子どもたちのみるもの24
今年は村の外の知り合いにも早めに知らせていたのか、外部からの客も多い。
そのことに少しだけ気を張ってもいたのだが、会ってみればほぼ全員、顔見知りだった。
用意した料理もいいペースで減っていっている。
自分のペースで飲み食いしている人、こちらの様子を見て挨拶に来てくれる人、どちらも嬉しい。
ダグラスはクリスと話した少し後やってきて、料理を盛った皿を持って売り物のワゴンの方へと戻っていった。……今夜はそんなに売れないんじゃないかと思う。みんな、祭りを楽しむのに夢中で、土産物などは明日の朝や帰る頃の方が売れそうな気がするんだけども。
イーブンとリドルフィは、相変わらず姿が見えない。
乾杯の音頭を取った後からだから、もう小一時間ほどか。心配する必要はないとは思うのだけど、気にはなる。断じて私が淋しいとかではない。
「こんばんは。そのパイを一つ頂けるかい?」
「はい。ミートパイだね!」
残っている料理を、大皿から保存しやすい蓋つきの容器に移す作業をしていれば、声をかけられた。
相手の顔も見ずに、そのまま言われた通りに皿にミートパイを取り分け、差し出して……。
「へ、陛……っ!!?」
思わず声が出たところを、横から来た男の手に口を塞がれた。
私が差し出した皿を受け取り、目の前の人物はにこやかに笑む。
背の高さは標準ぐらい。歳の頃はリドルフィよりもう少し上。元は鍛えていたことが窺える体躯だが、剣を握らなくなって久しいのだろう、そんな容貌の男性だ。
顔見知りである。いや、顔だけなら知っている人も多いだろう。私は、何度かは食事をご一緒させて頂いたこともあるし、直接お言葉を貰ったことも何度かあるような、そんな間柄だが……なんで、今、こんなところにいらっしゃるのか。
「ありがとう。美味しそうだ」
「……」
口を塞がれてしまっているので、とりあえず目で頷くような形で返事をする。
手を離しても私が叫び出さなそうだと判断した手の主は、私の肩を抱いた状態で、やっと解放してくれた。
「すまん。先に知らせようとしたら止められた」
「せっかくなら皆と同じ料理を食べたかったからね」
そう言って、美味しそうに皿から手掴みでパイを口に運ぶ貴き方を、私は一瞬見守ってしまってから我に返る。
「あの、毒見とかは……!」
「みんなが散々食べているし、グレンダが私に害を成すとも思えないからね。それよりお忍びだから普通の友人として接して欲しい」
「……だそうだ。グレンダ、諦めろ」
私の肩を抱いたまま横にいるリドルフィが、首を横に振る。
リドルフィの姿が見えなかったのは、この方の所為だったかと遅れて納得する。
斜め後ろに控えている侍従らしき人を見れば、申し訳なさそうに目で謝られた。
お忍びと言うだけあって、目の前のお方は騎士っぽい服装をしているけれど、本人から漂う雰囲気からやんごとなき方だとバレるのも時間の問題のように思う。
「先日呼びつけてしまったのにこちらの都合で会えなかったから顔を見に来たんだ。少し見て回ったけれどこの村も大きくなったね。……どうせならリドから聞いていたグレンダの料理も食べてみたくて今日にしてみたんだよ」
「あの時は挨拶も出来ず失礼いたしました。……えぇっと、お口に合えばいいのですが」
「敬語。友人にもそんな口調?」
困って思わずリドルフィを見上げる。目を逸らされた。どうしろと。
助けてくれと横腹をつついたら、仕方ないという風にため息をつかれた。ため息をつきたいのは私の方だ。
「エイディー、グレンダがかなり困っている。からかうのはほどほどに。グレンダ、イーブンとラムザが門で念のため警備についているから料理を届けてやってくれ。酒はなしで」
「イーブン、姿が見えないと思ったら……」
頼まれたので取り皿二枚に料理を取り分け始める。
それを見て、リドルフィにエイディーと呼ばれたお方が、それも欲しいなと言うのでグリルポークを切り分けて給仕する。ついでだからと彼の従者にも料理を勧めておいたところ、従者は自分の取り皿にも料理を取りつつ、主にもいろいろな料理を皿に盛っていた。二人とも中々いい食べっぷりで……私は更に輪をかけて困惑状態に陥る。だって、やんごとなきお方がこんなところで自分の料理を力いっぱい食べているなんて、ちょっとどうして良いか、わからない。料理の説明を求められたから応えてはいるが、自分でもびっくりするぐらいしどろもどろだ。敬語と丁寧語と砕けた口調が混ざってめちゃくちゃになっている辺り、かなり動揺している。
ちなみに、さっきまで料理を取っておいてやるか迷ったリドルフィは、自分でとるだろうから放置だ。正直そこまで気を回す余裕は、今の私にはない。
「聞いていた通り、グレンダの料理はおいしいね。このトマトの煮込みとかとてもいい」
「ありがとうございます。村の食材が良いおかげだと思います。……ちょっと頼まれた料理を運んできますね」
「あぁ、いってらっしゃい」
イーブンとラムザの二人分の料理を、少し大きめの取り皿に取り分け終われば、少しほっとした。私は、早々に門へと運んでいくことにする。
お酒はダメと言われているので、代わりに冷たくしたハーブティーの入ったボトルとコップも籠に入れる。料理だけだと喉詰まりするかもだからね。
一度貴族がするみたいなスカートを摘まんでの礼をすれば、笑顔で送り出して貰えた。
……イーブンたちに料理を持って行くように、は、リドルフィなりの助け舟だったのだろうけれども。動揺してしどろもどろになっている私を面白そうに見ていたよね。後でしっかり話を聞かせてもらわねば。




