食堂のおばちゃん17
夕食時も過ぎ、いつもならのんびりと数人が飲んでるぐらいの時間帯。
地図を広げたテーブルに村長とその弟子、そして冒険者四人が集まっていた。
ついでに明日寝坊しないと約束の上で、駆け出し三人組も食堂に残っていてテーブルについている。三人には、こういうのも必要な経験だということで作戦会議の見学を許されていた。
ちなみに見せてやれば、と、言い出したのはジョイスで、許可を出したのはリドルフィだ。
他の四人も異論はないらしく、普段なら省ける説明や確認も敢えてすることで、不慣れな三人にも分かるように話を進めている。
このモーゲンの村人たちもだが、ある程度ベテランになった冒険者たちは若手に寛容だ。
多分、育てたくても育てられなかった子供たちを、何人も空へ見送った経験から、自然とそうなってしまうのだろう。目を掛けて、手厚く育てようとする傾向が強い。この三人組に対しても何かにつけて教えたりしてやっている。
「しかし……思いの外、拓けているところがないな」
ぽそりとこぼしたのはイーブン。
男弓師は、広げられた地図を頬杖ついて眺めている。彼の見ている先、熊を発見したあたりは森だ。地図には木のマークがたくさん書き込まれている。
「ですね。確認地点はかなり木が密に生えているあたりですし」
「先に何本か切り倒しておく、とかどう?」
「どの木も結構な太さだったからきつくないか?」
「なんか、切ってる間に熊や他のが寄って来たなんてありそう……」
「すごくありそうだな」
先日見つけた痕跡の地点から、今回イーブンたちが視認した地点が近いことを考えると、その少し奥に熊のねぐらでもあるのかもしれない。
場合によっては発見した大熊の他に、同等の魔物が複数いる可能性も考慮に入れるべきだろう。
問題の大熊以外にも小型の魔物がちらほらと見つかっているらしい。熊と戦っている間に他の魔物から不意打ちされることを避けるためにも、ある程度拓けた場所で戦えた方が良さそうだ。
そうでなくとも、見通しが悪いのは危ない。
さて、どうするか、と、大人たちが地図を見ながら意見を出している様子に、グラスの中でカラカラと氷を回して遊んでいた駆け出し剣士が、なぁ、と声をかけた。
その声に、全員の視線がバーンに集まる。
それに臆することなく、バーンは女魔法使いの方を向いて言う。
「……シェリー姐さん、今の季節でも外の水って凍らせられる? 川とか、池とか」
「え、えぇ、そこの湖全部とかは流石に無理だけど、ある程度は……」
「あ、なるほど」
質問に答えるシェリーの横でクリスが、ぽんと手を打った。
その更に隣でアレフが、あーー、と頷く。
……というか、この子たちは、できるって言いきったシェリーのすごさに気がついてるんだろうか。
鍋の水を凍らせるぐらいなら私の生活魔法でもなんとか出来る。しかし、川や池の水をってなると。凍らせる水はかなりの量になる。シェリーはさらっと答えているが、相当な魔力量と経験がないと、即座にできるとは答えられない芸当だ。
私は三人の顔をちらりと見る。うん、多分、クリス以外は気が付いてないね、間違いなく。
「カエル沼で戦うの、どうですか。そんなに離れてないし」
「俺らがカエル倒すのに周りの草とか少し焼いたから今、めっちゃ見通しいいよ」
「……焼いた?」
「うん、クリスのプチファイアで雑草を、すこーし」
「……待て、それ火事に」
「ごめんなさいっ!!」
話を聞くうちに厳めしい顔になっていき、プチファイアでなんて言葉に山火事になりかねないと注意しようとしたリドルフィに、クリスが勢いよく頭を下げた。
それで我に返ったらしい残りの二人も慌ててクリスを庇い始める。
「リドのおっさん、怒るならクリスじゃなく俺! 戦いづらいから焼いてくれって言ったの俺だし」
「ちゃんとすぐ消せるようにやって、沼から生えてるのとか沼の縁のとこ以外、燃やしてないっす!」
口々に主張する前衛二人にリドルフィが顔を顰めて立ち上がると、ごんごんごんと順に三人に等しくゲンコツを落とした。
周りの大人たちは、うんうんと頷いていたり、心配そうに見守っている。
「……そういうのは、せめて相談してからやれ」
「「「はいっ!」」」
三人分のいい返事が揃った。
結構痛かったのかバーンたちがゲンコツを落とされた頭をさすっている。
「……でもまぁ、あり、だな。明日、カエル沼を見に行こう。使えそうならそこを戦場とする」




