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子どもたちのみるもの17


 リチェを泣かしてしまったあの日から、何かが少し変わった。

姉妹の行動もだし、私自身も、だ。

まず、朝起きておはようの挨拶には、ぎゅーっとハグが追加された。

リチェが当たり前のように抱きついてきて、びっくり半分照れくささ半分で私も抱き返したら、きらきらした笑顔が返ってきた。

少し恥ずかしげなエマにも両手を広げて、おいでと促したら、ぎゅっと抱きついてくれた。お互いに照れながらのぎこちないハグが可笑しくて、つい笑顔になる。そこに「わたしもまざる!」とリチェが二人の間に入り込んで、押しくらまんじゅうなった。ぎゅうぎゅうと抱き合うのが可笑しくて、気が付いたら三人で笑い合っていた。


 それをきっかけに、リチェが何かにつけて抱きついてくるようになった。

どこかに行く時、帰ってきた時、挨拶のついでとか、何もない時でもやってきては、ぎゅーっと抱きついて、満足してまた遊びに行ったりする。

流石に厨房の中や食堂の仕事中は危ないから止めたけれど、それ以外は好きにさせている。

時々、私の方から両手を広げてあげると大喜びで走ってきて抱きついてくれる。

ごく自然にそうしてくれるから、私も方まで自然とリチェに触れることが増えた。

 エマは、年齢的な恥ずかしさもあってリチェほどではないけれど、やっぱりスキンシップが増えた。あと控えめながら笑いかけてくれるようになり、他愛もない雑談も増えた。

どこか痛々しいまでに感じた気負いもなくなり、少し肩から力が抜けた感じだ。

躊躇いがちにも自分から話しかけてくることも増えたし、自分からこうしたいと主張してくれることも増えた。

……今まで、やっぱり負い目に思って、私にかなり気を使っていたんだね。

これからはあまり我慢させないようにしっかり見ていこうと思う。




 そして、星送りの前日。

お昼後、遊びに出掛けるエマに声をかけた。

ちなみに、リチェは少し前に私にぎゅうぎゅう抱きついた後に、さっさとトゥーレと走っていってしまった。今日もとても元気だ。


「エマ、明日は遊べないから今日はたっぷり遊んでおいで」

「いいの? ……明日はお祭りだから?」

「うん。明日は朝から星送りの準備で忙しいからね。星送りがおわったらデュアンも学校に戻るから、今日のうちにいっぱい遊んでくるといいよ」

「そっか……わかりました。グレンダさん、ありがとう。いってきまーす!」

「いってらっしゃい。気を付けるんだよー」


 リンのお下がりの、短いキュロットに袖の小さなシャツを着て、大きな麦わら帽子。

夏の終わりの日差しに負けないぐらい眩しい笑顔で妹を追いかけて走っていく。

多分、元々は体を動かすのが好きな子だったんだろうね。デュアンも合流して楽しそうに駆けっこになっている。

今日は畑の横の水路で遊ぶと話していた。多分、ちびっ子たちと一緒に小魚をとってみたり、水遊びをしたりと、夏らしい遊びをするのだろう。ちなみに、本日の子どもたちのお守り役は、昨日村に帰ってきたイリアスだ。意外と面倒見がいい。


「エマ、元気になったねぇ」


 私と一緒に子どもたちを見送っていたリンがしみじみ言う。

多分、彼女なりにエマのことを心配し、気にかけて見守ってくれていたのだろう。


「うん。あれが多分あの子の地なんだろうね。……ちょっと昔のリンに似てるね」

「そう?」

「うん。気を使うところとか、でも、すごく元気なところとか」

「私、そんなに気使いする方じゃないよ」


 私は笑って、リンの頭を撫でた。

リンは撫でられてびっくりしたようで一度目を丸くし、それから擽ったそうに笑う。

やってしまってから、私もちょっとびっくりする。リチェやエマにやっていたから、リンにもついやってしまった感じだ。昔はリンやジョイスも結構撫でていた気がするのに、随分久しぶりな気がする。

そんなリンも、気が付けば私よりも背が高くなっていて頼もしくなった。今では彼女もすっかり大人だ。


「さぁて、あの子たちが遊んでいる間にやっちゃおう」

「そうだね。リン、手伝ってくれてありがとうね」

「お安い御用だよ。……手伝うとオヤツ出るし!」


 二人揃って食堂の中へと戻る。

最近はエマとリンが手伝ってくれるおかげで、夕飯の仕込みも午前中に終わってしまうことが増えた。

今作っている最中のパン工房が村にできれば、更に楽になるのかもしれない。

私はこの空くようになった時間を使って、少し前から縫い物をしているのだ。それも結構手間のかかる感じの刺繍である。

普通なら、外仕事が出来なくなる冬場などにやる手仕事なのだが、今回は急だったので夏場の今やっている。

エマとリチェの二人分の、この村の衣装。花の刺繍の入ったベストにスカート、それに飾りエプロンのセット。二人にはまだ内緒だ。

初めは一人でやっていたのだが、この分だと星送りまでに間に合わないと悟り、リンや村の女性たちにこっそり助けを求めた。

昼過ぎの私たちしかいない食堂で、テーブルに裁縫道具を広げてちくちく縫う。

村の皆が祭りとして衣装を着るのは明日。もうほとんど出来上がっているがまだ細かな仕上げが残っている。


「きっと二人とも喜ぶね」

「……だといいね」


 明日、無事二人に渡せたら、手伝ってくれた皆にお礼を言いに行こう。



衣装はスウェーデンの民族衣装をイメージしました。

刺繍を施された青地のベストとスカートに黄色いエプロンのあれです。

作中では青ではなく深緑色にクリーム色かな。森をイメージした可愛い衣装です。

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