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子どもたちのみるもの15


 村に帰ってきたのは、日が暮れてしばらく経った頃だった。

行きと同じくリドルフィの馬に相乗りである。

暗くなってからの道中だったが、少し先を照らす光を魔法で出してやることで、馬は夜道を素直に走ってくれた。夜行訓練もしっかり積んでいるのだそうだ。

確かにこういう訓練は村のノトスのところではやっていない。軍馬として必要な経験を積ませるために騎士団に預けていたというのは納得する。

そして、そういう馬が必要だと周りから認識されているリドルフィが、村にいない時に何をやっているのかが少し気になった。……が、多分、聞かない方がいいような気もする。さっきの王宮内でのことも含めて、長年一緒にいるのによく分からないところも多い人だ。思い返せば、子どもの頃からそういうところは多分にあった。聞いても毎度はぐらかされるし、知らないことで困ることもあまりなかったから何十年とほったらかしだけれども。

 村に着けばすぐに食堂のある広場の方へは行かず、そのままノトスの馬房にシュバルツを預けて、その後は二人でのんびり歩いて戻る。

空にはもう星が瞬いていて、風も涼しくなってきている。

村の家々からは柔らかな明かりが零れていて、なんだかほっとした。

半日いなかっただけなのに、帰ってきた、という感じがする。

すっかり見慣れた左右非対称の三角屋根の建物からもカーテンを引いた窓から温かな明かりが零れていて。つい早足になる。最後の方は小走りになっていた。


「ただいま」


 扉を開ければ、食堂内の人たちの視線がこちらに集まった。


「おかえりなさい!」

「おかえりー」

「グレンダ、遅かったですねぇ。お疲れ様です」

「家主が帰ってきたぞー」

「おかえり」

「おばちゃん、バイト代出してー!」


 みんな口々に迎えてくれた。こんなパターンはあまりないから少し照れる。


「バイト代?」


 見れば、デュアンがエプロンを付けて給仕を手伝っている。厨房の中にはリンがいて……。

この時間帯は給仕しているはずのエマが、少し申し訳なさそうにカウンターの近くにいる。どうした?と訊こうとしたところで、ぼふっと私の腰に何かが当たった。


「おばちゃ……っ!」


 びっくりして振り返ると、リチェがぎゅーと抱きついていた。顔を見ようにも私の腰にしがみついて頭をぐりぐりしていて、全く見えない。


「リチェ?」

「暗くなっても帰ってこないから不安になっちゃったんですよ」

「そうそう。まだ帰ってこない、今日はもう帰ってこない?ちゃんと帰ってくる?って。少し前ぐらいから、ねぇ」

「……すみません」


 返事をしないリチェの代わりに、エマの近くに座っていたダグラスが言う。

厨房からリンが補足のような言葉を足した。

謝っているのはエマだ。多分、リチェを宥めるのに手いっぱいになってしまった結果、食堂の手伝いが出来なかったことに対してだろう。


「ってことで、俺、大活躍!」


 褒めていいぜ、とか言っているのはデュアンだ。

エマの代わりに食堂を手伝ってくれていたようだ。


「そう。すまなかったね。ありがとう」

「それじゃあ、礼にデュアンには明日稽古をつけてやろう」

「それ、礼じゃなくてリドのおっちゃんがやりたいだけだろっ!?」


 追いついてきたリドルフィが笑いながら言った言葉に、デュアンが悲鳴を上げた。

確かにバイト代の代わりが稽古ではちょっと可哀そうだ。後で何か考えてあげねば。

でも、今はそれよりも。


「……リチェ。ただいま。遅くなってごめんね」


 しがみついているリチェの背中をぽんぽんと叩いて、少しだけ力を解いて貰う。

私はその場でしゃがんで、リチェと目の高さを同じにした。

やっと顔を見ることが出来た幼子は、涙でぐずぐずくしゃくしゃの顔になっていた。


「おばちゃっ、おそいぃ……っ」

「そうだね、もう真っ暗だものね、ごめんよ」


 涙を拭いてやる間もなく、首に抱きつかれる。うあぁぁぁん、と声を上げて泣きはじめた子を抱き上げて、私はその体を揺すりながら背中を優しく叩く。

遅くなった自覚はあったけれど、正直ここまで泣かれるとは思っていなかった。そっか、この子にとって私は必要な人になっていたんだ、と今更のように思い知る。

完全にぐずり始めてしまったリチェをあやしていて、ふと気が付く。リチェがこうなっているということは。自然と姉のエマの方に視線が向いて、少しほっとしたような、でもちょっと淋しそうな表情を見つけた。

私は、リチェを抱いたまま食堂の中を横断して、エマのところに行く。


「エマも、ただいま。お留守番ありがとう」


 自分のところに来た私を見上げてエマが大きく目を見開いた。私は笑んでみせて、なんとかリチェを片手で抱けばエマの頭をゆっくり撫でてから、抱いたリチェごとエマも抱き寄せる。エマはびっくりして一度は体をこわばらせたけれど、その背をさっきリチェにしていたみたいにぽんぽんと何度か叩いているうちにそのこわばりも解けた。


「……おかえりなさい」

「うん、ただいま」


 私が聞き取れるぎりぎりぐらいの小声で言われた言葉に、私は頷く。

一度視線を上げれば、時計は普段リチェが寝る時間を指していた。そのままリンを見れば、うんうんと頷かれる。


「リン、悪いのだけど、頼んで良い?」

「もちろん! エマもリチェも今日、すごーく頑張ったからたくさん褒めてあげて」

「わかった」

「俺も、俺も!」

「デュアンは俺が褒めてやろう」

「えーー……」


 デュアンとリドルフィが漫才みたいなことをやっている。

エマを抱き寄せていた手を解いて、リチェを抱え直す。


「リチェ、みんなにおやすみ、ってしようか」

「……おやすみなさい」

「はい、よーく寝るんですよ。」「リチェちゃんもエマちゃんもおやすみー」


ダグラスや村人たちがひらひら手を振っている。

まだ半分泣いた顔でリチェがそれに応えて手を振り返した。エマもおやすみなさい、と挨拶をした。

みんなに見送られて、リチェを抱いたままエマを連れて二階に上がる。

なんだか擽ったいような、ちょっと照れるような、だけどなんだかぽかぽかするような。

不思議な感覚に、二人には申し訳ないけれど、私は自然と笑っていた。



このシーンを書きたくて外出させてたという。(なのに上手く書けてない気がする悲しみ。)

家族って、一緒に住み始めたらすぐなれるものではなくて、たくさんの時間を積み重ねて、ゆっくりなっていくものなんだと思うのです。

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