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来訪者11


 私が魔法で明かりを灯して道を照らしながら、まずはセアンたちの家へと向かう。

セアンたちの家は村の広場から少し離れた辺り。村の外壁に近い場所にある。

何軒かの農家などが固まって建っていて、その近くに村の勝手口とも言える村人専用の門がある。こちらは門番がいない代わりにまじないがかけてあって、登録してある人が居ないと門を開けることが出来ない。門の向こうは畑や果樹園、牧草地への農道が続いていて、更に向こうは山脈へと続く森だ。

セアンたちを家まで送り、そこからはトゥーレとリドルフィ、私の三人のみになった。

ノーラはとても心配そうだったが、どんなにリドルフィや私が戦い慣れているとしても戦闘経験のない者を何人も守るのは厳しい。セアンが妻を宥めて、ノーラもしぶしぶという形ではあったが話していた通り自宅で待っていてくれることになった。

もう暗い時間だということもあり、トゥーレはリドルフィが左手で抱き上げ、彼の死角になる左側を私が歩く形で、三人で小さな門を潜る。


「……果樹園の方にいるように見えるね」

「わかった」


 門を抜けたところで探査の呪文を唱えた。視界にいくつもの光点が重なる。あちこちにある小さな点はこの近辺に住む動物たちだろう。その中でも他より少し大きいものが果樹園にいるようだった。

私は、そちらの方向に先導するように魔法の明かりを灯す。

畑の間の道を通り抜け、最近作り直した用水路の橋を渡り、果樹園へと入っていく。

なんとなく夏の半ばにあった嵐の時のことを思い出す。あの時は村の正門からだったから今とルートは違うが、気のせいでなければ同じ場所のように思える。


「スモモのところ」


 トゥーレも気が付いたようだ。

リドルフィに抱き上げられていることで誰よりも高い位置から見ていた少年は、あそこ!と指を差した。

あの日、私がトゥーレを見つけたところに大きな灰色っぽいものがいる。

あちらも私たちの姿を見つけたのか、のっそりと体を起こした。

そのままゆったりした動きで近づいてくる。

その大きさにリドルフィが警戒して私を庇うように一歩前に出た。多分もし戦闘になったならトゥーレは私が預かることになるだろう。それを予測して今回は両手を開けてきている。

私は、呪文を唱えて明かりを一段階明るくする。

こちらに近づいてきていた白銀の獣は一度歩みを止めて、私が出した魔法の光を見上げた。


「グレンダおばちゃん、ちょっとまぶしいって」

「……え?」


 狼は小さな唸り声もあげていない。なのに、トゥーレとは意思の疎通が出来ているようだ。びっくりしてトゥーレと狼を見比べていたら、「あかりをもとにおおきさにもどして」とトゥーレに催促された。

一度リドルフィを見上げて目を合わせてから、言われた通り明かりの大きさを戻す。

すると、満足したのか低い唸り声がかすかに聞こえ、もう数歩こちらへと寄ってくる。

立ち止まった状態の私たちから三歩ほどのところで止まり、犬でいうところのお座りの姿勢になった。


「おばちゃん、ありがとうって」

「ううん、トゥーレ、眩しくしてごめんねって伝えてくれるかい?」

「ボクがつたえなくても、わかるみたい」

「そうなの?」

「うん」


 私はもう一度トゥーレと狼を見比べることになった。


「……おじちゃん、おろして」


 トゥーレの言葉にしばらく考えている風だったリドルフィだったが、やがて無言のまま少年を下ろす。

少年は、大丈夫だよと笑ってからリドルフィを離れて、そうっと狼の方へと歩いていく。

私とリドルフィはその様子をじっと見つめていた。

白銀の大狼はというと少年が近づくまで全く動かずに待っていて、その後も少年が確かめるように触れるのを、じっと座ったまま受け入れていた。


「……おばちゃん、おじちゃん、ちょっときて、って」


 トゥーレは犬か何かにするようにもふもふと狼の首の辺りに抱きついていたが、しばらくするとこちらを向いて言う。

私はリドルフィと顔を見合わせてから、二人一緒に近づいていく。


「さわって、って」


 満面の笑みで言うトゥーレに思わずもう一度リドルフィと目を合わせて、それから確かめるように狼を見つめる。こちらの困惑が分かるのか、狼はゆっくりと一度瞬きしてみせた。

もう一度リドルフィの方を向いてから、そうっと手を伸ばす。

その首当たりの毛並みに指先が触れたところで、ぴりりと静電気でも起きたような感覚に襲われた。

びっくりして手を引っ込めようとしたところに、狼が首を倒して毛皮を押し付けるのと、間にリドルフィが割り込もうとするのが同時に起きた。

結果、私は尻もちをつくように転びそうになって……私を押す形になったリドルフィが慌てて腰の後ろに腕を回して私を支えた。


「……警戒心の強いことだな。しかも嫉妬深いときてる」

「……え」


 唐突に聞こえた知らない声に思わず声が零れた。リドルフィもそのままの姿勢で固まっている。


「幼子の方がよほど勇敢ではないか。……とはいえ、まずは礼を言おう。我が声に応え、その子を連れてきてくれたことを感謝する」


 私は、どうやら声の主らしい白銀の大狼をまじまじと見た。


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