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こたえあわせ6

クリス君視点継続中です。


 宿にシェリーさんたちを送ってから、僕はリドルフィさんの家を訪ねた。

広場に面している食堂を、その後ろから守るみたいにある大きな屋敷だ。

夏にカエル退治で来た時、村で一番初めに通されたのがここだった。ほんの少ししか経ってないはずなのに遠い昔のことのように感じる。

 僕が付いた時にはバーンとアレフも来ていて、こっち、と手招きしてくれた。

他の冒険者や、今回の結婚式に来ていた王都などの人たちが集まっている。

モーゲンに住んでいる人以外で、今この村にいる人全員がここにいるようだった。

皆、押し黙っている。確かにあんなのを見た後に雑談なんて出来そうにない。僕らもすみっこで壁に寄りかかる様にして立ったまま待つ。


 やがて、二階の部屋からリドルフィさんが降りてきた。

一人だったからグレンダさんは二階の部屋に寝かしてきたのだろう。


「すまない、待たせた」

「その間に書類を用意しておきましたよ」

「助かる」


 リドルフィさんの言葉にすぐ返事をしたのはダグラスさん。

村の雑貨屋さんだけど、今日はいつものちょっと頼りないような優しい顔ではなく、もっとしっかりした王都の役所とかにいる事務官みたいな顔をしていた。それもいつもにこにこしている窓口の人とかじゃなく、その上司とかで問題があった時に出てきて解決していく人みたいな顔だ。

そしてリドルフィさんも、僕らが村で依頼をやっていた時とは違う、どこか冷たく近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。


「まず先に言う。今回の件については他言無用。これから誓約書を書いてもらう。誓約書は神聖魔法で縛る一番厳密なものだ。その上で先ほどのことについて説明しよう」


 その言葉を聞いて何人かが不安そうな顔になった。逆に察しているのか動揺した風もなく静かに聞いている人もいる。

僕は……バーンとアレフの方を見る。どちらもイマイチ事態を把握しきれてない風の、不安そうな顔だ。僕も同じような顔をしているんじゃないかと思う。


 そのままリドルフィさんは椅子の一つに腰を下ろして、腕組みしたまま目を閉じ黙ってしまった。

その横に陣取ったダグラスさんが一人ずつ名を呼び、誓約書を見せサインをさせていく。

ダグラスさんと呼ばれてサインをしている人以外誰一人喋らない。喋れない。とても重い空気が部屋を包んでいる。ただ、書く時のカリカリいうペンの音だけが聞こえてくる。

 やがて、僕らの番が来た。他の人たちのように一人ずつかと思ったら三人まとめて呼ばれた。

多分、僕らがまだ十代でこの中では飛びぬけて若かったからだと思う。


「巻き込んでしまってごめんね。分からないことがあったら遠慮なく訊いて」


 そんな言葉と共に、ダグラスさんは三人にそれぞれ一枚ずつ誓約書が差し出した。大丈夫だと横の二人が頷いた。僕も頷いておく。

渡された書面の内容は、大まかに言うと今回を含めグレンダさんの使う魔法やそれに関係して起きた出来事を口外しないこと、そして今後事情を知る者として協力を要請された際には拒否権はなく、各自の持て得る限りの能力で尽力すること。

かなり一方的な話ではあるけれど、予想の範囲ではあって。

ただ、一か所だけ、びっくりして何度も見直してしまった。


「……あの」

「えぇ」


 顔を上げたら、ダグラスさんが静かに頷いた。

びっくりした半面、納得もした。確かにそれなら色々なことに説明がつく。

ごく普通の長閑な村に見えて、モーゲンという村が普通ではない様々なところ。その理由がたった一行に収まっていた。

僕に比べ読むのが得意ではないアレフやバーンも、最後のその一行に行きついたようで、困惑した顔をしている。確かにそうだよね、僕もどう反応していいかわからないもの。


「署名はそこの欄に」


 そんな僕らの気持ちを読んだように、ダグラスさんが穏やかな声で促した。

声は優しいけれど拒否権はない。そういえばさっきここに来る前にリドルフィさんも拒否権はないって言い切っていた、と思い出す。思い出したところでどうにもなりはしないのだけども。

僕らは一度顔を見合わせて、それから促されるままにペンを取り、名前を書く。

署名し終わった書類をダグラスさんが受け取り、三人分しっかり確認したところで顔を上げた。


「リドさん、全員分揃いました」

「そうか」


 低く唸る様にして、リドルフィさんが立ちあがった。


「本題を話し出す前に、モーゲンの村長としての言葉を先に言おう。ジョイスおよびリリスの結婚式に参列してくれたことに感謝すると共に、祝いの席に来たにも関わらず、今回の件に巻き込んでしまったことを詫びたい。すまない。そして協力を感謝する」


 ゆっくりと頭を下げる。その様子に何人かが慌てて頭を上げるように言った。

確かにリドルフィさんが起こしたことではない。多分、渦中にいたカイルさんやグレンダさんも不可抗力であぁなっていたのだと思う。誰かが謝るような話ではないはずだ。……それでも、先に村の長として彼が謝ったのは、きっと彼がそれだけこの村とカイルさんやグレンダさんを大事に思っているからなのだと思う。


 そこからリドルフィさんが話し始めた内容は、ある意味想像の通りで、でも、ことが大き過ぎてどう反応していいか分からないような話だった。

簡単にまとめるなら、グレンダさんは聖女であり、さっき見た通り人の域を超えた奇跡を起こすことが出来ること。その奇跡を使うにあたっての代償として彼女の命は削られていること。そして、奇跡を望む人々に彼女が使い潰されないよう、聖女が実在していることは隠匿されていること。

そんな話をリドルフィさんは、ただ、淡々とした。

多分、僕らには教えられないような何かもたくさんあるのだろうけれど、話せる範囲で可能な限り誠実に話してくれたのだろう。

始終静かな口調で行われた説明は、グレンダさんに最後まで好きなように生きさせてやりたい、なんて言葉で終わった。


 聞き終わった後、かなり長い間、皆、無言だった。

うっすら泣いている人もいた。

でも、戦乱期を知らない僕らではぴんとこないことも多くて……。ダグラスさんに誓約内容はしっかり守りますとだけ告げて宿に引っ込むぐらいしかできなかった。



リドに喋らせようかとも思ったのだけど、くどくなりそうなのでクリス君に纏めてもらいました。(汗)


さて、そろそろおばちゃん視点に戻ります。

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