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こたえあわせ3

クリス君視点続行中です。


 僕らは、行きよりも速いペースで結界石を置く作業を終わらせた。

途中数人、他のところに居たらしい村の人が教会に避難しに来るのを何度か見た。

ジョイスさんと冒険者の人たちが、グレンダさんたちがいるらしい方へと走っていくのも見えた。

ゆっくりゆっくり湖から巻き上げられた水が薄い雲のようになって村全体を覆い、夕方の光をさえぎって随分暗くなった感じがした。まるで夕立の前みたいな感じだ。


「……」


 アレフが少し不安そうな顔で空を見上げている。

多分、僕も同じような顔をしているだろう。

バーンは頼まれたのもあってか、今も周りを警戒している。

そこにまた一人、こちらへと走ってきた。


「あ、リリスさん!」

「三人もいたんだね。こっちは大丈夫?」

「今のところ何も起きてないっす」

「了解。……ライナスさん、私もこっちに居ろって言われたのだけど、何かする?」


 教会の周りを回って戻ってきた後も何かやっていたライナスさんが、リリスさんに声をかけられて顔を上げた。リリスさんに返事をして、そのまま司祭様に話しかける。


「今のところ、特には。……ジーク、結界石を配置し終わりました。お願いします」

「……やってもらったけど、不要だったかもしれません」


 じーっと広場の向こうの方を見つめていた司祭様が、戦棍を下ろしながら静かに言った。

え? と、訊き返そうとして、


 ぽつり。


 落ちてきた水滴に、タイミングを失う。


 その場にいた五人で、思わず空を見上げる。

上空に集まっていた湖の水が、ぽつ、ぽつと地面を濡らし始めたかと思うと、後は一気、だった。

バケツをひっくり返したような勢いで落ちてくる、落ちてくる、落ちてくるっ!!


「うわっ!!!?」


 悲鳴を上げたのは誰だったか。

その声すらも聞き取りづらいほどの勢いで降ってくる。


「なんだ、これっ」

「うわぁぁぁぁ……」

「っ!?」


 しかも、途中でその水は光り始めた。

意味が分からない。

ただ、なぜだろう。

こんな異様な事態なのに、その水に対して恐怖は不思議と感じなかった。

外の状況に気が付いたのだろう、村の人たちも扉の中から外を覗いている。

さっき見た湖側の大窓から見ている人もいるんじゃないかな。


「グレンダさん……」


 司祭様が案じるような声で呟いたのが、水の落ちる音に紛れて聞こえて。

僕ははたと我に返る。

こんな大量の水を動かしたシェリーさんだって相当負荷がかかったはずだ。


「大丈夫かな……」


 魔法は自分の中にある魔力を使って何かを起こす。

受けた祝福によって、どんな形に魔力を出せるかの得意不得意が決まる感じだ。

それぞれに持っている魔力の量は個人差がかなりある。比較的多いからと魔法使いになった僕みたいな人もいるし、バーンたちみたいにあまりないけど自分を強化するのが得意な人とかもいる。もちろん戦いじゃなく全然違うことに向いた祝福を貰った人もたくさん居る。……というか、そっちの方が大多数だ。

 魔力は、体力や気力と同じで休めばゆっくり回復する。

一気に使いすぎるとめちゃくちゃ疲れるし、場合によっては倒れる。無理矢理全力疾走し続けたらふらふらになって倒れるのと同じ感じだ。

シェリーさんも相当魔力量が多い人だけど、村全体に雨を降らせるなんてことは絶対に過負荷だ。

それに気が付いた僕はすごく心配になってきた。

僕も学生の間に加減を間違えて倒れたことがある。めちゃくちゃ頭が痛くなるし吐き気は酷いし、しかもある程度回復するまでは魔法をさっぱり使えなくなる。それに当然ながら魔力切れ起こしている時は何かあっても自分でほとんど対処できない。もし何かと戦っている状態でそんなことになったら……。


 そんな心配を僕がしている間に、辺りは段々と元の夕暮れの明るさへと戻っていく。

土砂降りみたいだった光る雨は、上にあった水を使い果たしたのだろう、降り始めた時同様に唐突に勢いが弱まって止んだ。辺りの明るさもそれに合わせて元に戻った形だ。

地面へと落ちた後の水も暫く光っていたけれど、やがてそれも鎮まり、後にはあちこちに大きな水溜まりが出来た。

激しい夕立の後みたいに空気が澄んだ気がする。

水溜まりに赤い夕焼け空が映っている。

表に出ていた僕らは当然びしょ濡れで……お互いにそのまま顔を見合わせた。


「……浄化、されてますね」


 じっと状況を見守っていた司祭様が言った。

その言葉に皆の視線が彼に集まる。


「おそらく、今の『雨』を媒体として今降った場所……村の全域かそれに近い範囲で神聖魔法による浄化が施されています。念のため確認が必要ですが、あの『雨』を耐えられる魔物はそういないでしょうね」

「……とんでもない、ね。流石グレンダさん、というか……」

「多分、湖の水を媒体にしたんだと思います。湖から水が上がっていくのを見ました。そっちをやったのはシェリーさんですね……」

「どっちもすごい……」「うん……」


 正直、すごいなんて言葉で簡単にまとめられるような次元じゃないとも思う。でも、あまりにも桁外れ過ぎて、どう説明したらいいか僕にはわからなかった。

リリスさんがぐいと濡れた前髪を後ろにかき上げて目を細める。広場の方を向いて、目を凝らしている。


「ジーク、浄化されているってことは、差し当たりこの辺に危険はないのね?」

「あぁ、絶対とは流石に言い切れないけど、多分大丈夫だろうね」

「私、あっちを見てくるよ。何がどうなっているのか分かんないけど、人手が必要かもだし」

「お願いします。俺もすぐ行きます。怪我人が出ていたら応急処置だけでもしないと」

「では、ここは私が引き受けましょう」


 ジークと呼ばれた司祭様と、リリスさん、ライナスさんで話が進んでいく。


「僕も行きます!! あんな魔法使ったらシェリーさんでも倒れてるかもしれない!」

「わかった、クリス、おいで!」

「あ、俺もついてく!」「俺も!」


 僕が名乗り出たら、バーンとアレフも続いた。リリスさんが分かったと頷く。


「それじゃ三人まとめてついでおいで。ライナスさん、後よろしく!」


水溜まりだらけの広場へと駆け出したリリスさんを、僕たちは追いかけた。



もう少しクリス君視点続きます。

慣れてなくてクリス君視点なのにグレンダさん視点の口調になりそうになり慌てて修正しを繰り返してます。読みづらかったらすみません……

ちなみに彼のところからだと残念ながら虹は見えません。


また、おばちゃんを気にしてる読者の方いらっしゃったら、もう少しだけお待ちを。

ラストはハッピーエンドですので、そこだけは安心して待っていて頂けると嬉しいです。

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