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こたえあわせ4

クリス君視点続行中です。


 教会から、広場の真ん中を突っ切って僕らは走っていく。

片付けの途中で放り出すことになって、さっきの光る雨で濡れているテーブルなども気になったけど、そういうのは全部後だ。

足の早いアレフとリリスさんは、あっという間に先に行ってしまった。僕は少し前のバーンを必死に追いかける。


「……いやだ、いやだ、いやだっ!!!!」


 必死に走っていたら突然聞こえてきた叫び声に、僕ははっとして顔を上げた。

何かがすごい勢いで近くまで飛んでくる。

がらん、と大きな音がして、逆側の方に何かが落ちた。

びっくりして立ち竦んだ僕の前、バーンが僕を庇う位置に移動していて、もう一度びっくりする。


「リドさんっ!!?」

「……っ!!!」


 飛んできた何か、リドルフィさんが水溜まりだらけの地面で、ばしゃりと大きく水しぶきを上げながら受け身を取り、即座に元居た方へと走っていく。

僕らのことなんてまったく気づいてないような感じだった。多分それどころじゃないんだ。熊退治の時だって、あそこまで真剣な顔をしてなかった。


「いやよ、こんなのは、いやっ!!」


 前方で叫んでいる声に、僕らは再び前を向く。

グレンダさんだ。泣き喚くような、悲嘆にくれた声。

リドルフィさんが歯を食いしばるような険しい顔のまま、吹き飛ばされてきた距離を一気に戻っていく。

僕らも慌ててそれを追いかける。先を行っていたリリスさんやアレフも、僕と同じようにびっくりして立ち止まっていたようだった。


「もう、もう、誰も……っ!!!」

「グレンダっ!!!」


 とても苦しそうで……聞いている僕らの心臓をぎゅっと掴むような、そんな声。

まだ状況は何一つ分かっていないのに、彼女の声で泣きそうになって僕は喘いだ。

その彼女の名を、リドルフィさんが叫ぶ。

いつもの余裕があって太く揺るぎない声ではない。必死で、何か制止させるための声。怒号。

僕らにできる何かがあるのかなんて分からないけれど、僕とバーンも追いかける。


 ばちん、と、大きな音が響いた。

神々しい光を伴って錫杖がグレンダさんの手に具現化する。


「カイルっ!! 返事をしてっ!! 目を開けなさいっ!!」


 そのままの、泣きそうな口調の叫び。

泥だらけの法衣で、グレンダさんが立ち上がる。

錫杖で地面を鋭く突いた。

じゃらん、と、ここまではっきり聞こえる大きな音で錫杖が鳴った。


「グレンダっ!! ダメだっ!!!!」


 僕らより先にグレンダさんのところに辿り着いたリドルフィさんが、見えない壁にぶち当たったみたいにまた何かに弾かれる。

ほんの数歩後ろに下がっただけでまたそこまで戻って、見えない壁を叩くように拳を打ち付ける。

何度も、何度も。そのたびにそこに在る何かが反応して微かに光を発している。

リドルフィさんに追いついた他の人たちも、何か異様なことが起きているのを察したようで、グレンダさんの名を呼び始めた。

でも、グレンダさんはそんな声も聞こえていないような風で。


 やっと追いついた僕は、彼女の足元に真っ黒な何かがあるのに気が付いた。

錫杖の先はその真っ黒な何か……誰かのすぐ横に突き立てられている。

……あの時、デュアンは、なんて言った?

今、グレンダさんは、なんて言った?


「カイル、師匠……」


 すぐ横で、バーンが掠れた声で言った。

見えない壁に遮られてそれ以上進めない僕らは、まるで円を描くようにグレンダさんとその真っ黒な誰かを囲む。僕らは、それ以上に何もできはしなかった。


「……クリス」


 背後から小さな声で呼ばれて、振り返る。

ラムザさんに支えられたシェリーさんが、皆からかなり遅れてやってきたらしくそこに居た。


「……多分、これが、あなたが探していたものよ。よく見ておきなさい」


 シェリーさんの綺麗な顔が、笑むような泣くような複雑な表情に、くしゃりと歪む。


 聞こえ始めたのは、グレンダさんの声。

あの時、それが何なのか知りたいと思ったのと同じ、僕の全く知らない呪文。

魔法学校の図書館で探し回っても見つけられなかった、僕らの知らない言葉で唱えられる、知らない魔法。

知らない国の言葉で謡われる、知らない歌のようで、耳を離れない不思議な旋律。

時にまっすぐに伸び、時に小鳥のさえずりのように高低差を綺麗に跳躍して、囁くような音量なのにグレンダさんのよく通るアルトの声が響く。人の声なのに違う何かのようで、恐ろしく綺麗なのに不安になる。思わず聞き入ってしまうほど魅了されるのに、これ以上聞いてはダメだと何かが警鐘を鳴らしている。

 彼女の錫杖を持たぬ右手がゆっくりと上がっていく。

その動きに合わせて、カイルさんの体らしきものがゆっくりと浮かび上がった。

それは真っ黒で、ぷすぷすと燻るように黒い何かを散らしながら崩れ始めている。

普通に考えたらもう助かるはずもない、そう思うのに目を離せない。


 グレンダさんの気を引こうと名を呼んだりしていた人たちも、その光景に声も出せなくなっていて。

僕らは、ただそれを見つめているしかできなかった。


 やがて、

じゃん、と、錫杖が鳴った。


「……――――――っ」


 聞こえているのに、聞き取れない言葉。

グレンダさんを中心に、ぶわり、と、光が満ちる。

僕らの囲む円から空を貫くように、光の柱が起立して


 何も見えなくなった。


「グレンダーーーーっ!!!!!」


 リドルフィさんの悲痛な叫びが、広場に響き渡った――……。




……一瞬、バーンとクリスの薄い本を想像して慌てて振り払いました。

こんなシーンで私は何を思いついてしまうの。(汗)

多分、この重さに対する自己防衛ってことで。

やっと第5話のラストシーンに追いつきました。もう少しだけクリス君視点が続きます。

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