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子どもたちのみるもの13


 神樹の森の扉から、リドルフィに導かれるままに歩く。

来る時に通った行政区画などのずっと手前で違う道に入ってしまったので、正直、自分がどこにいるのかはよく分からない。

ただ、明らかに調度品などは普段見るようなものとは質が違う。どう考えても事務的な区画とは違う気配に、私は少し及び腰になる。一応、私もそれなりにお偉方にも会ったことはあるけれど、私自身は貴族ではないし、普段貴族様と交流するようなこともない。例外のラン兄こと、騎士団長ランドルフだって親しくはして貰っているが、若い頃ならともかくここ最近はせいぜい年に一回会うかどうかだ。

……そんな私からすると、今いるところはかなり場違いな気がして落ち着かない。

表には出さずとも慄いているのがバレていたらしく、エスコートしていたリドルフィが小声で言う。


「……今からでも抱き上げるか?」


 声に面白がっている響きを聞き取り、私は、じとりとした目を向ける。

その視線を涼しい顔で受け流して、壮年マッチョはやっぱりゆったり慣れた様子で歩いている。なんだか悔しいので彼の腕に絡めた方の手の肘で脇腹を押しておいた。……びくともしない。

疲れているのに割と上層の階まで連れてこられて、ここだと言われた部屋に通された時には、真面目に運んでもらうべきだったかと思い始めていた。

 通された部屋は、広かった。

控えの間があり、応接室があり、更に向こうがやっと居室。

好きに使っていいぞと言われても、置かれている家具も調度品も一級品にしか見えなくて、気が休まらない。部屋を用意してくれていたらしいメイドは、リドルフィと一言二言交わしたら、そっと退室してしまった。それだけはちょっと助かる。昔、王城にしばらく滞在していたこともあるが、それでもメイドさんがいる環境になんて慣れてない。リドルフィ一人だけならともかく、庶民の私はメイドさんに世話を焼かれながらでは気になって休めそうにない。

そんなわけで、借りてきた猫のごとく、ソファの端っこに小さくなって座っていたら、リドルフィが笑った。


「……よーく見てみろ」

「ん?」


 促されて、改めて室内を見渡す。

私でも物がいいとわかる調度品ばかりが置かれているが、室内にあるのは必要なものだけ、色合いなども落ち着いているし、装飾品も多くはない。

この感じは知っている気がする。知っているというより、とても身近で。

あぁ、そうか、ここは置いてあるものも広さも違うのに、村にある彼の部屋にどこか似ている。

私が何かに気が付いたのが分かったらしく、男は満足そうに笑う。


「俺の部屋だ。だから安心して休め」

「……なんで、王宮内にまで部屋を持ってるのよ」

「んー、俺だから、だろうな」


 全然返事になっていないことを言う。

長年一緒にいるけれど、こういうところはよく分からない。底が知れない。

大方、こちらでも何かと仕事があり、泊まらねばならなくなることもあるから用意されてしまったとか、そんな感じだろうと納得は出来るのだけども。

 リドルフィは、肩書的にも能力的にも王都でそれなりに力を持っている。

今はもう表立って使うこともなくなった聖騎士という肩書。それを使わなくてもお偉方と当たり前に飲み交わすぐらいには顔が効く。

冒険者ギルドや騎士団営舎にもかなり出入りしているが、さっきの様子からすると王城にも同じか、それ以上の頻度で出入りしているようだ。

 ただ、今の一言で、私は確かに少し落ち着いた。

彼の部屋なら多少やらかしたとしてもなんとかしてもらえる。ここは、私が休んでも大丈夫な場所、だ。


「お茶でも飲むか?」

「……ううん。それより、少し目を閉じたい」

「わかった」


 神樹の森と現世とのギャップに、心身ともにあちこちがついてこられていない。視界がちらつくし、音も煩わしい。頭痛がする。貧血に近い軽い吐き気までしている。耐えられなくはないが、出来るものならしばらく何もしたくない。

症状を聞かれて、淡々とそんなことを説明する。

リドルフィの方も必要以上に心配するそぶりもなく、事務的な聞き方だ。それがかえってありがたい。


「うん、少し寝るのがいいだろうな」


 早々にそう結論付けた。私もそう思うので素直に頷いた。

寝室を使うかと訊かれたけれど、流石にそれは遠慮する。そうしたら代わりに大きな長椅子を勧められ、クッションとブランケットを用意された。

足を楽にするといいと言われてブーツを脱いでいれば、リドルフィはその長椅子のサイドテーブルにいくつか本やら書類やらを持ってきて置いた。そのままテーブル側にゆったりと座る。

そして、ぽんぽんと自分の太ももを叩いた。


「おいで」

「……子ども扱い」

「嫌じゃないだろ」


 返事に困って私はそっぽを向いたまま、ごそごそと長椅子に横になる。

導かれるままに膝枕してもらう形で身を落ち着ければ、ふわりとブランケットが掛けられた。ご丁寧に抱き枕の代わりにクッションまで渡される。


「人払いはしてあるから誰も来ない。適当に起こしてやるから少し寝ろ」


 そう言って目元を大きな手で包まれた。

多分、限界だったのだろう。

私は、ほんの数分で眠りに落ちていた。



気が付いたら寝かしつけられてるシーンが多いですね。(汗)

多分、作者の私自身が持病の関係で体力がなく常時眠いからこういうことになってしまうのかもです。

膝枕は男の方が枕なシチュにときめきます、と、どうでもよい告白。


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