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子どもたちのみるもの8


 翌日。

朝の配達に来たリンは、野菜と一緒に、子どもの頃着ていた服をたくさん持ってきた。

朝食も終わった時間帯だったので、食堂のテーブルの一つを使って、服を並べていく。

リチェは新しい服に大喜びで、ぴょんぴょこ跳ね回っていたし、エマもちょっと恥ずかしそうにしながらも喜んでいた。夏場、体を動かす時に便利そうな短いキュロットには目を丸くする。

川で泳げるなんて話をしたら興味津々で、でも泳いだことなんてないからできるだろうかと不安そうな顔になり。……気が付いたら、リンも一緒に泳ぐなんて話になっていた。

もしかして、リンは自分自身が久しぶりに泳ぎたくなったから提案したのでは、と、じっと見ていたら目を逸らされた。どうやら当たりのようだ。

 天気も良いし早速今日の午後に泳ごうなんて話で盛り上がっているのを聞きながら、私はトマトソースの仕込みをしていた。

明日出かけてしまうからね。リンには留守を頼んだが少しでも用意しておかないと。明日使わなかったとしても、トマトソースならしっかり消毒した器に入れて凍らせてしまえば、結構長い期間保存しておくことができる。トマトが採れる時期にできるだけ作り貯めておいて、旬が終わった後に少しずつ使うのだ。

それに、そろそろトマトの季節も終わりだ。どの野菜も旬の終わりの頃は、どうしても形や色があまり良くないものが増えてくる。そういった作物もソースにしたり、良い形に整えてピクルスなどにしてやったりと、ひと手間かければ美味しく食べることができる。

そのままでは売りに出せないような野菜でも、ハンナたち農家のみんなが大事に育ててきたものだからね。一個だって無駄にはしない。


「あ、トマトの湯剥き、私やります!」

「わたしもやる!」


 玉葱の皮を剥いて、延々刻んでいたのに気が付いたらしくエマが名乗り出た。姉のマネをしてリチェも手を上げる。その様子をリンが笑顔で見ている。


「そしたら、まずその服を上に片付けておいで。それからしっかり手を洗ってね」

「はい」

「はーい!」


 しっかり畳んでまとめてもって行くエマと、わちゃっと、とりあえず全部抱きしめるようにして姉についていくリチェ。多分面倒見のいいエマが二階でリチェの服を畳んでしまうところまでやってやるのだろう。ぱたぱた走っていく二人を見送ってから、リンの方を向いた。


「色々ありがとうね。喜んでいたね、二人とも」

「お下がりだけどね。母さんがしっかり残しておいてくれたし、使えるものは使わないと!」

「さっきの黄色いワンピースとか懐かしいね。リンもよく着ていたものね」

「あはは、お気に入りだったからね~。……見たらね、シミをつけちゃったところ、さりげなく隠れるように刺繍が追加されてたよ。ネックレスみたいに、くるっとお花の」

「きっとハンナがやっておいたんだろうね」

「母さん、こっそりそういう細かいことするの好きだからねぇ」


 そういうのも、きっと母の愛なんだろうな、と思う。

娘が大きくなって着なくなった服もきっちり手入れをして、必要なら繕っておき、少しアレンジまでして。いつか孫が出来たら着せようとでも思っていたんだろう。リンはあんな言い方をしているけれど。多分、もう着ないと言っても想い出が多過ぎ、捨てるのは忍びなくてついついやってしまったのだろう。今なら分かる。私もいつかそんな風にできたらいい。


「それにしてもグレンダさん、大変だねぇ。王都から呼び出しかー……」

「日帰りだって言うから大した用じゃないとは思うんだけどねぇ」


 玉葱の皮をざるにとっておいて、中身をみじん切りしながら言う。

今回はトマトが結構多めにあるので玉葱もそこそこの量だ。ちょっと目に染みる。


「でも、グレンダさん名指しでしょ? また、このあいだみたいに痩せ細って帰ってきたりしない?」

「流石に大丈夫だと思うけどねぇ」


 ヴェルデアリアの浄化の時は、帰宅後、かなり心配された。大丈夫だと言ったのに数日リンは手伝いを延長してくれた。

あの時はごめんね、と言えば、リンは、ふるりと頭を横に振る。


「料理をするのも好きだし、手伝うのは全然いいんだけどさ。グレンダさん、見て分かるぐらい疲れ切っちゃってたから心配で。……ダイエットなら羨ましいんだけどねー」

「リンはそんなに太ってるわけじゃないじゃないの」

「んー、お腹とかにちょっとお肉あるからなぁ。私、兄さんと同じで骨太だから華奢じゃないしさ。イリーさんみたいなの見ると羨ましいーってなっちゃう」

「イリーは種族的なものもあるからねぇ」


 エルフは華奢で色白な種族だ。そこと比べたらいけないと笑えば、そうだけどねーとリンも笑っている。そのイリアスは星送りには帰ると言って昨日から留守だ。どうやら星送りのご馳走を食べてから話していた遠征に出掛けるつもりのようだ。

そうこうしていたら、またパタパタと二人分の足音がして姉妹が二階から戻ってきた。


「おばちゃん、おばちゃん、ひきだしいっぱいになったよ!」

「うん、そうかい。よかったねぇ。大事に着るんだよ」

「うんっ!!」


 よっぽど嬉しいのか、またぴょんぴょん跳ねながらリチェが報告する。その横でエマも嬉しそうだ。……女の子だものね、服が増えるのはやっぱり嬉しいよね。そのうちお下がりじゃない新しいものも用意してあげたい。今から頑張れば冬までに手編みのカーディガンぐらいなら作れたりするだろうか。


「リンさん、ありがとうございます。大事に着ます!」

「いいんだよー。お下がりだし気軽に着てね。うちにおいといてもタンスの肥やしなだけだから。貰ってくれてありがとう」


 いやいや、という風に手を振りながらリンが笑う。

それでもありがとうございます、と重ねて丁寧にお礼を言うエマに、うんうんと私も頷く。


「おばちゃん、とまと、やらせてー!」

「そうだね、それじゃ、二人ともしっかり手を洗って」

「はい」「はーい」「はいな」


 何故かリンまで返事をした。結局三人で、トマトの湯剥きをした後細かくするところまでやっている。

その後、玉葱や調味料、ハーブなどと一緒にしっかり煮込んでトマトソースは出来上がり、四人で一緒に小分けにしながら魔法を使って冷凍した。これでトマトが採れなくなる季節でもトマトソースが使える。

出来上がったソースを貯蔵庫に並べてみて、なんだか幸せな気分になる。

今年のトマトソースは例年よりもとてもいい出来に思えた。


こっそりこだわり。

リチェの発言は全部ひらがなにしてます。

リアルで言ったら幼稚園児だからね。微妙に舌ったらずなのイメージでお読みくださいませ(笑)

リチェに比べて、トゥーレは同じ年でも双子の妹たちのおかげでしっかりしていて少しおにいちゃんな口調です。

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