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子どもたちのゆめみるもの


 祭りの翌々日。

村の広場では見送りで人が集まっていた。

村を出る人は皆まとめて、まずはダグラスの馬車で王都まで行くのだという。

学校の寄宿舎に帰るデュアンをはじめ、外部に出ていた村人やイーブンなど久しぶりに帰ってきていた人など数人、それにイリアスとウルガ。

村の普段の住民が五十人程度なことを考えると、少なくはない人数だ。

いつもの商売にいくダグラスも、今日は乗せる人数が多いので大きい方の馬車を用意している。


 獣人騎士のウルガは、祭りの時にイリアスと意気投合したらしい。しばらく彼女の旅についていくのだそうな。

イリアスは、もふもふ尻尾と再会したと大層喜んでいて……なんていうか、ウルガは本当にそれでいいんだろうか。多分、一緒にいる間、ずっと尻尾を好き勝手にもふられるように思うのだけども。

ただ、イリアスの旅路が一人ではないことは少し安心した。私に心配される必要もないぐらい彼女は旅慣れていて、問題に直面しても上手くすり抜けてこられるだろうが、それでも一人ではやれることに限度がある。彼女の故郷、エルフの森は、この国を出て、更に遠い。ウルガがどこまで一緒に行くのかはわからないが、少なくとも一緒にいるうちは野宿の時も見張りを交代できるだろうし、何かあった時に助けてくれるだろう。


 学校に戻るデュアンはというと、母親のタニアにあれこれ世話を焼かれていた。

星送りが過ぎると夏も終わりだ。これから涼しくなっていくのだからこれも持っていけ、あれもとバッグに服を追加されている。当の息子はというと面倒臭そうに相槌を打っている。その様子を横で小さなニナを抱いたパウロが苦笑しながら見ている。


 イーブンは気軽なものだ。普段からよく村に帰ってきては、また出掛けてで、慣れているからというのもあるだろう。ダグラスの荷物を馬車に運び込むのを手伝っていた。多分、しばらくしたらまた帰ってくるはずだ。

 他の村から旅立つ人たちも、家族や仲の良い者とあれこれ話をしながら過ごしている。

ほとんどの者は、次に帰ってくるのは年末辺りだろうか。


「さて、そろそろ出発しますよー」


 荷物を運び終わったダグラスが御者席に座り、イーブンはごく自然にその隣に座っていた。

声をかけられて、他の人たちも馬車に乗りこんでいく。

私と一緒に見送りに出てきていたエマとリチェのところに、デュアンがやってきた。


「休みにまた帰ってくるから遊ぼうな!」

「うん、学校頑張って!」

「エマもな。リチェ、次帰ってきた時は雪合戦するぞー!」

「ゆきがっせん!!」


 にぃっと笑って姉妹に言い、リチェの頭をぐりぐりと撫でていった。すっかり仲良くなったみたいだ。

ゆきがっせん!!と興奮気味に言った後に、リチェが「ゆきがっせんってなぁに?」と姉に訊いている。リチェたちがいたフォーストンは王都よりかなり南だから、あまり雪が降らなかったみたいだ。


「グレンダ、約束、覚えてるね?」

「えぇ」

「なら良し。あぁ、そうだ、色々リドに話しといたからよろしく!」

「え……?」


 何を?と、思わず横にいた壮年マッチョを見上げる。

私の視線を受けて、にやりとリドルフィが笑った。


「しっかり聞いた。これから忙しくなるな。イーブン、ウォルターにしっかり伝えといてくれ」

「……はいよ」


 御者席のイーブンが苦笑いをしている。

もしかして、イリアスがリドルフィに伝えたのは、昨夜寝る前に話していたこと全てだったりしないだろうか。

祭りの最中にイーブンたちと話した学校をここに作る案とか、昨日リンが語っていたモーゲン観光地計画的な妄想とか。すぐに寝付けなかったからダラダラと話題に出したが、それがリドルフィに伝わったということは、真面目に実現を検討されてしまう。

 言うだけ言って馬車に乗りこんでしまったイリアスに、私は恨めしい目を向けた。その視線に気が付いたエルフが横に座ったウルガの尻尾を抱き込みながら、にまーと笑う。ウルガは……なんか悟りを開いているような顔になっているね。少しだけ同情した。


 よし、出発しますよー、と、ダグラスの少し間延びした声が響いて、私は指先をぱっぱと払い、姿勢を正す。


「旅立つ者たちに光の加護を。前を向く者たちにいつも良き風が吹きますように――……」


 韻をふむ。古い言葉の呪文を謡うように唱える。

辺りにふわりと清々しい風が吹いた。

ダグラスが手綱を操り馬車を出す。

見送る者、見送られる者が、それぞれに別れや再会の挨拶を口にし、手を振った。

門番のラムザが門を大きく開け、モーゲンの村から旅立つ皆に敬礼した。




「……で、イリーから何を聞いたの?」


 馬車が見えなくなり、皆がそれぞれにいつもの生活に戻っていく。

そんな中、リドルフィを捕まえて私は訊く。


「諸々、全部、だろうな、きっと」

「……」


 無精ひげが生え散らかっている壮年マッチョは、うむ、と頷いた。

ちゃんとした恰好をしたらそれなりに見られる容姿なのに、放っておくとすぐに山賊まがいになってしまう。しっかり清潔にしていてくれるのだけは救いだが、髪といい髭といい、無造作にもほどがある。

さも分かっている風に頷いたリドルフィに迫ると、私は遠慮なくだらしない髭を引っ張った。

いてっと悲鳴が上がるけれど知らない。いっそ、この髭をむしったら気持ちいいかもしれない。


「イリアスがな、いいんじゃないかって言っていた」


 本気で痛かったらしく、私の手を自分の髭から放させながらリドルフィが言う。


「何が?」

「学校をここに作るのも、広場をもっと洒落た感じにするのも」

「本当に全部聞いてそうだね……」


 ふんと鼻を鳴らした私に手を返しながら、リドルフィはいつものように人の頭を撫でる。なんとなく、さっきデュアンがリチェにやっていたのに似ていて、ちょっと複雑な気分になる。


「村の皆でそういう夢を一個ずつ叶えていくぐらいがいい、その方が自分も長く見守れる、一個ずつ叶えながら、もっともっとと貪欲に生きろ、だそうだ。……彼女からしたら俺らも子どもみたいなもんなんだろうな」


 イリアスがいくつなのかは知らない。

エルフとしては若いと言っていたけれど、それでもきっと私の何倍も生きている。

リドルフィが言うように、彼女からしたら私も子どものようなものなのかもしれない。普通の人とは違うモノを文字通り背負ってしまった、危なっかしくて放っておけない子ども。

友人だと言ってくれる彼女は時々、私をひどく優しい目で見つめていたりする。あれは、もしかしたら彼女なりの母性のようなものなのかもしれない。


「……いいんじゃないか?  聞いた時、俺も面白いと思った」


 そう言って、リドルフィは突然しゃがみ込む。

何をするのかと思ったらいきなり私を抱えあげた。抱き上げた、ではなく、抱えあげた、だ。人の太もも辺りを抱くようにして一気に。


「うわっ 何っ!!?」

「そのため、俺もお前も長生きするぞ。くたばってる暇なんてないからな!」


 私は慌てて壮年マッチョの頭にしがみつく。わははと楽しげにリドルフィが笑った。その笑い声に周りが振り返り、また村長が何かやってると笑ってみていたり、子どもたちが自分も高い高いしてとわらわら寄ってきてみたり、その子どもたちを慌ててエマやノーラたちが追いかけてきたり。


モーゲンは今日も長閑で平和だ。


……ご機嫌なリドルフィが私を下ろしてくれたのは、かなり後になってからだった。


第4話本編、これにて完結です。

この後にいつものオマケシーンがありますが。ここまでお付き合いのほどありがとうございました。

第3話に比べると割と平坦で穏やかだった第4話、中々エンジンがかからなくて序盤は何を書けばいいんだろうとかなり悩みましたが、なんとか形になって良かったです。


書いているうちに随分と現実と季節がずれて来てしまい、途中でどうしても季節ネタが書きたくなってこぼれ話として短編も始めてしまいました。

まだ見てないよと言う方、もし良ければそちらも読んでやってくださいな。


ここまで書くのにたくさんの方に支えて頂きました。

いつも読んでるよとさりげなく伝えて下さる方、私のおバカなミスを見つけて誤字報告を下さる方、いいねやブックマークでこっそり応援して下さる方。

本当にありがとうございます。

一人だったらここまで続けられていなかったと思います。


第5話目ではやっと季節は秋になりまして、物語がもう少し動く予定です。

過去に出してしまった伏線のいくつかもそろそろ回収したいなぁ。

相変わらず稚拙な文章ですが、もし良ければこの先もお付き合いくださいませ。

どうぞよろしくお願いいたします。

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