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来訪者21


 エマの言葉に甘え、予定より少し早めに二階の自室へと戻る。

みんなは村のお揃いの装束に着替えるけれど、私は司祭として皆の前に立つので法衣だ。

クローゼットを開けて法衣の一式を確認する。

私の法衣はインナーに白いワンピースなどを着て、その上にオーバースカートと上着を着る。

ワンピースの部分は聖女になった時に与えられた聖衣と、ごく普通の白い服、どちらでも可能だ。

今日のような、その恰好をしていたら良いだけの時は聖衣など着ずに、季節に合わせたインナーを選ぶのだけど……。

今の時期に合わせて白い薄手のワンピースに触れると、違和感に手が止まった。

なんだろう、首の後ろの辺りが、ちりりと主張している。

試しに聖衣の方を手に取ったら、その静電気みたいな感覚が止まる。


「……」


 私は首の後ろをさすりながら、しばらく考える。

今日はジョイスたちのめでたい席で、この村から出る予定もない。

この村は私自らあちこちに結界石を埋め込んでいるし、村の入り口はラムザのいる正面口と、登録された村人しか出入りできない勝手口だけ。このモーゲンの村は、おそらく王都よりも安全と言ってもいいような場所だ。

それなのにさっきのはなんだろう、単なる静電気とも思えない。

昔、戦場にいた時に感じたような、胸騒ぎがする。

私は一度窓から湖の方を見やり、目を細めた。湖の水面はいつもと同じように穏やかに青空を映していた。


「……今、考えても仕方ないね」


 でも、この手の勘は、きっと無視しない方がいい。

もし何もなかったら、その時は気にし過ぎだったって笑えばいいだけだ。

私は聖衣をクローゼットから出し、一度眺めてから着替え始めた。

選ぶのは聖衣を含め、前線に立っていた時と同じ装備。白い靴を履いて行こうと思ったけど、それもやめだ。いざという時に動きやすいように編み上げのブーツを履く。

上に合わせるオーバースカートと上着は同じだから、周りからは違いが分からないだろう。

全てしっかり身に着けた後、結んでいた髪を一度解き、軽くブラッシングしてから何カ所か編んで緩く結び直す。

これで予定していた格好にはなったが……。


「念のため」


 机の小さな引き出しを開けて、奥から小箱を取り出す。

その中にあった小さな耳飾りを手に取って、一度確認する。

耳飾りについているのは透明な宝石のように見えるが、実は結界石の一種だ。

いざとなったら法具として使える他、僅かな間ではあるが身につけた者のダメージを肩代わりする。

戦乱期はほぼ常につけていて、高価なものなのにいくつも壊していた。

小さなピアスを両耳につけて小箱をしまうと、私は鏡の前で一度自分の姿を確認する。

こうやって法衣を付けるとあの頃のようだけど、やっぱり少し顔も体も丸くなったし、黒いはずの髪もところどころ光っている。


「年は取りたくないものだね」


 やれやれと肩を竦めて、私は自室を後にした。




 お昼を過ぎてしばらくした頃。

教会で、結婚式が始まった。


 いつもなら開きっぱなしにしない教会の両開きの扉を開き、外からも覗ける状態で固定する。

モーゲンの教会はそんなには大きくない。

木製のベンチは村人が全員座ったらほとんど埋まってしまう。

今日はジョイスとリリスの結婚式を祝おうと王都からも結構な人数が来ているので、全員は教会に入りきれそうにない。

多少人数が増えても大丈夫なように建てたつもりだったのだけどね。嬉しい誤算というやつだ。

 教会の扉を開いてすぐは、誰がどこの席に座るかとか、立ち見は誰だとか、教会に全員入りきらないなどと、わちゃわちゃやっていたが、ダグラスが上手く仕切ってくれて次第に落ち着いた。

村長のリドルフィは、ジョイスの家族のミリム、ハンナ、リンと一緒に最前列に座っている。

 リドルフィはさっき食堂を出たところで会ったのだけど、こちらの姿をじーっと見てから一度自宅に引き返して行った。多分、こちらの恰好に気が付いたのだろう。次に見た時は騎士服に帯剣していた。どうやらそれを本日の正装とするつもりらしい。無精髭はそのままだった。残念極まりない。

 どうするか迷っていたみたいだが、最終的に村の子どもたちも教会の中だった。多分、この先のことも考えてちゃんと見えるところで見せてやろうという話になったのだろう。

村人たちを中心に教会の中の席の半分ぐらいが埋まり、リリスの冒険者仲間でも特に仲が良い者やその他来賓も何人かは教会の中だ。チラッと見たら冒険者ギルドの秘書官も来ていた。多分ギルドマスターのウォルターはいなかったからその代理だろう。

外にあふれているのは自分から席を譲った村人や、うちの村によく出入りしている業者、賑やかしにきた冒険者たちといったところだ。

イーブンは当たり前のように混ざっているし、夏に一緒に熊を倒したカイルやシェリーの姿もある。折角だからおいでと誘われたのだろう駆け出し三人組もいるね。クリスは星送りの時にも会ったがバーンとアレフは久しぶりだ。他にも何人も見た顔がいる。


 私は教会の最奥、祭壇のところで立っている。

背にしているのは大きな一枚ガラスのはめ殺しの窓。村のすぐ隣にある湖の水面が、ガラス越しにきらきら光っている。

その上の方には、淡い色の幾何学模様に組まれたステンドグラス。

秋の優しい日差しがステンドグラスを美しく輝かせていた。


「そろそろ新郎新婦が入場します!」


 扉の辺りからダグラスの声がした。

全体の進行役を買って出た雑貨屋は、私の方に準備はいいかと手を振る。私は大丈夫だと頷いてみせた。

……ついさっきまで、祭壇の裏側でもう一度教典を開いてこっそり確認していたのは内緒だ。


 教会の外側でおめでとうの言葉があちこちから飛び、やがて扉のところに今日の主役二人がやってきた。

花婿のジョイスは村のお揃いの衣装の上に白い上着を着ている。中々凛々しく仕上がっている。

花嫁のリリスは白いドレスに花冠という姿だ。ドレスには村の衣装に似た刺繍がたくさん施されていて、それを纏ったリリスはとても綺麗だ。

ジョイスがぎこちなくもリリスをエスコートし、教会の入り口からゆっくりゆっくりと二人で進んでくる。

教会の中の参列者たちは、にこにこしながらその様子を見守っている。

子どもたちも先に、誓いが終わるまではお口チャックとか教えられていたようで静かだ。


 やがて、二人が祭壇の前、私のところまでやってきた。

リリスはかなり緊張していそうだが、ジョイスの方はすごく嬉しそうに笑っている。

なんだかその余裕そうな感じは師匠のリドルフィに似てきているかもしれない。

ジョイスが、大丈夫だよと言う風にリリスの手を軽くつつき、二人が姿勢を正したのを見て、私は微笑んだ。


「これより、結婚の誓いの儀を始めます」


 いつの間にか静まり返っていた教会に、私の声が響いた。




若かりし頃のおばちゃん40㎏半ば。現在のおばちゃん50㎏後半。60㎏は超えるものかとたまに足掻いてます。自分の頬やお腹のお肉が気になるおばちゃんですが、相方はこれぐらいの方が柔らかくていいって思っているようです。

ちなみにリドルフィのおっちゃんは身長190㎝前後のゴリマッチョ。身長差35㎝ぐらい。

グレンダは太ったと気にしているけどリドからしたら全然余裕。軽々持ち上げます。


……ちょうど私(作者)の旦那と娘の身長差がそれぐらいなので、よく二人の後姿をこれぐらいの差かーと眺めてます。旦那は全然マッチョじゃないけれども。そりゃ担げるよね。

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