表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食堂の聖女  作者: あきみらい
第1章
17/249

見習いの少女


 この国の子どもたちは、必ず六歳の時に祝福を受ける。

大抵の子は六つの誕生日の当日か、その近辺。

おめかしをし、親に連れられて少し大きめの街の神殿に行く。神殿の特別な部屋で祈ることで、祝福を受けるのだ。

 祝福は、生きるための力として現れる。

この世界では誰もが多かれ少なかれ魔力を持ち魔法を使えるが、それぞれに得意不得意がある。

火や水、風などを操るのに秀でた者。

植物や動物との親和性が高い者。

形あるものを操るのが得意な者。

己の体を強化する形で魔力が具現化している者。

他者へ働きかける術をつかえる者……。

多種多様な系統、そして、その力の強弱。

祝福を受けることで、体内にあった未分化状態の力が花開き、魔法として使えるようになるのだ。


 そして。

祝福を受けた子供たちは、その適性に合わせて学校に入ったり、何かの見習いとしての修業を始める。

子どもは親の適性を受け継ぐことも多い。

例えば、火の祝福をもち鍛冶師として働く職人の子どもが、同じように火の祝福を受けるのはよくあることだ。その祝福をもって親の仕事を継いでいくのだ。

逆に両親とは全く違う力を花開かせる子も一定の割合でいて、そういう子たちの一部は親元を離れ特殊な学校に入ったり、同種の祝福をもつ大人の元に修業に行ったりする。

だが、そもそも大半の子は祝福を受けても、それほど大きな力を得る訳ではない。

ほとんどの子どもたちは祝福を受けた次の年から、一般教養を身につけるために地元の学校に通いつつ、必要に応じて誰かの元に弟子入りしたりして仕事を覚えていくのだ。

魔法使いとして、魔法単体で生計を立てられる者はほんの一握りである。





 りんごんと鐘が鳴っている――……


 本を数冊抱え回廊を歩いていた少女は、その鐘の音に顔を上げた。

広い中庭の芝生の真ん中に植えられた大きな木。

その上の青い空を仰ぎ見れば、鐘の鳴っている塔が見えた。


「あー……」


 もう、そんな時間か、と、少し疲れたような声がこぼれた。

 支給されたばかりの制服は真新しく、体に合っていない。まだぶかぶかだ。

白いローブは長く、腰のところでベルトでたくし上げているが、微妙に床に擦りそうだった。

その上から薄青く丈の長い上着をあわせている。

跳ねまわって遊びたい盛りの子供が着るにしては、かなり動きづらい制服である。

少女はしばらく見上げていたが、諦めたように視線を地上に戻した。

まだ出されている課題が終わっていない。

部屋に戻らねば。

またとぼとぼ歩きだそうとしたその時。


「……あー、腹減ったー!!」


 背後から唐突に飛んできた声に、びくっと少女の小さな体は震えた。

思わず振り返る。

見れば、自分よりいくつか年上の少年が歩いてくるところだった。

頭の後ろで両手を組み、大あくびしながら少女の方へと歩いてくる。

少年が着ているのは少女と同じ配色だが、動きやすそうなズボンとシャツだ。同じ学校にいるが適性は違うのだろう。

制服はところどころ泥がついたり、擦れた痕があったりと薄汚れている。

そういえば教官が、ここは本来少女と違う特性の子たちのための学校だと言っていた。

少女はとても珍しい祝福を受けたから、専用の学校がなかったのだ。

大人たちが相談した結果、現在ある中で最も少女に適しているだろうとのことでこの学校に入れられたのである。

この学校にいる子たちは少女とは違い剣術や体術の稽古を主に受けるとの話だったから、彼もそうなのだろう。

やんちゃ坊主めいた見た目だが、すでにしっかり鍛えられているのか、同じ年ごろの少年と比べると、彼はなんとなくがっちりしているのが少女の目にも分かった。


「お前は腹減らない? 育ち盛りなのに三回の飯だけなんて足りねぇよな」


 少年は振り返った少女に気が付けば、にぱーっと人懐っこい笑顔で話しかけてきた。

同意を求められて、少女は困ったような顔で何度か瞬きをする。


「え、えぇっと……」

「家に居た頃はおやつ、食ってただろ? 飯と飯の間とかに」


 すぐそばまで来た少年の勢いに飲まれて、少女がこくこくと頷く。

この学校に来てから少しでも早く今の生活に慣れようともがいていて、おやつのことなんてすっかり忘れていた。確かに実家にいた時は毎日のように食べていた。

甘いクッキーや小さなマフィン、カップに作ってあるプリンや果物で作ったグミ。どれも母の手作りだ。思い出して、ちょっと泣きそうになる。

だけど、そんな少女に気づかず少年は言葉を続ける。


「だよなー、腹減るからおやつもくれって言ってるのに全然くれないんだよ、ここの連中。……って、チビなのに難しいの読んでるなぁ」


 重そうだ、と、少年は少女が持っていた一番分厚い本を一冊ひょいと取り上げた。

ぺらぺらとページをめくって、うへぇと顔を顰める。


「ライザス師の課題だろ、これ。神聖魔法理論。もうこんなのやってるのか。早いなぁ。俺も今習ってるけどちんぷんかんぷんだぞ。術の干渉がどーのとかあれこれ難しいこと言うより実際やった方が早ぇよなぁ。というか、腹減った………よし、厨房いこう!」


 本をぱたんと閉じて、ついでに持ってやる、と、少女が何か言う前に残り数冊の本も取り上げて。

そのおまけのように片手で少女の手をつかめば、返事も聞かずに少年が歩き出す。

大して年が変わらないのに大きな手だった。ごつごつしていて、硬くて力強い。剣の稽古などで鍛えてるのが分かる、マメが何度もつぶれて丈夫で強くなった手。

少女はさっき一瞬涙ぐみそうになった実家を懐かしむ気持ちが、少年のことで上書きされた。翻弄されていて、泣いてる暇なんてなかった。


「……え、えぇぇぇぇっ」


厨房に行くことは、少女が同意する間もないままに決定事項になったらしい。

しかも少年だけじゃなくて、少女自身も連行されるようだ。


「ちょ、ちょっと待って」


 そもそもあなたは誰、と、翻弄されながら問う少女に、少年がにぱーっと笑った。


「俺? 俺は――……」


 強引だけど不快じゃないのは、その笑顔のおかげかもしれない。

自分の少し先を歩く少年の背中はなんだか大きくて――……



すみません、やはり数日あいてしまいました。

なんとか今日から復帰です。お待たせいたしました。

まだ本調子ではないのでゆっくりペースですが再開です。よろしくお願いします。


ちょうど節目だったので、1エピソード分だけ違うシーンを。

舞台設定をもっとしっかり作りこまなきゃなぁと思いつつ、ふわっとさせておこうと足掻いてしまったり(汗)

よくあるゲームやファンタジーのあのイメージで想像していただければ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この物語の世界の事がよくわかるようなお話じゃった。祝福は人それぞれ違うようじゃが、きっとここに書かれている少年と少女は…のう?それにしても大抵は特性というか力を開花させる者によってそれぞれ道が違うとい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ