子どもたちのみるもの2
「ねぇ、グレンダ。私、出掛けてくるわ」
じゃくじゃくと音を立てて氷を崩しながら、イリアスが言った。
彼女のかき氷には、目にも鮮やかな赤いベリーのシロップがかかっている。
イリアスの好きな黒イチゴをベースに何種類かのベリーを合わせて作った特製シロップだ。
ごろごろと果実の形が残っていて、見た目的にも美味しそうに出来上がったと思う。
「そう。今夜の夕飯はどうする?」
「いや、今日この後出掛けるって話じゃなくて、明日からしばらくって意味」
「あらまあ」
それは淋しい、と言おうとして、私は思い出す。
「数日後に星送りだけど、参加していかないの?」
「あぁ、もうそんな時期か~……うーん、ご馳走は食べたい。どうしようかな。少し遅らせるかなぁ」
「平気なら、そうしたら? 折角だから食べてお行きよ」
「んー……一晩考える」
「うん」
「そっかー。星送りかー……」
星送りは、簡単に言えば鎮魂祭だ。
生き物は皆、死ぬとその魂は空へと昇り、星になると言われている。
夏の終わりの晴れた日の夜に、生きている皆でこの一年に亡くなった人を忍び、そして過去に亡くなった大事な人たちを思い出し、星を見上げるのだ。
その時期は里帰りをする者も多く、ここモーゲンも普段は村を離れている人たちが帰ってくる。
学校もその前後は休みになる。寄宿舎に入っている子たちも実家に帰ってくるので、星送りの時期はとても賑やかだ。
人が集まるならとご馳走も年々多くなり、この村に所縁のある知人も遊びに来たりする。
村の大事な祭りの一つだ。
「おばちゃん、ほしおくりってなにー?」
「あぁ、リチェはやったことないのかい? お祭りなんだけどね、夜にみんなで集まって、亡くなった人の魂を空に送るんだよ」
「リチェも?」
「そう、リチェも。その日だけは少し遅くまで起きてることになるよ」
「わぁ、いいの!?」
「もちろん。ご馳走たくさん作るからね、いっぱい食べるんだよ」
「うん!!」
近くのテーブルで、他の子たちと一緒にかき氷を食べていたリチェが反応した。
フォーストンでは星送りはあまりやってなかったようだね。
「あ、リチェ、スプーン振り回すと……!」
お祭りだと知ってついはしゃいでしまっている妹に、慌ててエマがとめる。
だが、一足遅かったようで、リチェのスプーンから垂れたシロップが、ぺちょりとリチェの服を濡らした。
イリアスと同じベリーのシロップだから赤いしみが出来、エマがあぁぁと嘆息する。
私は布巾をとってエマに渡すと、エマはダメ元で垂れたシロップを拭き、染み入ってしまっているのを確認してもう一度嘆息した。
「エマ、あまり気にしないの。どうせ洗濯するんだし、そもそも遊び着だから汚したって構わないよ」
「でも、せっかく可愛いのに……」
「そうだねぇ。リチェ、スプーンを持っている時は暴れない方が良さそうだよ?」
「はーい」
「エマも食べちゃいなさいな。溶けちゃうよ」
いい返事が返ってきたけれど、多分、まだまだ同じことをするんだろう。
ジョイスとリン、二人を育てたハンナに育児についてのアドバイスを求めたら、注意する時は二百回同じことを言ってやーっと直るかもぐらいのつもりでいた方がいいよ、なんて言われた。
実際、リチェに関しては注意しても忘れてしまったり、分かっていてもついついやってしまったりなんて粗相が日常茶飯事で起こる。どうやら子どもっていうのはそういうものらしい。
それで言うと、エマは少し大きくなっているからか、注意やお願いが通りやすい。
素直に話を聞いてくれるのはとても助かるけど、……エマの場合は真面目過ぎるので少し心配になる。
「そしたらイリーとあそべなくなっちゃうの?」
「うん?」
どうやらカウンターで食べていたイリアスと私の話を、子どもたちも聞いていたようだ。
それはつまらないと、何人かがしょんぼりした顔になっている。
その様子に子どもたちの付き添いをしているノーラがちょっと笑っている。子どもの世話なんて面倒臭いと言うのに、ヴェルデアリアの遠征以降、なんだかんだと村に居続けているイリアスは、気が向くとちびっ子たちを構ってやっていた。
世話していたというより、一緒に遊んでいた……いや、子どもでイリアスが遊んでいた感じだ。風魔法でちびっ子たちをお手玉みたい飛ばして遊んだり、植物を魔法で大きくしてその中に隠れる子どもたちを追いかけてみたり。子どもたちもイリアス自身もその風変わりな遊びがとても楽しかったようだ。まぁ、いいのだろうが初めはちょっと見ていて心配だったけれども。
「んー、またそのうち帰ってくるよ。ちょっと遠くまで行ってくるけど、冬になる前には戻ってくるはず」
「もどってきたら、あそんでくれる?」
「気が向いたらね~」
「……冬前……随分と長いね」
「ちょっと爺様に会ってくるよ。聞きたいことがあるし」
「森まで行くんだね。気を付けて」
「はいはい」
私を誰だと思ってるの、とエルフは笑った。




