちにそう告げた。


やっと魔族を出せました。

お話の一番初めからいるって書いてるのにいつまでもいつまでもオアズケ状態に。


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