子どもたちのみるもの6
「グレンダさん、星送りの日の手伝い、要るよね?」
お昼過ぎ。二回目の配達に来たリンが、訊いた。
普段は手が足りているが、ご馳走をたんまり作らなければならない星送りの日に関しては、ちょっと勝手が違う。
エマが頑張ってくれているおかげで、最近はリンには畑の方に専念してもらえている。しかし、お祭りの準備は料理できる大人の手が欲しい。
「あぁ。ありがとう。畑が大丈夫ならお願いするよ」
「畑はちびっ子たちが頑張ってるから大丈夫! リチェ可愛いね。めちゃくちゃ元気だし!」
「随分そっちにお邪魔しているみたいだけど、邪魔になってないかい?」
「ぜんぜーん。トゥーレと一緒に収穫とかやってくれてるよ。このナスも二人が採ってくれたやつ! すごく楽しそうだから、こっちまで楽しくなっちゃう。」
そうそう、リチェはよく食べるようになった。
村に来たばかり頃は、食べたことがないものはおそるおそるといった風で、一口でやめてしまうことも多かった。でも、今では肉も魚も野菜もすごく美味しそうに、しかも楽しそうに食べる。
それは、村に来て他の子どもたちと一緒に畑や川、牧場などでたくさん手伝いをし、自分が食べるものに触れたからかもしれない。
以前はほっそりしていた顔も、今は年相応のぷっくり加減だ。
思わずつつきたくなる、柔らかくて子どもらしいほっぺたを一杯にして、あむあむと食べている姿は小動物みたいで愛らしい。
「そう。なら良かった。もし邪魔になっちゃうようだったら遠慮なくこっちに戻してね」
「はーい」
「……畑、弄らせてやってくれてありがとうね。最近リチェ、野菜もよく食べるようになったんだよ」
「そっか~。自分で採った野菜だもんね。味が気になるよねぇ」
ついそんな礼を言いたくなってしまったのは、私も親代わりが馴染んできたってことかね。
生で食べられるのはその場でかじらせてみるかなー、なんてリンが検討を始める。
畑で採ったばかりのトマトにかじりついている村の子どもたちを想像して、思わずこちらも笑顔になる。きっと服は大変なことになるけれど、大事な想い出になるんだろう。
「あぁ、そうだ。どうせならエマにもやらせてやっておくれ。星送りまでは午後お休みにしてやったから。あの子もそういう経験はないだろうからねぇ」
「フォーストンにいたんだっけ? エマたちって。」
「うん。フォーストンだね」
「フォーストンってどんな街?」
村から出ても王都止まりのリンは、名前は知っていてもほとんどの街に行ったことがない。
訊かれて、私は野菜を切る手を止めて少し考える。
「……商業の街だね。王都の市場をもっと大きくしたのが街全体に広がっている感じ。人は多いけど、ちょっと貧富の差がかなりあって治安は良くない。エマたちは街の外で花を摘んだりはしていたみたいだけど、畑とか森とかは縁がなかったみたいだよ」
「そっかー。……そしたら、川遊びとかも、したことないかな?」
「あー、ないかもしれないね」
「折角ならやらせてあげたいね。川遊びなんて女子は子どものうちしかやらないし」
「そうだねぇ」
「私、後で子どもの頃の短いキュロットとかが残ってるか探しておくよ。川で遊ぶならその方が便利だし。さっき見たら広場で走ってたから動きやすい服も何着かあったら便利でしょ? 見張りはー……私かな。女の人の方がいいよね」
「なんだか、色々手間かけさせてしまうけど頼んでもいいかい?」
「お任せあれ!」
リンが、どんと自分の胸を叩いて請け合ってくれた。
子どもの頃しかできないこと。確かにエマは随分苦労してきたみたいだから、やったことがない遊びも多そうだ。リンの言葉ではないが、折角ほどよい季節なのだし、やらせてあげたい。
そして、年齢的にあれこれ気になり始める年頃でもある。その辺の配慮もさらっとしてみせるリンにちょっと驚いた。それを伝えたら、「私の時、リドおじさんが気にして、水遊びだけは母さんが見張りに来てくれるようにしてくれてたからね」だって。そんなことがあったのか。
「そうしたら、そんな頼れるリン姉さんには、お礼の品でも出そうかね」
「え、なんかくれるの?」
「……試作品でちょっとしかないから、食べたのは内緒にするんだよ」
「するする!」
そう言って、私は準備を始める。
お昼の少し前に凍らせておいた牛乳とヨーグルトを綺麗な袋に入れて、ぬるま湯につけながら手で揉み解す。ヨーグルトを混ぜた牛乳は、水とは違ってゆっくり凍っていくから、こうしてやるとほどよい柔らかさにできる。
手が冷えてきた頃にはかき氷に似た柔らかさになったので、ぬるま湯から袋を引き揚げた。それを小さなガラスの器二つに盛る。準備していた量が少ないのでほんの数口分だ。
その上に、村で採れた果物のジャムをぽとぽとと落とす。片方は粒の残ったブルーベリーの鮮やかな紫色のジャム。もう片方は、とろっとした桃の淡いピンクのジャム。
厨房の中にリンを手招きして誘い入れてスプーンを渡す。
「どっちを食べる?」
「うわー、迷うなぁ。んーー、んーーー……じゃぁ、こっち!」
リンは、ブルーベリーの方を選んで器を手に取った。私も残った桃の方を手に取る。
「それじゃぁ、私はこっちだね。いただきます」
「いただきまーす!」
しっかり冷えているヨーグルトは、牛乳と合わせたことでマイルドになっていて、しゃりしゃりとそれだけでも美味しい。ちょっと鼻に残る酸味が爽やかだ。それにジャムを合わせると果物の優しい味が引き立てられてしっかり甘く感じる。かき氷に見た目は似ているけれど食感はこちらの方が口に残る感じで、それも楽しい。
「うわ、美味しっ これ、ヨーグルトだよね?」
「うん。ヨーグルトと牛乳を一対一で混ぜて凍らせてみた」
「あぁ、もう食べ切っちゃった。これ、もっと欲しくなるね」
そう言いながらリンは器を名残惜しそうに見ている。その反応に私は思わずにんまり笑顔になる。
「試作だからね。今日はこれしか用意してないよ」
「今度作る時、絶対呼んで!」
「はいはい」
子どもたちに見つかる前に証拠隠滅!と、さっさと空になった器を洗えば、リンがそれを受け取って拭いて片付けてくれた。
ヨーグルト氷、今年の夏によく作って食べていました。
ヨーグルトと牛乳をジプロックに入れてよく混ぜてから冷凍庫へ。
1時間程度冷やしたものを軽くもんで食べやすくしてから自家製のジャムをトッピング。
お手軽だけど幸せになれるので良かったらお試しあれ!




