来訪者4
翌日。リドルフィは朝食を食べに来た面々に、ライナスを紹介していた。
少しは人数が増えたとはいえ、まだまだ小さな村だからね。こんな適当な告知でも、夜には村全体に知れ渡っているだろう。
とりあえずのライナスの肩書は、長期滞在者。
同じような経験を持つラムザのところでリハビリのため長期滞在……。そのまんまだね。出した辞表は団長ランドルフが保留扱いにしているので、所属は今も騎士団で休暇中の扱いになっているらしい。「まだ気持ちの整理もついていないだろうから、ゆっくり口説くさ」とはリドルフィの言葉だ。
ライナスは、宿に置いていた荷物をラムザのところに運んで、今夜からは居候することになる。
そんな初対面に近い赤の他人同士でいきなり一緒に住めるのか少し気になったが、騎士団の寄宿舎も若いうちは相部屋だったそうであまり抵抗はないらしい。受け入れ側のラムザも、現役の頃みたいだと笑っていた。
ライナス自身はというと、まだ満足に動けないこともあってやたらと恐縮していた。
まぁ、そんな気持ちも分からなくもない。ただ世話になるだけというのは、そうなる理由がしっかりあり、しかも相手が歓迎してくれても申し訳ない気分になってしまうものだからね。
そんなライナスを、ラムザは自分も昔そうだったから、なんて話をしながら肩を抱いて連れて行った。後はラムザが上手くやってくれるだろう。
「ねぇねぇ、グレンダ、ライナスさんっておいくつぐらい?」
朝食の人たちがはけて、しばらくした頃。興味津々で聞きに来たのは、今朝収穫した野菜を持ってきたハンナだ。
ちなみに食事は家でとっている彼女はまだライナスに遭遇していないはずだ。
遠征の時に司祭二人の年齢はなりゆきで聞いたけれどライナスのは聞いてないのだよね。任務に関係ないことだし、実は彼とはあまり雑談をするタイミングも多くなかったんだ。
「……いくつだろ。三十半ばぐらいかねぇ」
「カッコいい感じ?」
「まぁ、カッコいいとは思うけど……。リンのための情報収集ならほっといておやりよ」
「ちょっと気になっただけよ~」
うふふ、とハンナが笑う。彼女のおっとりした口調だと注意する方も気もそがれてしまう。
「リンはねぇ。基本、村に来る人ぐらいしか知り合う機会がないから」
「それはそうだね。学校に通っていた頃ならともかく」
「リドさんに知り合い紹介してって言おうとしたら、リンに止められちゃったわ」
奥手なのよね~ってハンナは笑っているけど、それはちょっと違うような気がする。多分、リンのことだから、お見合いとかじゃなく自然に運命の出逢いをしたいとか思っているのだろう。ハンナが亡くなった夫に出逢ったように。
その考えでいくと療養で村に自主的に来たライナスは、お見合いとかではなく確かに自然に出逢う感じにはなるんだろうが……どうなんだろうね。
「ジョイスの結婚式だってまだこれからなんだから、リンはそっとしておきなよ。もしかしたら結婚式の参列客に運命の出逢いとやらをするのかもしれないしさ」
「それ……っ!! とても素敵!」
ハンナが両手を胸の前で組んで目を閉じる。私より年上のはずなのに未だに夢見る乙女というか、なんというか。うっとりとした口調で語り始めてしまった。
「兄の結婚式で、ふっと目が合う二人。実は昔にも会ったことがある人とかで、数年ぶりとかの再会なのよ、きっと。初めは誰だか分からなくて話をしているうちに相手が誰だか気がついちゃって……。せっかくだからまた会おうとか約束をするの。懐かしくて昔の日記をひっくり返しているうちに、当時の淡い恋心とかを思い出しちゃったりして……」
はぁ、とか、ため息ついている。
こういう母を身近で見ているから、しっかりしているようでリンもまだ恋に恋しているみたいなことになっているのだろう。
まぁ、それはそれでいいような気はするけどね。変な男に引っ掛かるより、夢見ていてハードルが上がっている方がまだマシだと思う。
「……ハンナ、帰っておいで」
放っておくと延々妄想を語り続けそうなハンナの肩をポンポンと叩いて、私は呼び戻す。
ハンナはぱちりと目を開ければ、ちょっと照れ臭そうに微笑んだ。女の私から見ても可愛い。確か、今年五十歳なのに。ちょっと羨ましい。
「ちなみにリンって日記書いてるの?」
「んー、見たことないわ」
「そっか」
多分、あの子の性格的に書いてないような気がする。
それに昔、恋心云々なんてあったなら、変に思い切りのいい子だからその場にスパっと告白していそうだ。確認してみたら案の定、母親のハンナもリンが日記を書いているのを見たことがないなんて言っているし。
「ハンナ」
「うん?」
「リンはまだ放っておいておやり。それより花嫁衣装はもうできたの?」
私はゆるゆると首を横に振りながら、よく食堂を手伝ってくれるよしみでリンのために話題を変えてみたのだった。
番外編も含めて、最近ハンナさんがよく出て来てます。
この人もやっとキャラのイメージが固まったというか(物語もう後編に入っていますが……)
長いセリフはおっとりのんびりした口調で言ってるのを想像してください。早口ではないのがポイント。




