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来訪者17


 昼前にリドルフィが食堂に戻ってきた。

少し前までリンたちとあんな話をしていたので、さりげなく距離を置こうとしていたのに、空気を読まない壮年マッチョは私に話しかけてきた。

……だから、リン、そんな楽しそうにこちらを見守るのやめてくれないかね。

もう二人ともさっさと食堂から追い出すために、早めにお昼を出してしまった方がいいのかもしれない。


「グレンダ、今夜の夕飯はなんだ?」

「昼じゃなく?」

「あぁ。夜の方」

「すじ肉と根菜を煮込んだシチューだけども」

「あー、俺の好きなやつだ……」


 何やら苦悩しているけれど、基本的にどれも好きなやつなのではないだろうか。少なくとも私がこの村で食事を作るようになってから、好きなやつかすごく好きなやつの二択だったように思う。食べることに関しては本当に楽な人だ。何を出しても美味しそうにたくさん食べてくれる。

しばらく考え込んでいたリドルフィは顔を上げると、とても真剣な声で私を呼んだ。


「グレンダ。遅くなっても絶対に帰ってくるから俺の分はとっておいてくれ」

「……はいはい」


 何を言い出すかと思えば、まだ夕食の話だった。


「この後、王都にでも行ってくるの?」

「あぁ、昨夜の話などいくつか、あっちで確認してくる」

「そう、気を付けていってらっしゃい」


 ということは、お昼をさっさと出した方がいいのだろう。

私は厨房に入り用意しておいたスープを温め始める。今日のお昼はキノコと豆のソーセージのスープと、ボートンが持ってきてくれたチーズパンだ。

大きなスープ皿によそい、パンも二つ温めて出してやれば、リドルフィはカウンター席で簡単に食事の祈りを済ませて早速食べ始めた。


「リンももう食べてしまうかい? エマはリチェが帰ってきてからだね」

「ん-、私もエマと一緒に食べるからまだいいよ」

「うん。そろそろ戻ってくるはず」


 作業の合間時間らしいリンは野菜を持ってきた後、エマと一緒に食堂の端っこで瓶詰のチェックをしてくれていた。瓶に保存食を入れる場合は必ず煮沸消毒したりしているのだけど、なにせかなりの量を一気に処理するからね。たまに上手くいかずに悪くなるものも出てしまう。

本格的に冬が来る前に在庫数の確認も兼ねて、問題なく密閉できているかのチェックをするようにしているのだ。


「あぁ、そうだ。リン、食後でいいから使いを頼めるか?」


 思い出したようにリドルフィが言う。


「うん? 大丈夫だけど、どんな?」

「村にでっかい狼が出入りするようになるが、襲ってこない大丈夫なやつだから安心しろって、全世帯に知らせておいてくれ」

「え、でっかい狼っ!?」

「あー……蒼き風だね?」


 村長の言葉にリンが驚く。そりゃそうだ。エマもびっくりした顔になっている。二人にはまだ碌に話していなかったものね。


「さっき村の裏門も通れるように登録してきた。少し話してきたがトゥーレと行動することが増えそうだから立ち入りを許可した。セアンのところには既に面通ししてある」

「家畜とかが怯えないかね?」

「一応その辺りも話してある。家畜小屋の方へは行かないようにするそうだ」

「そう」


 たとえ蒼き風に襲う気がなかったとしても、羊や牛、馬や鶏たちにそれが分かるはずもないからね。

怯えて卵を産む量が減ったり、パニックを起こして逃げ出されたりしても困ってしまう。

おかわり、と、差し出されたスープ皿を受け取り、半量ほどよそっていれば、リンがじーっと私を見つめていた。


「……グレンダさん、もしかして今朝リドおじさんといちゃついてたのって、その狼のせい?」

「なっ!!?」

「ある意味そうだなぁ」


 すごく真面目な顔で何を言い出すのかと思ったら。

さっきからみんな、なんでそんな真面目そうに言う言葉がろくでもないのかね。

思わず落としそうになったスープ皿をリドルフィが器用にそのまま受け取った。その反射神経はちょっと羨ましい。


「いちゃついてなんてないよ!」

「俺としてはもっと俺に褒美があってもいいんだがなぁ」

「……褒美って例えば?」

「そりゃ、リンたちには言えないような……」

「リドっ!?」


 わははと楽しそうに笑う壮年マッチョに、わざとらしくキャーと悲鳴をあげてみせるリン。エマはにこにこして見ているし……なんだろうね、この状態。

とりあえず、私がからかわれているのは明白なので、いうことにした。


「リド、夕食はあっちで食べておいで。リンは今夜のデザート抜きね」


 即座にリドルフィとリンが謝り始めたが、私は聞こえないふりをした。



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