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来訪者16


 目が覚めて、状況を把握した私は……とても驚いた。

どれぐらい驚いたかというと、もう少しでベッドから転げ落ちそうだったぐらい、だ。


「おう、起きたか。おはよう」


 驚いて跳ね起きて落ちそうになった私を、ひょいと捕まえて落下の危機から救ったのは、言わずと知れた壮年マッチョ。私が落ちそうになった原因本人である。


「な、なんで私の部屋にいるの!」

「そりゃ、俺にしがみついた状態で誰かが寝たからだな」


 人のベッドにしっかり収まって一緒に寝ていたらしい相手の姿を見れば、確かに着替えていない。

靴やら剣やら外套やらは脱いだり外したりしてあるが、蒼き風に会いに行った昨夜の恰好のままだ。

私自身も見下ろしてみたら昨日と同じ格好をしている。

彼がふわぁと欠伸をして伸びをする様子を眺めてしまってから、我に返った。


「リド、悪いんだけど今すぐ出てってちょうだい」

「えっ」

「ほら、そこの窓からでいいから! 今すぐ!」


 ベッドから立ち上がれば、まだ寝そべっている男の手を引っ張る。筋肉みっちりの体は重くて私の力では引っ張り起こせもしないけど、力いっぱい引っ張れば壮年マッチョが自分から体を起こしてくれた。

そのまま窓を開ければ、遠慮なしにそっちへと押しやる。

二階で多少高さはあるが、普段から飛んだり跳ねたりしている人だ、無理矢理落としてもきっとかすり傷の一つせずに着地するだろう。


「おい、ちょっと、グレンダっ?!」

「早くっ!」


 ベッド横の窓にぐいぐい押していたところに、パタパタと軽い足音がした。

私は体当たりするようにして壮年マッチョを押す。


「おばちゃん、おはよー!」


 ばん、と扉が開いた。

今朝も元気に満面の笑顔のリチェが部屋の中に走ってくる。いつもと同じように私を見つけ、ばふっと抱きついてこようとして……


「おじちゃんもおはよー!」


 外に追い出し損ねた間男ならぬ壮年マッチョを見つけた。

何のためらいものない大きな声に、私はあぁぁと手で顔を覆う。


「おはようございます」


 妹を追いかけてきたエマが、躊躇いがちに顔で扉から顔を覗かせ、挨拶する。


「……おはよう、リチェ、エマ」

「おう、おはよう。二人とも早起きで偉いな」

「あなたは黙ってっ!!」


 私はもう一度窓からリドルフィを追い出そうと試みた……が、やっぱり無理だった。




 微妙に気まずいまま姉妹と朝の抱擁をして、お互いに身支度を整えてから四人で朝食となった。

リチェはまだ幼いこともあって、朝からリドルフィが居たことに喜びこそしても何の疑問も抱いてないようだが、エマの方はもう色々分かるお年頃だ。

一応、私もリドルフィも歳はいっていても未婚だし、そういうことがあったとしても傍から見たら何の問題もないはずだけど、それでもお年頃の子に、朝起きたら養い親が異性を連れ込んでいました、なんて見せるもんじゃない……と、私は思う。

別にいやらしいことをしていたわけじゃないけれど、教育上よろしくないと思うんだ。

そんなわけで、今朝の食卓の席は私にはかなり気まずかった。

 いつも通り卵料理はエマが練習を兼ねてオムレツを作ってくれ、リチェは大喜びで綺麗な形に焼けたオムレツに自家製ケチャップをたっぷりかけている。

リドルフィもみんなの倍のサイズのオムレツを焼いて貰い、綺麗な形に焼けているとエマを褒めていた。

エマは褒めてもらったことに若干照れながら私と自分の分も焼き、食卓に着く。

みんなで食事の祈りを捧げてから、表面上はいつも通りに朝食を摂り、私だけちょっと胃もたれしそうになっていたが、とりあえずは平和だった。

なんだろう、私が一人だけ気にし過ぎなんだろうか……。



 そんな、しょうもない悩みを早々に解決してくれたのは、今日の野菜を届けに来たリンだった。

こちらが微妙に挙動不審になっているのを見て、こそこそとエマと話をしている時は本当にどうしようかと思ったのだけども……。


「グレンダさん、今更、だって」


 私のところにやってきて、ぱんと背中を叩く。何気にかなり痛いんだけども。


「エマも、リドさんがグレンダさんの相方だって知ってるし。エマたちがこの村に来た時、グレンダさん何日か寝込んでたでしょ。あの時もリドさんが普通に部屋に入って看病してたの、エマも見てるしねぇ。……むしろ村のみんな、二人は一緒に住めばいいって思ってるぐらいなんだしさ」

「……っ!!?」


 言われた言葉に私は思わずむせこむ。

それを見て、慌ててエマが寄ってきて背中をさすってくれた。


「もう、いっそ兄さんたちの結婚式の時に、一緒にグレンダさんたちも結婚式しちゃえばいいんだよ。その方が色々分かりやすいじゃない。……あ、でもご馳走は二回の方がいいから、やっぱり別々がいいか」


 リンが好き勝手言っているのは聞こえているけれど、むせ込んでいて返事が出来ずにいればエマが私を心配そうに覗き込んで言う。


「グレンダさん、私たちがいることで我慢とかしてない? リドさんと一緒にいる時間減っちゃったりとか。だとしたらごめんなさい」

「……え、エマが謝るようなことは何もないしっ というか、私とリドはそういう関係では……っ」

「はいはい、おばちゃんたちに何か事情があるのは分かってるけどさ。でも、とりあえず気にしなくていいってことだよ」


 謝るエマに全力で否定していたら、リンがものすごく雑に話をまとめてしまった。

私が言葉を探しているうちに、リンが楽しそうに笑う。


「グレンダさん、顔、真っ赤。可愛い」


 頬をつついてきたリンの指をぺしと払う。

エマも横で頷いてるんじゃないよ!

あぁ、もう、どうしてこうなったのやら!



……重いシーンの反動でこんなことに(汗)

ある意味お約束、でしょうか……

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