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子どもたちのみるもの4



 その日の夕飯は、早い時間帯なのにとても賑やかだった。

日没ちょうどの頃にまずリドルフィが帰ってきた。やっぱり暑いって言いながらエールを所望したので、もう少し待ってととめた。皆が揃うまでオアズケだ。

カウンターから出てすぐにある大きなテーブルに、エマとリチェに手伝ってもらいながら、料理の大皿を並べていく。

そうしているうちに今日は早めに店を閉めたダグラスがやってきて、リドルフィと話し始める。夕食をここで食べる村の人たちもちらほら顔を出し始めた頃に、賑やかに空腹を主張しながらデュアンも戻ってきた。


 姉妹を引き取ったばかりの頃、朝と昼はともかく、夕食をどういう風に回していこうかとかなり悩んだ。

二人ともまだ幼いし、朝晩ぐらいは一緒に食べて話をしたい。朝食は皆で早起きし開店前に食べることで簡単に解決したが、夕食はそうもいかない。どうやっても食堂の営業時間と二人の夕食時間が被ってしまう。

食堂に来る人たちの意見を聞きながら試行錯誤を重ねた結果、夕方早い時間帯にきた人には自分で料理をとってもらうことにした。あらかじめ料理を大皿で並べて置いて、食べる人に自分でよそってもらう。いわゆるビュッフェスタイル。

多少は対応が必要になるが、元々うちで夕食を食べるのは村人たちがほとんどだ。

宿泊客も顔なじみの冒険者や商人が多いし、そもそも宿泊客は飲みも兼ねるのでもうちょっと遅い時間帯に食堂に来る。

食堂で夕食を食べている人たちに話してみたら、あっさりと営業スタイルの変更を受け入れてくれた。ダグラスをはじめ毎日来る何人かは、私たちが不器用なりに家族の食卓めいたことをしているのを見守っているようだ。

 この村でも少しずつ子どもが増えているとは言え、戦乱期が終わってからまだ二十年ほどしか経っていない。

婚期を逃したり家族をあの戦いで亡くしたりの独り者や、既に子が巣立った後の者からすると、子どもが元気に遊んだり食べたりしている姿はとても和むものらしい。

かく言う私も以前はそう思っていたのだけども……世話を焼く立場になると、なんとも、ね。

姉のエマが一生懸命リチェの世話を焼いてくれてはいるが、エマにだけ任せっぱなしにもできない。エマ自身はもう大きくなっているので世話を焼く必要はないけれど、リチェはまだまだ溢すし好き嫌いもする。喋るのに夢中になって食べるのを忘れてしまうことも度々だ。結果、食卓に座っている間は私も周りの給仕は最低限で二人のことを優先し……いや、ここは素直に認めよう。姉妹、主にリチェに振り回されている。

……どうも村の連中に子どもたちと一緒に私まで見守られている感があって気になる、と、リドルフィに言ったら笑われた。



「……それでよー。結局全員大目玉でさぁ。朝練のランニング五周追加されるわ、罰当番だって学校中の大掃除までさせられるわ……」

「なんだ、五周で済んだのか、次行った時に十周はさせとけって言っておこう」

「うわっ、リドのおっちゃん、やめてよ! 本当に十周にされるから!!」

「おねえちゃん、たくさん走るといいことあるの?」

「んー、体力がつくかなぁ?」

「ほら、デュアン、口に物入ったまま喋らない」

「今日は特ににぎやかですねぇ」


 夕方宣言した通り、夕食時にやってきたデュアンも混ぜての食事になった。

私と姉妹の三人の時はカウンターや小さめのテーブルで食べるのだが、今日はリドルフィとデュアンが混ざり、ついでだからとダグラスや他の村人も誘って大きめのテーブルを囲むことになった。

主にデュアンが喋っていて、それに周りが相槌打ったり、茶化したりしている。

普段いない少年の話はテンポがいいこともあって、リチェにも面白かったらしい。幼いなりに会話に混ざっている。それを横で聞きながらエマも笑っている。つられて私も笑っていた。

毎日だとちょっとやかましいかもしれないが、たまにはこんなのも良いね。


「そしたら、わたしも、あしたから、あされんする!」

「おう、そしたら俺と走ろうぜ!」

「うん!」

「え、リチェ、大丈夫?」

「心配ならお前もついて来れば?」

「え……」


何故か朝練する気になっているリチェと、ノリで返事しているデュアンの会話に巻き込まれたエマが、困ったような顔で私に助けを求めてきた。


「いいよ。エマ、行きたかったら行っておいで。……自分まで走るのが嫌だったら、広場で走らせてエマは座って見てたらいいよ」

「でも、食堂の仕込みとかは……」

「朝は大した量じゃないから。終わった後に頑張ってくれたら大丈夫」


 遠慮しがちな様子に、私は苦笑して背を押してやる。村で唯一の同年代だからね。折角だから交流したらいい。その考えが分かったのか、向かいの席にいるリドルフィもうんうんと頷いて。


「デュアンがいるのは短い間だしな。……朝稽古か。俺も混ざるかな」

「げっ。リドのおっちゃんも来るのっ!?」

「ジョイスにも後で声をかけとこう。鍛えてやる」

「うはーー……そりゃ、おっちゃんは俺の目標だけどさ! それ、ぜってぇ滅茶苦茶キツいのやらせるだろっ!?」

「大丈夫、俺が毎日やってるのと同じだ。」

「……前にジョイスが付き合って、翌日動けなくなっていませんでしたっけ?」


壮年マッチョが少年を楽しそうにからかっている。

大丈夫と言うリドルフィに、ぽそっとツッコミを入れたのはダグラスだ。


「あんまり若いのいじめるんじゃないよ」

「いじめてないぞ。面白がってはいるが」


 やれやれと、肩を竦めてみせた。

明日以降数日、デュアンとジョイスは筋肉痛確定かもしれない。


「リチェもエマも、ほどほどにして戻っておいでね。きっとこの人たちに全部付き合ってたら昼になるから」

「わかりました」「わかったぁ!」


 手伝いをして欲しいというより、この分だと抜け時が分からなくて困ることになるだろう少女に言う。

はーいと元気よく返事をしたけれど、リチェはどこまでわかっているんだろうね。




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