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子どもたちのみるもの20


 びっくりしたままテーブルクロスを取りに食堂に戻れば、リンが心配していた。


「グレンダさん、なんか叫んでいたけど大丈夫?腰でもやった?」


 普通に歩いているけど、痛い?とか気遣われて、そうじゃないと首を横に振る。

厨房から顔を出したエマも駆け寄ってきた。健気に、「重いものは私が運びます!」とか言ってくれているけれど、そういうわけではないよ。


「腰は大丈夫だよ。……そうじゃなく。ジョイスが」

「あーー……」

「……その顔はリン、知っているんだね?」

「ごめんなさい、答えられないです」


 兄さんに口止めされてます、と、ふるふると顔を横に振る。


「でもまぁ、グレンダさんに言ったってことは、やーっと決まったんだね。よかった」

「うん、まぁ、良かった……のだろうけども」


 さっぱり話が見えないらしいエマは首を傾げて聞いていて。リンは何やらほっとしたような顔をしている。

この分だと私の知らない話があれこれあるのだろう。リンを問い詰めても仕方がないからこれは後のお楽しみだね。


「そろそろ揚げ物始める?」

「いや、もうちょっと後かな。それは最後。先にパイとグリル焼きをオーブンに入れてしまって」

「分かった」

「エマはお皿とかを運ぶのを手伝ってくれる?」

「はい」


 先に用意しておいた大きなテーブルクロスなどを私は手に持ち、エマにはまず小さな花瓶などが入った籠を持ってもらう。

もうしばらくは食堂を出たり入ったりだ。いってらっしゃい、とリンが厨房の中から送り出してくれた。


「重くない?」

「大丈夫」


籠は、小柄なエマが持つと少し大きく見えた。思わず確認すると、エマは「私、力持ちだから大丈夫」と胸を張って言ってくれた。

確かに、時々妹のリチェを抱っこしていたりもするので、見かけよりもかなり力持ちかもしれない。

二人で、カチャカチャ音を立てながらさっき設置したテーブルに運んでいく。


「フォーストンでもお祭りとかはあったかい?」

「んー、あったけれど、モーゲンのお祭りとはかなり違うかもです」

「そう。うちのお祭りは、うちの皆が好き勝手決めていったからねぇ」


 さっきジョイスとの話に出てきた祭りを始めてやった頃を思い出す。

星送り自体は他の地域にもある一般的な季節行事の一つだが、それを食べて飲んでの、この村独自のお祭りにしてしまったのは、うちの古株の面々だ。

しかも、年々少しずつ規模が大きくなっている。今年は吟遊詩人まで呼んだらしく、広場の真ん中あたりでリュートの調弦をしている姿が見えた。……確かに音楽があるのは盛り上がるけれどね。


「賑やかそうで、楽しみです」

「そうだね。……もうちょっとだけ頑張ってちょうだいね。そしたら、後はお楽しみの時間だから」

「はい!」


 テーブルに着いたら、籠を置いて貰ってまずテーブルクロスを敷くことにする。四つのテーブルを丸ごと覆うことができる大きなものだ。当然一人では扱いきれないので片側をエマに持ってもらって二人で広げる。青い空の下、白と黄色のギンガムチェックのテーブルクロスは綺麗に映えた。

空気をはらんでふんわり広がったテーブルクロスを、しっかりテーブルに着地させ、その上に籠に入れて持ってきた花瓶を並べる。風でクロスが飛んでいかないようにの重し、だ。


「飾るお花は、リチェ達がもってきてくれるんですよね?」

「うん。今頃あちこちで摘んでるはずだよ」

「……なんか、ちょっと懐かしいです」


 花を摘むことが、と少女が笑った。

私と出会うまでは、摘んだ花を花束にして売って、お小遣いを稼いでいたエマたちだ。その頃から考えたら生活は随分変わったはずだ。姉妹二人で見知らぬ土地で見知らぬ人たちに囲まれて、それでも順応しようと毎日頑張ってきた少女の頭を、私は優しく撫でる。


「リチェは、あの時教えた薬草とかまだ覚えているかしらねぇ」

「覚えてると思う。他のも随分覚えたから色々混ざってるかもだけども」


 ちびっ子たちが摘んできたお花をすぐに活けられるよう、小さな花瓶に魔法で水を追加しておく。

一個やってみせたら、残りはエマがやってくれた。

率先して働こうとするのはここに来た頃と同じだけど、ここ数日は、以前のような気負いはあまり感じられない。むしろ私が二個目をやろうとしたら、横からすっと先にやってからちょっと悪戯っぽい顔で笑ってくれたりする。いい傾向だと思う。


「グレンダさん。……グレンダさんはお祭り楽しい?」


 一度戻って料理を取る為のお皿を二人で運んでくる途中、エマが訊いた。


「ん? 楽しいよ。なんで?」

「準備大変だったし……後は、大人になってからもお祭りって楽しいのかな、って」

「……んー、そうだねぇ」


 籠で運んできたお皿をテーブルに移しながら考える。

多分、これはちゃんと答えなきゃいけない、そんな気がした。


「大変だけど、みんなが笑ってくれて楽しくしてくれているのを見るのが嬉しい、とか、そんな感じかもしれないね。楽しいとはちょっと違うのかもしれないけれど」

「……私が、リチェが笑ってると嬉しいのと同じ?」

「うん、きっとそんな感じだね」


 空になった籠を持って食堂に戻りながら、頷く。

エマはそんな私に歩調を合わせてついてきながら、そっかーと相槌を打った。


「私も、グレンダさんぐらい大人になったら、リチェ以外にもそんな風に思えるようになるのかな」

「どうだろうね。そこは人それぞれだろうし。でも、エマは人が喜んでいると自分も幸せな気持ちになれる人になりそうだね」

「……そうかな?」

「うん」


 そう見えると頷けば、少女は照れたように笑った。

人を幸せにして、自分も幸せになる、そんな人にきっとこの子は育っていくんだろう。

優しくて妹想いで、頑張り屋な女の子。

願わくば、この子が育っていく様子をずっと見守っていたい、そう思った。




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