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食堂のおばちゃん11


 やがて夕食を食べにきていた村人たちが帰って行き、食堂には酒を飲んでいる者が何人かとジョイス、それに中堅冒険者の二人になった。

駆け出し三人組は残ってまだまだ話を聞きたそうだったが早々に宿に帰した。

不満そうではあったが彼らは未成年だからね。育ち盛りに睡眠は大事だ。それに本格的に冒険者として活動し始めると、睡眠を十分に確保できなくなる時も多い。何にも警戒せずに宿のベッドで心地よく眠れる時ぐらいしっかり寝て欲しいところ。

……ついでに言えば、彼らの明日の仕事は牧場の手伝いだ。いつもより早起きになるからそろそろ就寝しないと明日辛いはずだ。


 ジョイスと二人は少し前に奥の方のカウンター席から空いたテーブルに移動している。

片付けたテーブルに大判の地図が広げ、この近辺の地形の確認を行っていた。

ちなみに地図を提供した雑貨屋のダグラスも、カウンターの定位置に座ったまま彼らの会話に混ざっている。

問題の魔物だか獣だかを探す間や、討伐する際に使うアイテムは当然こちら持ちだ。

必要に応じて、足らない物は調達してこなければならない。

それを一手に引き受けることになるのはダグラスなので、そのあたりも含めての参加なのだろう。


 あらかた洗い物も終わり、食堂としての仕事も終われば人数分のカップを用意する。熱めに入れた茶をポットに私もテーブルの方に混ざりにいく。

一人ずつ茶を配り終えれば、盆とポットはカウンターに置き、私は、よっこらしょと椅子に腰を下ろした。


「よっこらしょって、おばちゃん……」

「なんだい、ジョイス」

「……なんでもありません」


 もう若くないんだ。婆臭い掛け声ぐらいしたって良いじゃないか。

じろりと余計なことを言おうとした若者を見れば、ふるふると首を横に振られた。

その様子をじーっと見てから、地図へと視線を向ける。

 このモーゲンの村近辺をそこそこ詳細まで書き込んである地図にペンでいくつか印が書き加えられている。若干長めに引かれた線の先にバツ印。これは恐らく朝に倒したという小型の魔物と遭遇して倒すまでのルートだろう。ということは、その近くから数カ所につけられた色違いのバツ印は件のヤツの痕跡があったところか。


「……明日の昼前に師匠が、魔法使いのシェリーと弓使いのイーブンを連れて来る予定だから、とりあえず明日は前衛後衛ペアで、三班に分かれて探そうかって話になってる。組合せはカイルとシェリー、リリスとイーブン、師匠と俺。探すのに何日もかかりそうなら、連携慣れのためにペアはずらしていく予定。相手の魔物にもよるけどまずは正体の確認を優先だね。討伐は相手に合わせて作戦を練ってから。……どうしても交戦せざる得ない時は、魔法で閃光弾を打ち上げて知らせる。三人が到着するまでの間は、こっち三人で先にこのあたりだけ探索しようかと」


 ジョイスの説明は私に訊かせるためで、すでにカイルとリリスとは相談済みだったのだろう。頷いている。

ふむ、イーブンがくるのか。脳裏に彼の好きな料理が思い浮かぶ。いる間に作ってやろう。


「おばちゃん、なんか気になるとこ、ある?」

「……んー、そうだねぇ」


 地図を眺め、その後リリスの方を向き。


「リリスは魔法ありの短剣使いって話だったが、魔法の系統は?」

「風がメイン。攻撃より補助系がメインかな。自己ブーストとか。」

「ジョイス、明日くるシェリーとやらの系統は?」

「得意なのは水と氷って言ってたかな。バリバリの攻撃系だね」

「……防御とか治癒系は?」

「師匠が、討伐の時必要そうならおばちゃん背負って連れてくって言ってた」

「…………あの人はっ」


 リドルフィが言ってる様子まで想像が出来て私は頭を抱える。

この村に定住した後も、村のすぐそばに魔物が来た時やら、不届き者たちが村に襲撃をかけた時は、私も支援として戦闘に加わってはいたが、今回は森の中だ。


「……そう言わないでやってください」


 苦笑を浮かべながら優しい口調で口を挟んだのはカイルだ。


「今、戦える冒険者がかなり出払ってて、ヒーラーですぐに都合がつく人が居なかったんです」

「そうそう。私たちもちょうど他から王都に帰ってきたところだったの。リドのおじさんに声かけられなかったら、すぐに別の依頼に行ってたってぐらいに今、バタバタしてて」

「……え?」


 そうなの、とジョイスの方を見れば、うん、と頷いてきた。


「ここのところ、あちこちで普段とは違う魔物やら獣やらが増えてきてるって。何がいるか分からないことも多いから若いのに任せられなくて。中堅は引っ張りだこらしいよ」

「おかげで稼げるけど、こうも多いとちょっと何が起きてるのか怖いんだよね」

「ただでさえ俺たちの世代は人数が少ないですしねぇ……」


 ジョイスたちのような二十から四十手前あたりの世代は、あの戦いの頃に子供だった者たちだ。

大人だって生き延びるのも大変だった時代だ。

当然のように出生率だって低かった。せっかく生まれても大人になれなかった子もとても多かった。

戦いが終わった後に生まれた子どもたちに比べると、その世代の人数は悲しいほどに少ない。

その中でも冒険者をやってる者となると更に少ないわけで。


「基本は俺たちでなんとかするつもりでいるけど、場合によっては本当におばちゃん担いでいくことになると思う。……あ、おんぶよりお姫様抱っこがいいとか、師匠よりイケメンカイルがいいとかなら……いてっ」


 途中から要らないことに脱線し始めたジョイスの頭に、容赦なくゲンコツを落とした。


「ジョイス、農作業はバーンたちに手伝い頼むことにして、数日、妹のリンを貸しておくれ。食堂がしまってたらそこのダグとかが飢えてしまう」

「いっそ僕が作るのも面白そうですねぇ。こないだ仕入れた薬草、香辛料にもなるらしいんですよね」

「……あなたは料理できないでしょ」


 ははっと笑う雑貨屋に私は肩を竦めた。

ちなみにその薬草。効能を聞いたら服用すると口の滑りが良くなる、だって。本当、油断も隙もあったもんじゃない。そんなものを料理に入れようって時点で厨房立ち入り禁止だ。


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― 新着の感想 ―
おばちゃんをお姫様抱っこしてでも連れて行きたいのじゃな!それだけ重要な位置におばちゃんは立っておるのじゃのう。じゃが何が起きているのか、重要な問題が発生しておるのかもしれんのう?
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