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子どもたちのみるもの25


 料理を持って村の門へと行けば、ラムザとイーブンが仲良く門番をしていた。

元々イーブンはこの村を立ち上げて数年はここに住んでいたからね。ラムザも初期からのメンバーの一人だ。付き合いは長い。

ラムザの方は戦乱期に足を負傷し、その場に神聖魔法の使い手が居らず治癒が遅れた結果、一線を退くしかなかった。それでも、今も剣の腕は確かだ。

左足の踏ん張りがきかず、長い時間立っていたり山道などを歩き回ったりは厳しい。しかし、昔取った杵柄と負傷後の本人の努力で、短時間であれば今でも人並み以上に戦える。村を作る時にリドルフィが門番にスカウトしてきて、以来ずっとこの村を守ってくれている。


「お。料理がきた!」

「お手間をかけまして。グレンダ、ありがとう」


 門横の詰め所の外で腕相撲をしていた二人は、私を見つけて手を振ってくれた。

もう長い付き合いだというのに、ラムザの方は今日も丁寧な口調だ。口数は多くないが、穏やかな声と口調はいつ聞いても安心する。


「祭りだってのに、オアズケになってたんだね、気づくのが遅くてごめんよ」

「本当は適当に交代しながら祭りに行く予定だったんだがね」

「事情が事情ですし。でも、ここでも音楽や笑い声が聞こえて、これはこれで良いですよ」

「そんな風に言ってくれるのはラムザだけだよ」

「違いないな」


 腕相撲に使っていた樽に籠から料理の皿を出し、ハーブティーのボトルとコップも置けばイーブンの目が輝いた。


「……お茶だよ」

「……」


 がくっと分かりやすく項垂れる。門番が酔っぱらっていたら仕事にならないからね。


「リドから酒はもって行くなって言われてしまったからね。……明日にでもしっかり飲むといいよ。ダグが大量に仕入れたからまだまだ残っているよ」

「そうする。ラムザ、明日はがっつり飲むぞ」

「ご相伴に預かります」


 よし、今は食べるか、と、イーブンが早速食べ始め、ラムザはまずハーブティーで喉を潤している。

性格はかなり違うが、仲はいい。


「そういえば、イーブンは村にはもう戻らないの?」


 彼がほうれん草とベーコンのキッシュに齧りついている様子を眺めながら、なんとなく訊いてみる。

イーブンは自宅を作る前に村を出てしまったが、ラムザの家が一人で暮らすには少し広かったはずだ。いっそ二人で住めばいいんじゃないかと思ったりする。


「んー、昔と違って、この辺は狩らなきゃならないようなのが減ったからなぁ」

「全体的に治安も良くなったし、しぶとく残っている盗賊とかもリドさんに怯えてここにはもうこないですからねぇ」

「もっと歳とって冒険者引退したら、戻って農家の手伝いでもさせてもらうかな。冒険者ギルドから教官にならないかなんて誘いも貰っているが、こっちの方が気楽だしなぁ」

「いっそ、モーゲンに冒険者の養成所を作るのはどうですかね」


 何年先の話になるやら、なんて言っているイーブンに、ラムザがサラダを飲みこんでから面白いことを言い出した。


「弓はイーブンが教えればいいし、剣は私とリドさん、魔法はグレンダと誰か王都から呼べば」

「あー、それいいな。ダグに言えば調薬とかも教えられそうだ。カエルで演習もできるな」

「……それは楽しそうではあるけれども」


 しかも、話したらリドルフィが本当に実現させてしまいそうだ。

あの人は面白そうなことがとても好きだから。王都からの距離もほどよいし。


「……リドに言うのはよーく考えてからにしておくれよ。あの人、絶対面白がるから」

「だな。冗談で言ったつもりが現実になりかねん」

「めちゃくちゃ行動力ありますからねぇ……」


 そう言えば、ここに村を作ることを決めた時もそんな感じだったように思う。

思い出してしみじみしていれば、ラムザに指摘された。


「グレンダ、いつまでもここに居て大丈夫なのですか?」

「あ、そろそろ戻らないと。……泊っていくとか聞いてはいないよね?」


 言わずと知れた、やんごとなきお方の話である。


「適当なところで帰られるはずだが。流石に国王を宿や村長宅に泊める訳にもいかんだろ」

「だよね」


 ほっと胸を撫でおろした。

これで泊っていくなんて話になったら、明日の朝食に何を出すのかとかで悩まなきゃならない。

不意打ちを突かれた今夜についてはともかく、事前に分かっている状態であのお方に出せる料理など、私には作れる気がしない。私も料理人の端くれではあるけれど、王宮料理とうちで出している家庭料理じゃあまりに違いすぎる。


「お皿とかは籠に入れて後で返してね。門閉めるのが遅くなるようなら明日にでも」

「了解です。差し入れありがとうございます」

「人の世話焼いてそうだが、グレンダも楽しむんだぞ。ありがとうな」

「はいはい。それじゃ、こっち頼むね」

「任せとけー」

「承りました」


 来た時同様、手を振って見送ってくれた。

さて、そろそろ料理は大体はけたかしらね。

というか、彼のお方はまだテーブルの近くにいたりするのだろうか。気さくに話しかけて下さるけれど、私からしたら雲の上の存在だ。どうしても緊張してしまう。いざとなったらリドルフィをつついてまた逃がしてもらおう。そう心に決めて、私は広場へと戻るのだった。




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