こたえあわせ1
第6話最初は、駆け出し冒険者のクリス君視点です。
少し遡ったところから始まります。
第6話もどうぞよろしくお願いします。
初めは、何が起きているのか、さっぱりわからなかった。
窓の外が光った直後、何かが激突するような大きな音が響いた。
そして、そのすぐ後、デュアンが食堂に走ってきた。
デュアンはこの村の宿屋の息子だ。普段は王都の騎士養成校で寮暮らし。村の結婚式に合わせて帰ってきたとのこと。ダグラスさんの馬車で乗り合わせになり、デュアン自身の人懐っこさもあって、僕らはすぐに打ち解けた。
当日は、僕ら三人と、デュアン、それに食堂手伝いのエマは歳が近いこともあって、同じ仕事を割り振られていた。力仕事は男の僕らがやって、それをエマが手伝ってくれる。中々良い感じに回っていたのだけど……。
「デュアン、何事っ!?」
「みんな避難して!! ……じゃなかった! 避難するの手伝って!!」
「え、何? どうしたっ!?」
食堂の前にいたエマを確保してきたらしく、手を繋いでいる。
エマは、外であの光を見たみたいだ。おろおろしているのを見かねてデュアンが連れてきたのかもしれない。
その様子にいつもなら絶対茶化すだろうアレフも、さっきの光を見ていたからか、真剣な顔をしている。
「……カイルさんが、おかしくなった! おばちゃんがみんな教会に避難しろ、って!」
僕とアレフは顔を見合わせる。おかしくなったカイルさん。……全然想像がつかない。
「カイル師匠がおかしく……って、あり得ないだろ」
「でもっ!! とにかく早く!! 広場のみんなを誘導しろって言われた!」
言うだけ言って、デュアンはエマを連れて広場に走っていった。
アレフはしばらくの間、バーンと一緒にカイルさんの元で修行していたからか、かなり困惑している。
僕はアレフの背中を叩いて、とりあえず促す。今は考えている場合じゃない。慌てて二人を追いかける。
広場にはまだ人がたくさんいた。小さな子も遊んでいたから、僕らはチビたちを抱き上げつつ「教会へ!」と叫んで回ることになった。
状況がわかっていないチビたちは新しい遊びと思ったみたいで、きゃっきゃと楽しそうに笑っている。でも、僕ら自身も何が何やらで、聞こうにもデュアンも分かっているようには見えない。
少しびっくりしたのは、こんなわけのわからない状態で、避難を呼びかけているのも僕らみたいな駆け出しなのに、村の人たちは全く疑わずにすぐ行動してくれたこと。
特にデュアンのお父さんやリンさんは、グレンダさんの名前を出したら即座に反応してくれた。
二人が周りの大人を集めて手分けをし始める。片付けていた物を邪魔にならない場所に退ける人、僕らと一緒に子どもたちと先に避難する人、村の他のところにいる人たちを呼びに行く人、一気に動き出す。
僕らは、チビたちを確保しての避難誘導だったから、当然のようにそのお母さんたちと行動を共にすることになった。エマは妹を見つけるとひしっと抱きしめて、ついでに妹と同じぐらいの年の男の子を連れて教会に真っ先に走っていった。それに赤ちゃんを抱いたデュアンのお母さんや、他の小さな子たちの母親らしい人が続く。一番守らなきゃいけない人たちが真っ先に避難してくれた形だ。
予め訓練してあったみたいに迅速な対応に、むしろ僕らの方が置いて行かれそうになった。
よく分からないままに僕たちが教会の中へと避難し終わったのとほぼ同じタイミングで、どこか他のところに行っていたらしいバーンが教会に入ってきた。
「バーンっ!」
「お疲れ。とりあえず俺らはここで待機だって」
聞いたら、あの時バーンもデュアンと一緒に居たらしい。デュアンと分かれた後は、リドさんを呼びに行っていたのだそうだ。
「何があったの?」と訊いたアレフに、首を横に振る。どうやら喋るなと口止めされてきたのかもしれない。
「それより……」
バーンが、まだ開けてある教会の扉の方を見る。
つられて僕とアレフもそちらを向いた。
「チビたちとか体弱そうな人とか絶対教会から出すなよ。外、結構やばい気がする」
声を潜めるバーンに、僕は小さく頷く。
扉の近くには、ベテランの冒険者たちが何人か集まっている。知った顔だとイーブンさんやシェリーさん。それに司祭らしい短髪の男性とか、結婚式でリリスさんと笑い合っていた魔法使いの女性など数人。多くはないけど少なくもない。
みんなとても真剣な顔をしている。ついさっきまで少なくない量のお酒を飲んで酔っ払っていた人も混ざっているはずなのに、微塵もそんな気配を感じない。
そうか、この人たちは、これから戦うんだ。
「……グレンダさんは大丈夫なの?」
近くにいたエマが小さな声で訊いてきた。
バーンの言葉を聞いてしまったのだろう。
皆が喋ることを躊躇って静かだった教会に、その心配そうな声は響いた。
エマとその妹は、最近グレンダさんの養い子になったそうだ。
突然避難しろと言われて、でも、その避難する原因のすぐそばに家族がいるって知って、心配にならない訳がない。エマに抱きかかえられている妹の方も不安げな顔をしている。
どう答えようと考えているほんのわずかの間に、リンさんが妹ごとエマを抱きしめた。
「ごめんね、絶対大丈夫なんては言えない。……でも、きっとリドさんや、みんなが何とかしてくれる。信じて待っていよう」
明るい声が、ほんの僅かだけ震えている。
「そうだよ、うちの村長殿はでたらめに強いからね」
「そうそう、折角のおめでたい席だからって変な余興ふやさないでーって文句言わなきゃ」
リンさんのお婆さんが言い切った。それに合わせてリンさんのお母さんも、いつものほんわりした口調で言う。その言葉に何人かが笑った。リンさんが「余興って!」とツッコミを入れている。そんなやり取りで、張り詰めていた空気が少し穏やかなものになった。
僕自身も状況は何も変わってないのに少し気が楽になったように思う。ほっと一息付けた感じだ。
思わず息を吐きだしていたら、つん、と、服を引っ張られた。
そちらを向けば、アレフが目配せしてくる。バーンが先に扉の方へと移動していて、どうやら僕たちも呼ばれているようだ。
やっと少し落ち着いた風のエマたちに気づかれないように、そうっと僕も移動し始める。
気が付いたデュアンに目で訊かれたけど、緩く首を振っておいた。彼も剣術を習っているけど僕たちよりもかなり若い。彼はまだ、守られる側、だ。
「ここで皆を守っていて。」
ぽそっと耳打ちすれば、デュアンは頷いてくれた。
ここからいくつかのepは第5話の最後に入れるか、第6話の冒頭に入れるのかでかなり迷いました。
そもそも書くかどうかについても迷ったなんて有様です。
迷いに迷った結果、やっぱり一つ前のシーンが第5話のラストだな、と。
そして足りてない部分の補完も兼ねて第6話は少しの間クリス君視点です。
おばちゃんが今語れないので、代打、ですね。
物語も佳境に入り、割と重めのシーンも増え始めてきました。
読んでてしんどい部分もあるかもですが、物語の最後にはすべて回収して終わる予定です。
もしよければ、一緒に完走していただけたら嬉しいです。




