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子どもたちのみるもの3


 空が夕焼けで赤くなる少し前。

ダグラスの馬車が帰ってきた。

ダグラスは、何日かに一度、村の作物や誰かが作った物を預かって王都に売りに行き、代わりに必要なものを王都で仕入れて来てくれる。彼のやっている雑貨屋の品もだが、頼めば村では作っていない食材や日常品、それに嗜好品などを上手くやりくりして買ってきてくれるのでとても助かる。

 他にも、定期的に王都に行くので伝言なども預かってくれるし、依頼を出した時には冒険者を村に連れてくる役割も引き受けてくれている。

村人相手の商談の窓口なんかも彼の仕事だ。言ってみればモーゲンの受付係。

リドルフィの方が顔は広いけど、日常の細々とした交渉事なんかはダグラスの領分だ。

どうにもお人好しの多いこの村を、いつもにこにこと笑いながら、外部から食い物にされないように守ってくれている。

この村の雑貨屋になる前は、商人ギルドの幹部だったって噂を聞いたことがあるけれど、残念ながら私は真相を知らない。ただ、まぁ、リドルフィが連れてきたのだから、多分普通じゃない人のような気はする。


「ただいま戻りましたよ。……グレンダ、何か冷たい飲み物を一杯お願いします。今日は暑かった……」

「おばちゃんー! 俺も帰ってきたぜ!」


 ダグラスと一緒に入ってきたのは栗毛の少年。宿屋の息子だ。

寄宿舎のある学校に入っているが、星送りの時期だから帰ってきたのだろう。久しぶりのご帰還だ。

二人とも村に帰ってきてそのまま食堂に来たらしい。ダグラスは定位置のカウンターに、デュアンはその隣に腰を下ろし、ふはぁと首元を緩めてぱたぱた風を服の中に送り込んでいる。


「おや、やかましいのが帰ってきた。おかえり、デュアン」

「ただいま、おばちゃん」

「エマ、レモネード出してやって」

「はーい」

「うぉっ!!? 誰、あんた!」


 ちょうど厨房にいたエマに言えば、いい返事を返してくれた。それに対してデュアンは……。早速ダグラスに口が悪いですよと窘められている。

レモネードのグラスを二つ乗せた盆を持ってきたエマは、二人の前に一つずつ置けば、ぺこりと頭を下げる。


「ここで働かせてもらうことになったエマです。よろしくお願いします」

「お、おぅ、よろしく」


 まさかそんな丁寧に挨拶されると思っていなかったようで、デュアンがちょっと怯んだ。

間近にきた同年代の女の子相手に、分かりやすく目をそらしている。そっぽを向いたままいう様子がおかしくて、つい笑いそうになってしまった。見たらダグラスも同じような顔をしている。お年頃だね、可愛いね、と目で会話していたらデュアンに睨まれた。


「わたしもいるのよ! リチェだよ! よろしくです!」


 少し前に外遊びから戻ってきて、食堂の片隅で絵本を眺めていた妹のリチェも寄ってきた。

姉の横に並べば、ぶんと音がしそうなぐらい勢いよく頭を下げる。


「おう、ちびっ子もいるのか!」


 デュアンが、リチェの様子に一瞬目を丸くし、笑う。リチェはちゃんと挨拶できたよと姉を見上げ、エマはそんな妹を撫でてやっていた。それを間近で見ることになった少年はまたそっぽを向いて、レモネードを一気に飲んだ。おやおや。


「エマ、リチェ。デュアンは宿屋の息子だよ。エマと同じ年だ。普段は寮暮らしだから村にいないけど。……そういや、デュアン、今回はいつまでいるの?」

「んー、星送りの翌々日までかな。ニナに顔忘れられそうだから、ギリギリまでこっちにいるつもり。」

「すでに忘れられてるんじゃないかい?」

「……やっぱり?」


 ニナは、去年生まれたばかりのデュアンの妹だ。

赤ん坊に、まだ一回しか会ってない兄を覚えていろって言っても無理な話。デュアンは、やっぱり忘れられてるかぁ、と、がくっと項垂れる。


「リチェはおぼえててあげるよ!」

「おー、そうか。ありがとよ」


 空気を読んでいるのかそうでもないのか、間髪入れずに言うリチェの頭をぐりぐりと撫でて、デュアンは立ち上がった。


「よし、ここにいてもニナに覚えてもらえねぇ。ちょっくら帰って撫でくりまわしてくる! おばちゃん、俺の夕飯、大盛りね! 後で食べに来るから!」

「あれ、家でお母さんのごはんを食べるんじゃないのかい?」

「全然知らせずに帰ってきちゃったから用意してないよ。それにお袋、ニナの世話で手いっぱいだろ。俺、出来た息子だから!」


 言い方がおかしくて今度は隠しきれず笑ってしまった。確かにあの食べ盛りの食事は、事前に知らせがない状態でいきなりはつらいだろう。


「はいはい。それじゃ、よかったら早めにおいで。リチェたちと一緒に食べたらいいよ。」

「わかったー!」


 言うが早いが、持ってきた鞄を手にしてバタバタと出ていってしまった。いつものことながら無駄に元気が有り余っている。あれぐらいの子はみんなそういうものなのかね。つい、エマを見たら少年が出て行った扉を見送っていた。

村にはエマと同じ年代は他にいないから、少し気になるのかもしれない。

それより上になるとリンやジョイスだからかなり年が離れてしまう。


「……本当、元気ですよね。帰る道中、ずーっとあのテンションで話しかけられてねぇ。」

「あぁ、それはお疲れ様だよ……」


 えぇ、ちょっと疲れました、と、ダグラスが笑う。

デュアンも久しぶりの帰省でテンションが上がっていたのかもしれない。

今日も暑かったですしねぇ、なんて言いながら、髭の中年男はちびちびとレモネードを飲んでいた。


新キャラ一人登場です。

イメージはまだ育ってる最中のバーニーズ。人懐っこい大型犬。

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