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来訪者7


 翌日、朝食後の時間。

村の人たちが今日の仕事に出掛けていくのを見送り……。話していた通り、リドルフィとライナスだけが残っていた。

今日は、リチェの遊び相手のトゥーレがノーラとお出掛けなので、エマが酪農家のノトスのところにリチェを連れて行った。本日の子守当番はノトスのところなのだそうだ。子どもたちに動物の世話をさせながら遊ばせるらしい。朝のミルク絞りから手伝うんだと、二人は張り切って出掛けて行った。

あの二人もすっかり村に馴染んだね。お手伝いも子どもたちにかかると、どれも楽しい遊びになっているようだ。

リドルフィはこの後、トゥーレの付き添いで出掛ける予定なのでいつもよりはマシな格好をしている。髭と髪をなんとかしたらいつもの恰好でもそれなりなのに、どうして普段は山賊もどきになってしまうんだろうね。


 カウンター近くのテーブルにお茶を用意して勧めれば、ライナスが礼を言って腰を下ろす。

リドルフィはカウンター席でのんびり寛いだままだ。

私は自分の分のカップも持ってきて、ライナスと同じテーブルについた。


「それで、どうしたの?」


 急かすのも少し悪いかなと思ったのだけど、もし本当にハンナが暴走しているのだったらさっさと彼女のところに行った方がいいからね。早く聞かせてもらわねば。


「時間を頂いてしまってすみません。……昨日、ヴェルデアリアの養成校にいらっしゃったと話していたので、ちょっとお聞きしたくて」

「……え?」


 予想と全然違う切り出しに、私は目を丸くする。ハンナごめん、勘違いだったと心の中でこっそり謝った。


「ヴェルデアリアの騎士学校にいたルーシャンと面識はあったりしますか?」


 名前の綴りは……と、ライナスが指で教えてくれる。

ものすごく珍しい名前というわけではないが、同じ綴りでルシアンと読む方が多いだろうその名前に、私は記憶をたどる。私たちがいた聖騎士の養成校に在学していた仲間なら今でもしっかり名前を覚えているが、騎士学校の方は合同演習で一緒になる機会はあったとはいえ、他校だ。

私はリドルフィに目で問う。

騎士候補生だったなら、私よりもリドルフィの方が接点は多かっただろうからね。

彼も昔を思い出していたのだろう。しばらく考え込む顔をしていた。


「ごめん、すぐに思い出せる範囲には……何か、特徴とかあったりするかい?」

「いえ、年代的にもしかしてと思っただけなので。……逆に、知っていたらどんな人だったか教えて貰おうと思ったんです」


 なんとなく何を言いたいのかが分かって、私は黙ったまま続く言葉を待つ。


「兄なんです。ヴェルデアリアが陥落した時、十三歳ぐらいだったと思います」

「そう……」


 穏やかな口調で、すべて過去形で語る様子から、彼の人物はすでに故人なのだろうと察せられた。

ライナスが一口お茶を飲む。その間も私はと言うと相槌のみで待っていて。

……本当はこんな時に言葉の一つでもかけられたら良いのだろうけれど、そこはいくら歳をとっても中々上手くできるようになるものではないらしい。


「あの頃、ヴェルデアリアには騎士学校、聖騎士の養成校、魔法学校など全部で八つも学校があったからなぁ……すまない。残念ながらその名前で思い当たる相手がいない。俺らの方が若干上だったから接点がなかったんだろう。」


 私が答えに困っていたら、黙って聞いていたリドルフィが助け舟を出してくれた。

顔を上げたライナスがこちらを向いて、それからリドルフィの方を向いて、軽く首を横に振る。


「いえ、こちらこそ変なことを訊いてしまってすみません。……あちらで墓地に寄った時から、もしかしてご存じだったりしないかと気になってしまって。ちょっとスッキリしました。私自身、少し年が離れていた上に兄は寄宿舎に入ってしまっていたので碌に覚えてないんです。だからお気になさらず」


 そう言って立ち上がろうとしたライナスに、なんだかちょっと申し訳ない気になって、私は引き止める。


「良かったら、ライナスの知っているお兄さんのことを話していかないかい? もしかしたら名前は知らなくてもすれ違ったりしているかもしれないし」

「しかも、さっきお茶請け用に何か作ってたしな」

「……リド、それだと単にお茶飲み仲間が欲しいだけになっちゃうでしょ!」


 しれっと言い添えた壮年マッチョに文句を言う。確かにさっき梨のプチパイを仕込んで、今オーブンで焼いているけれども。

文句を言われたリドルフィはというと、「俺が食べたいから出してこい」とか言っている。

私は立ち上がりついでに大きな背中をぺちぺち叩いてから厨房へと向かう。

何気にちょうど焼き上がり時間だ。なんか悔しい。


「……それなら、少しだけお言葉に甘えて。本気で兄のことはほんの僅かしか覚えていないですが」


 そう言って、ライナスが話し始めた。

陥落前に一度ヴェルデアリアに兄の練習試合を見に行ったことや、その時の勇姿を見て自分も騎士を目指そうと思ったこと、など。兄からの手紙にあった学校近くのお菓子屋の話などが出た時には、私たちも知っている場所だったので店の様子を話すことが出来た。

 会話の途中、ふと気が付く。

ライナスが自分自身が騎士であったと過去形で語っていることに。

もしかしたら、兄のことも含めて話すことで、気持ちの整理をしていたのかもしれない。

私が気づいたのだから、おそらくリドルフィも気が付いているだろう。

それでも私たちは、気づかない振りをして時間ギリギリまで他愛のない思い出話に相槌を打ったのだった。


何気に書き方にかなり迷った回でした。

後日少し修正するかもです。

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