食堂のおばちゃん10
夕食時。
いつも通りに夕食を食べに来る村人たちで賑わっている。
昼間に私が斡旋した魔物解体の手伝いから戻ってきた三人組も戻ってきていて、食堂は八割方埋まっていた。
勝手知ったる様子で料理や酒のおかわりを取りに来る人たちや、料理を自宅に持って帰る人たちの対応をしながら……ふと気配を感じて私は顔を上げる。
それとほぼ同じタイミングで扉が開いた。
「ただいま~……」
そう言って入ってきたのはジョイスだ。
その後ろに二人ほど続いて入ってくる。
「おばちゃん、腹減ったー」
ジョイスは開口一番そんな言葉。
はいはい、と相槌を打つ。
「グレンダさん、お久しぶりです」
「こんばんはー」
「おや、カイルじゃないか」
ジョイスに続いてテーブルの間を抜けて歩いてくる長身の男に久しぶり、と、笑ってみせる。
もう一人の方は初顔合わせだ。小柄で明るい色の瞳をしている。どこかやんちゃな猫を思わせる元気そうな女性だ。
年齢はジョイスに近いかもしれない。
「とりあえず座ろっか。おばちゃん、そこでいいよね」
「あぁ、今、用意するよ。大盛にしてあげよう。どうせ腹ペコなんだろう?」
「うん。今日は何?」
「丸揚げとトマトのサラダ、豆のスープだね」
「おっ、やった! 好きなやつだ」
カウンターの奥側に入ってきた三人が揃って座る。
一番手前には揚げ物に喜んでいるジョイス。その隣に長身のカイル、更にその隣に仲間らしい女性。
カイルと女性は武器や荷物があったので隣の席にまとめて置くよう言い、私は三人分の食事を用意する。
昼間に下拵えしておいた大きめの肉に軽く衣をつけて、油に投下する。
揚げ物の様子を横目で確認しつつ、具沢山な豆のスープとトマトをメインにしたサラダを一人分ずつに盛りカウンター越しにそれぞれに出してやった。
念のため確認したところ、カイルも女性の方も大盛り希望らしい。
ちょっと嬉しくなったのは内緒だ。
「カイルは知ってるからいいとして、リリスはおばちゃん初めてだよな。うちの相談役のグレンダおばちゃん。今は食堂のおばちゃんやってるけど、元冒険者だよ。ヒーラーね」
「……私はいつから相談役になったんだい?」
「おばちゃん、募集にきてくれたカイルとリリス。イケメン剣士のカイルは知ってるから良いよね。リリスは補助魔法が得意な短剣使い」
「よろしくです」
こっちの指摘は華麗にスルーされた。ジト目でジョイスを見るが気が付きすらしない。
ジョイスに名を出された二人の方がこちらを見て苦笑している。
イケメン剣士などと言われたカイルは、相変わらずの整った顔で「また世話になります」と柔らかく微笑み、短剣使いらしいリリスは片手を上げ、人懐っこく、にかっと笑った。
「あぁ、よろしく。来てくれて嬉しいよ」
「……あ、師匠は今夜はあっちに泊るって」
「どうせ王都のお偉方とかに捕まったんだろう?」
ははっとジョイスが苦笑した。
リドルフィは今頃王都で酒盛りだろう。顔が広いというのも大変だ。
誇張表現でなく、彼に声をかけてくる者は山盛りいる。村の顔役だからというより、昔の知り合いやら友人やらが王都にはたくさん居るのだ。騎士団や冒険者ギルド以外のところからもよく声がかかる。王宮にもよく出入りしているし、商人ギルドにも顔が売れている。
普段の見た目は山賊まがいだが、あれでそこそこ人望もあるため、王都に行って一滴も酒を飲まずに帰ってこれることはまずない。
……いや、本人が好きで飲んでる可能性もかなり高いけれども。
先にスープなどを食べていてもらっている間に、じっくりと肉を揚げる。
その間にも、食べ終わった者が皿を片付けに来たりしているのも対応していたりで、まだしばらくは忙しい時間だ。
それを分かってくれているので、ジョイスも私へは紹介だけであとは三人で雑談をしている。
その背後では、近くにいた駆け出し三人組がそわそわしているのが少しおかしい。
熟練冒険者たちの話を聞きたくて仕方ないようだ。
「……ジョイス」
カウンター席に座ったせいで三人組に背を向けていた若者の名を呼び、くいと視線でバーンたちの様子を見るよう促してみる。ジョイスは、ふむ、と頷いて。
ひよっこたちをカウンターの横のテーブルに手招きし、冒険者談義に花を咲かせ始めた。
そんな冒険者に揚げたての揚げ物をでんと出す。
足一本丸ごとの豪快揚げだ。
……言わずと知れた、バーンたちのとってきたカエル肉である。
駆け出し3人組が依頼を受けて退治してるカエルは中型犬サイズ。
季節になるとどっさり沸き沼から溢れて周りを荒らすので討伐対象ですが、魔物ではなく極普通の生物です。
アクティブですらないので、攻撃すれば逃げたり暴れたりするけどそれ以上の害もあまりない感じです。
時々出てくるイボ付きのハイフロッグも基本は同じで、吐く息に催眠ガスが混ざっているのだけが違うところ。
もし間違ってそれで寝てしまってもせいぜい犬サイズのカエルに踏まれるだけなので、それ故に駆け出しが一番初めに受けたりする依頼だったりします。
……ゲームで言うところの初心者御用達クエスト、ですね。(笑)