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来訪者14


 自分の考えがまとまらないままに言葉を紡ぎ……話し終わると、沈黙が訪れた。

蒼き風は、何か思うところでもあるのだろうか、ぼふ、ぼふっとその豊かな尻尾が時折私の膝を叩く。……痛くはないのだけど、こんな時なのについ抱きつきたくなるので困る。

リドルフィはといえば、少し強めに私を後ろから抱きしめたまま何か考えているようだった。

 さやさやと、木々を揺らす風の音がする。

辺りをしっかり照らす必要もなかったので、ランタンを置くように地面近くに浮かべたままの魔法の小さな明かりが、風で揺れる草や木をほんのり照らしている。

私は話すだけ話してしまったのもあって、少し眠くなっていた。

屋外だけど背中も膝の上もあったかいからね。それに考えてみたら今日は朝からライナスの話を聞いたり、トゥーレのお祝いで料理しまくっていたりで、そこそこ疲れてもいたのだろう。

緊張感がないと言われたらその通りだけど、目の前にいる大狼はどうやら味方のようだし、背後には保護者めいた相方がいる。どっちも間違いなくこの近辺では敵なしクラスの実力の持ち主だ。つまり何があっても大概のことは対処してもらえるだろうし、私が寝落ちてもリドルフィが背負っていってくれるから、気が抜けていて何も問題ないわけで。

……それにね。どんなに覚悟を決めていても、自分の死期に関する話をするのは精神的にかなりダメージを負うものなんだ。それを誰かと分かち合おうなんては思いもしないけれども。


「……それで、俺たちには伝わっていない話とはなんだ」


 私が頭の中で言い訳をしながらうとうとしかけていたら、ようやく沈黙を破ってリドルフィが口を開いた。

声は静かだし口調も穏やかだけど、付き合いが長いから怒りや苛立ちみたいなものが混ざっているのが分かる。

それも仕方ないかなと私は思う。

あの時、私たちは必要な情報を持たないまま、成り行きでそうなったかのようにまだ苗の状態の神樹の元へと行くことになった。そして、実は神殿側が私の性格を踏まえた上でそう仕向けていたのだと、すべて終わってから知ることになった。

魔物の襲来が神樹の発芽の前触れだと分かっていながら生じた誤解による開戦を止めず、戦乱期後期には私を聖女として祭り上げ、苗が見つかればその贄とするために私たちをあの場所に送り込んだ神殿上層部。

その背景には、一部の貴族や豪商と神殿の癒着があったのだと聞いたことがある。

……ただ、私はその辺りの話はよくは知らない。

知っているのは、私が神樹を背負うことになりその反動で半年近く眠りこけていた間に、世代交代とは違う形で現国王が即位し、神殿内部や貴族社会でも粛清があったらしいことぐらいだ。

おそらくリドルフィはその粛清に深く関わっていたのだろう。

だが、その話を彼から聞いたことはない。

彼自身が伝えてこないということは、私は知らなくて良いことなのだろうと思っている。もしくは彼が私には知らせたくないこと、か。


「リド」


 私は、自分の前に回っている男の手をぺちぺちと軽く叩く。

男はそれで少し我に返ったのか、私を抱きしめる手の力を抜いてくれた。

先ほどから無意識なのか若干苦しいレベルでぎゅうぎゅうやられていたからね、私は小さく息を吐く。身じろぎして姿勢を少し変えた。ずっと同じ格好だと痺れてしまう。

多少苦しくても責める気になれないのは、それだけ大事に思われていると知っているからだ。


「……人の子の間には、人の子が贄の巫女になった記録しか残っておらぬだろう?」


 ぼふっともう一度尻尾を動かしてから、蒼き風が言った。

私は頷く。少なくとも私が知っているのは、このグラーシア王国に現れた人の聖女の話のみだ。

人間だけでなく獣人などの多種族の聖女もいたらしいが、多分狼が言っている人の子の中に含まれているだろう。


「あぁ」


リドルフィが肯定するのを聞き、蒼き風は、やはりそうかと頷いた。


「過去には、森の民が贄の巫女になった時もあった」


 森の民……すぐに想像するのはイリアスのようなエルフのことだ。

でも、非常に少ないとはいえイリアスのように人の社会で生き、交流しているエルフもいることを考えると、狼がいう森の民はエルフではないように思う。

ならば彼の仲間である森に住まう他の守護者や動物たちのことだろうか。もしくは、おとぎ話のように不確かな話でしか私たちには知られていない精霊と呼ばれる者たちか。

ただ、その辺りのことは今、詳しく聞くこともないのだろう。私たちに必要なのはその巫女の種族が何であったのかではなく、その時どんなことが起きたのかという情報なのだから。


「これから話すのはその時の巫女から言付かった言葉だ」


 ほんの少し、蒼き風の声に懐かしむような響きが混ざったように思えた。


「いつか伝えられる日が来るなら、後の巫女に伝えて欲しいと頼まれて以来、我ら森の守護に語り継がれていた話を、ようやく伝えられる」


 なんとなく蒼き風の尻尾の上に置いていた私の手に、リドルフィの手が重なる。

私はもう片方の手をその大きな手に重ねた。


「巫女グレンダよ、そして守護者リドルフィよ。よく聞くがいい」


 森の守護者、蒼き風がその大きな顔をこちらに向けて言う。


「その巫女は、神樹と共に枯れずに済んだ。巫女が生き残る方法があると後の巫女に伝えよと、その巫女は我々に触れた者と話をできるこの力を与えたのだ」


 その言葉に、リドルフィは私の手を握る力を強めた。



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