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来訪者23


 その後も、ジョイスとリリスの結婚式は何も問題なく進んでいった。

乾杯の後に、二人の挨拶があったり、ケーキの食べさせ合いがあったり、ご馳走を皆で食べたり。

こっそりとリリスを狙っていたらしい男性数人が端っこでいじけていたり、年配の男性たちにジョイスが囲まれて何やら吹き込まれていたり、それを奥様方が白い目で見ていたり……。

リリスは家族になるリンやハンナ、それに村の女性陣と一緒に楽しげに笑っている。

王都から遊びに来た友人たちも代わる代わる祝いの言葉を掛けに行ったり、冒険者同士で一緒に食事をしていたり。

村から出ている人たちも都合がついた人たちは帰ってきているので、あちこちで雑談の輪が出来ている。帰ってきたデュアンは妹のニナを抱っこして……名前を呼んでもらえたようで顔がとろけているね。


 着替えるタイミングを逃した私は、法衣のまま上からエプロンを付け、エマと一緒に給仕に勤しんでいた。

式に参列するためにきた顔馴染みが、私の方にも挨拶に来てくれた。その数にエマが目を丸くしている。

祝いの席なのもあって、みんな良い笑顔をしている。

お互い忙しくてリドルフィとは話せていないが、今のところ何も起きていないし、その兆候も見当たらない。イーブンも気にしてくれているし、念のため、今日もしっかり門番をしてくれているラムザとライナスに確認したが、村に入ったのは皆知り合いで問題はなさそうだった。


 私の気のせいだったってことかな、なんて思い始めていた。

それが気のせいではなかったと知ることになったのは、日も傾きかけた頃。


 用意した料理も粗方なくなり、そろそろ祝いの席もお開きだ。

村に宿泊しない外部客が帰り支度をはじめている。

イーブンが王都から乗ってきた馬車で何人かはまとめて帰るようだ。今朝も何人か乗せて来ていたから、予めそういう手筈になっていたのだろう。

本日の主役ジョイスとリリスの二人は周りに冷やかされながら、一足先に新居へと帰って行った。

あちこちからたくさんプレゼントも貰っていたようだから、その片付けやら何やらありそうだし、何より疲れただろうからね。

村の皆が会場の片付けなどを手分けしてやっている。村に来ている客の一部も勝手知ったる様子でそれを手伝っていた。年少の子どもたちはそんな人たちの間でまだ遊んでいる。それを大人たちは笑顔で見守りながら手を動かす。

祭りの後のいつも通りの光景。黄昏の中の、柔らかで愛おしい、そんな光景。


「エマ、デュアンたちについてって中に入れる前にテーブルの靴下とってやってー」

「はーい!」


 今回はテーブルの他に椅子も外に出していたので、食堂に運び入れなきゃいけないものがいっぱいだ。

式に参列しに来ていたバーンたち駆け出し冒険者三人組は、祭りの準備や片付けとしてダグラスに雇われたらしい。夏の熊退治の時にちょうど村に居たおかげでリリスとも知り合いだし、滅多にない結婚式だから参列したいけどどうしようと悩んでいたところをダグラスに拾われ、一泊食事つきで雑用係のアルバイトを受けたんだそうな。

あの時期しばらく村に滞在していたこともあって村人たちとも面識があるし、確かに適任だよね。普段率先して荷物などを運んでくれるジョイスが今日は主役で動けない分を、バーンたちが補ってくれた形だ。

結婚式のために二日ほどだけ帰ってきていたデュアンと一緒にあれこれやってもらっているのだが、エマやデュアン相手にバーンとアレフが先輩として少し恰好を付けているのが傍で見ていてちょっとおかしい。ちなみにクリスはいつも通りな感じだ。


 デュアンとバーンが外からテーブルを運び食堂の中に入るところで持ち上げ、エマがその足につけてあった布製のカバーを外す。食堂の中ではクリスとアレフがテーブルを受け取り並べてくれているはずだ。

私はこの後に運んでもらう木製の椅子の数を数え、座面や背もたれなどを布巾で拭いている。さほど汚れてはいなさそうだが、念のため、だね。

辺りはだんだん暗くなってきているので、そろそろ片付け終わりたいところだ。


 その時。


 びりりりっと、背筋を何かが走り抜けていった。

椅子の座面を拭いていた私は、思わず身構える。


「……」


 ゆっくりと姿勢を変え、辺りを伺う。

まだ目に見える異変はなさそうだけど……でも、何か不味いことが起きている気がする。


「おばちゃん、どうした?」


 ちょうどこっちに戻ってきていたらしいバーンが、私がいきなり顔を上げたことに驚いて声をかけてきた。一緒にいるデュアンもきょとんとした顔をしている。


「ん。……そういえば、リドが今どこにいるか知ってたりするかい?」

「リドのおっちゃん? さぁ……」

「あー、さっき冒険者ギルドの人と門の方に歩いていくの見たぞ」

「そう、ありがとう」


 デュアンは知らなかったが、バーンの方がちょうど見かけていたらしい。多分一緒にいたギルドの職員さんと顔見知りだから目にとまったとか、そんな感じかもしれない。

教えてくれた青年に礼を言えば、にかっと人懐っこい笑顔が返ってきた。

夏の討伐の時は、少しばかりやんちゃをやらかしてくれてリドルフィからお説教食らっていたバーンとアレフだが、根はいい子たちだ。

今も、こちらの様子を見てすぐに反応していたことを思うと、あの頃から少しは成長したのかもしれない。今も少し心配そうに私の方を見ている。


「……そしたら、今度はこっちの椅子をもって行ってもらおうかね」

「はいよ。デュアン、どっちが先に運べるか競争しようぜ!」

「うっす!」

「こら、遊ぶんじゃないよっ!」


 ……やっぱりあまり成長してないかもしれない、なんて思いつつ、こっちの椅子からなんて指示を出していて。


 ぶわり、と鳥肌が立った。


「……光よ! 我らを守れっ、守護盾っ!!!!」


 半ば条件反射で呪文を唱える。

その直後。

間一髪で展開された神聖魔法による盾が斬撃を弾き、火花のように光が散った。


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