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ゆめみるおとめ

農家の娘さんリンの視点です。

女三代のしょうもない会話。


「兄さんもとうとう結婚かー……」


 テーブルでお茶を飲みながら刺繍をしていた私は、一度手を止め、ふぅぅと息を吐いた。

元々こういう細かいのはあまり得意じゃないんだよね。一応は出来るけど母さんや、ばあちゃんみたいにはまだまだ出来そうにない。手仕事より体を動かす方が向いているんだと思う。


「そうねぇ。あの子、大丈夫かしらね」

「大丈夫でしょ。大雑把なところあるけど。あ、でも、洗濯物その辺に放っておくなって言った方がいいかも」

「それは大事ね。シャツとか靴下とかよくその辺に落ちてるものね」

「うん、それで愛想つかされたら困るしさー」

「大丈夫だよ、きっと。爺さんもその辺にパンツ落としてたりしてたけど、私は最後まで添い遂げたからねぇ」

「じいちゃんってそう言う人だったんだ……」

「あらやだ、お母さん、コイバナしちゃいます?」


 同じテーブルで一緒に刺繍をしていた母さんとばあちゃんが顔を上げて、会話が始まる。

二人とも伸びをしているところを見ると、刺繍で疲れるのは私だけじゃないみたいだ。ちょっと安心する。

三人で縫っているのはこの村お揃いの衣装。深い緑色のスカートとベストに、白いブラウスとクリーム色の前掛け。ベストと前掛けにはたくさん草花の刺繍が入る。つい先日もエマやリチェの分を縫った後で、今度は兄さんの花嫁さん用。彼女は小柄だけどやっぱり子供用に比べると大きい。刺繍の量もかなり増えている。


「やだよ。恥ずかしい。……ジョイスが片付いたから、次はリンだねぇ」

「え、ばあちゃん、そこで私の話につなげるのやめようよ!? まだ出逢いすらないよ!」

「えぇぇぇ、リンまでお嫁に行っちゃったら寂しいわ~」

「だから、まだ相手に出逢ってすらないって!」


ばあちゃんのコイバナが聞けるかと思ったらこっちに話が飛んできた。

そりゃね、私だってカッコいい恋人の一人や二人欲しいけどさ。いや、二人は要らない。一人!

村によく来る人で、イケメンだなーって思っていたカイルは、実は怒らせるととても怖い人だったし、他に私とかと似たような年齢の人ってあまりいないんだよね。

戦乱期の生まれの私や兄さんはかなり珍しくて、特にその戦乱期後半生まれの現在二十歳前後……つまり私みたいなのはとっても少ない。多少は歳が離れていてもいいけど、おじさん趣味はないし、逆に若い子っていうと熊退治の頃に来ていたバーンたち……は、流石に守備範囲外だなぁ。元気で可愛いけどねー。


「んー、リドさんに、リンに合いそうな人いない?って訊いたら紹介してくれるかしらねぇ」

「あぁ、村長なら顔が広いから知り合いにいいのがいるかもだね」

「……私、お見合いより自然なのがいい……」

「どうせなら、お迎えが来る前にどっちのひ孫も抱けるといいんだけどねぇ」

「そうねぇ。私も早く孫を抱いてみたいわ~」

「ばあちゃん、本当、気が早いって。というかまだまだ長生きして!」

「ひ孫を抱けたらきっと長生きするよ」


 兄さんが打ち合わせだと言って食堂の方に行っているのをいいことに、母さんもばあちゃんも好き勝手盛り上がっている。

それでもしっかり手は動いている辺り、母さんもばあちゃんも偉い。私はツッコミを入れるのに忙しくて全然進んでない。もう何言われてもツッコミ入れたりせずに黙々と縫おう。そうしよう。


 私が返事をしなくなったら母さんとばあちゃんもそれ以上は私をからかわずに、明日の畑仕事の話をし始めた。

それを聞きながら私は少し考えてみる。

そもそもどんな人なら私は結婚したいんだろう。カッコいい人がいいのは譲れないけど、後は?

実はあまり想像がつかない。漠然と背中が大きな人がいいなーとか思ったりはするけど、それぐらい。後は、ここの村で一緒に生きてくれる人なら細かいことはあまり気にならないのかもしれない。

でも、なんで背中のイメージが……。


「あーー……」


 思い当って思わず声が出たら、母さんとばあちゃんがまた顔を上げた。


「何? 縫い間違えた?」

「あ、なんでもない。ごめん」


 慌てて縫い物に戻ったフリをして、顔を俯ける。

背中のイメージ、分かっちゃったよ。

父さんの、背中、だ。


 私は、父さんに会ったことがない。

私が母さんのおなかの中にいた頃に、父さんは母さんたちを守って命を落とした。だから私にとっての父さんのイメージは、母さんがたまに言う「父さんはカッコよかったのよ~」という言葉と、子どもの頃に兄さんが言っていた「でっかい背中におんぶしてくれた」なのだ。

少し歳が離れている兄さんは、子どもの頃、私をおんぶをしてくれた。そんな時によく父さんの話もしてくれたのだ。でも、兄さんにとっても父さんは小さな頃に亡くなってしまった人だから、どうしても話せる内容は多くなくて、結果、私は大きな背中の父さんの話を何度も聞くことになった。

前にグレンダさんがリドおじさんに背負われていたのを見て、あんな時だったのになんだか羨ましくなってしまったのも、きっとこのせいだ。


「なるほどなー……」


 つい呟いちゃったら、母さんがこっちを伺っているような目で見ていた。

今思ったままを言ったら、間違いなくばあちゃんと二人で弄り倒すのが目に見えている。私は、なんでもないと首を横に振る。こんな話したらぜーーったい喜んで盛り上がられてしまう。


「……お母さん、リンが変だわ」

「しょうがないよ、夢見る乙女のお年頃だから」

「そもそも乙女っていくつまでかしら。実は私も乙女だったりしない?」

「流石にそれは違うんじゃないかい?」


 母さんとばあちゃんが、また好き勝手なことを言っている。




 私の夢は、この村をもっともっと賑やかにすること。

今は、パウロさんの宿屋とグレンダさんの食堂、ダグラスさんの雑貨屋しかないけれど、今度パン屋さんが増える。

何年かかかるかもだけどもっとお店も増えたら嬉しいし、王都から遊びに来てくれる人も増やしたい。

グレンダさんがたまに作ってくれるスイーツのお店とかで、うちの果物や野菜をたくさん使って貰って、遊びに来た人たちにも美味しいって食べてもらいたい。

……でもって、出来たらそういうのを一緒に頑張ってくれる、かっこいい旦那さんも欲しい。


「まぁ、でも。順番的には私より先に……」


野暮は口に出しちゃダメだね。



これにておまけも含めて第四話完結です。

気が付いたらエピソード数も150を越えました。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。


次から第五話目に突入します。

そろそろ起承転結の転に入れるのかなーと思いつつ、相変わらず脳裏に降りてくるイメージを出力しているだけなのでどうなることやら。

この先もお付き合い頂けたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。


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