食堂のおばちゃん15
六人分の食事を並べ終わったところに、ちょうど残りの三人も戻ってきた。
先にいた三人と声を掛け合って挨拶している様子を、私は厨房の中で見ながら、私の仕事をする。
六人全員が席につけばリドルフィが促し、皆で食事の祈りをささげた後、にぎやかに食べ始めた。この後のことを相談しながらも、時々混ざる「あ、これ美味しい」などの言葉に私はちょっと満足する。あれこれ情報交換しつつ、六人それぞれにいい食べっぷりを発揮している様子は作る側からするととても嬉しい。
やがて、村人たちが食堂に食べに来始める少し前に、六人は食事を終えた。
「よし。そろそろ行くか」
村長の声に頷き、それぞれに立ち上がる。
「おばちゃん、ご馳走様!」
「美味しかったです」
「このジュース好き! 夜もリクエストできる?」
「あぁ、まだあるからね」
「……あ、私も!」
ジョイスやリリスが手分けして皿を返しに来てくれたので受け取って流しに置けば、洗うのはひとまず置いておいて、私も厨房を出た。
食べ終わった彼らは、装備を確認する。外していた剣や弓、鞄等を身に着けていく。
私は、彼らのために外への扉を開いてやった。
「とっとと見つけて、夜は酒盛りだな」
軽い調子で言うリドルフィに頷く。
「ちゃちゃっと見つけて、やれそうだったら倒してくるよ」
師に似た軽さで続けたのはジョイス。
他の面々も笑顔だ。
私は確認するようにリドルフィの顔をじっと見て、それから他の五人も確かめるように視線を向けて……一度目を閉じる。
なんとなく指先をぱっぱっと払うようにしてから、姿勢を正すと唇を開いた。
「正しき者たちに光の加護を。戦いに臨む者たちに良き風が吹きますように――……」
韻をふむ。
古い言葉の呪文を謡うように唱える。
ふわり、と。目に見えない何かが私と彼らを包んだ。
鈍い者なら気づかないかもしれないような、そんな細やかな違い。
言ってみれば。
ほんの僅かにだけ空気が澄んだような、
ほんの僅かにだけ清々しい香りに包まれたような、
そんな、気配。
「……わぁ」
私の祈りを初めて受けたシェリーが思わず声をあげていた。
魔法使い故にその辺の感覚が鋭いのだろう。目をキラキラさせている。
リリスも何かを感じたのかキョロキョロと周りを見回している。
すでに何度も受けたことのある男性陣は静かに祈りを受けていた。
リドルフィに至っては私の隣で訳知り顔で、うんうんと頷いている。
あなたが掛けたわけじゃないでしょうに。……なんとなくツッコミを入れなければならないような気分になって脇腹を遠慮なく小突いておいた。
「……油断しないで。気を付けて」
さして強く小突いたわけでもないのに大袈裟に痛がってみせてる壮年マッチョは放っておいて、他の五人に言えば、ごく真面目な表情で頷きや、行ってきます、などの言葉が返ってきた。
「夕飯を作って待ってるからね。全員無事に帰っておいで」
森の方へと向かう五人を見送り、まだその場に残っていた男に視線を上げる。
何か言い忘れでもあるのだろうかと、その視線で問えば、緩く首を横に振られた。
「行ってくる」
「はい。いってらっしゃい」
私の肩を軽く叩いてから男が歩き出す。
その大きな背中を眺め、彼との付き合いももう四十年近いのかと改めて思う。
「お互い、遠くまできてしまったものだね」
ぽつりと呟いた。
呪文関連はどこまで文言を作るか毎度悩みます。
いっそ厨二チックに長いのを作っても楽しそうなのですが…… 多分、グレンダさん唱えたがらない気がするのよね(汗)
亀の甲より年の劫。長い呪文も適当に簡略化して、下手すると何食わぬ顔で無詠唱とかやらかしそうなそんなおばちゃんです。




