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司祭の務め32


 リドルフィは、休憩にたっぷりの時間を取った。

イリアスが結界石を設置し、ロドヴィックが整えてくれた芝生絨毯は、全員が横になっても狭く感じないほど広かった。

気を利かせたイーブンとウルガが、入り口に止めてきた馬のところから飲み物やポーションを持ってきてくれたおかげで、まるでピクニックみたいなことになっている。

 浄化を行う三人がしっかり回復するまでは動かないと宣言されたおかげで、皆、思い思いに寛いでいる。

ライナスとジークハルトは大の字になって寝ているし、エルノはちびちびとポーションを飲みながらぼんやりしている。イーブンも少し端の方で横になっている。

ロドヴィックは瓦礫に紛れていた古い本を見つけて読み始めてしまっているし、イリアスは二階部分に座って気持ちよさそうに風に当たっている。

オーガスタはふらふらと近くの探索に行き、ウルガは干し肉をかじっていた。

そうそう、戦闘が終わった後に治癒をかける時、ウルガには先ほど痛い思いをさせてしまったことを謝った。すると彼は、もっふもふの尻尾を振りながら大丈夫だと笑ってくれた。犬歯がのぞく笑顔はちょっと怖かったが、牧羊犬のように表情豊かな尻尾のおかげで、素直にその言葉を受け取ることが出来た。

リドルフィは座って疲労回復のポーションを飲みながら、何か物思いにふける顔で魔素溜まりを見つめている。

ここは私たちにとって思い出深いところだ。何か昔のことでも思い出しているのかもしれない。

 私は、……そんなリドルフィに寝ろと言われて、その隣で横になっていた。

顔のところがちょうどリドルフィの影になっていて、ご丁寧に掛布団代わりにマントがかけられている。

やっぱり過保護すぎるんじゃないだろうか。

ほら、寝ろ寝ろとばかりに、子供にするみたいに背中をポンポン叩かれて、気が付いたら本当に寝てしまっていた自分が恨めしい。

言い訳をするなら、魔力を使うと疲れるんだ。もっと言えば、戦場はいるだけでかなり疲れる。

光壁の構築でかなり負担がきていたし、私ももう若くない。

若さで多少の無理は押し切れた頃とは違う。休み休み一つずつ着実に戦うのは年配者の知恵なんだよ、きっと。そういうことにしておこう。



 どこかからか歌が聞こえる。

風に紛れるようなそんな声量。

どこか懐かしくて優しい、そんな、歌。

歌詞は聞き取れない。でも不思議と何を歌っているのかは分かる気がした。

あぁ、そうだ。私はこの歌を知っている。

昔、何度も、何度も聞いた歌。

優しくて、愛しい歌声。

とても、とても、懐かしい……かえり、たい……。



 ふぅっと、意識が浮かび上がる様にして目が覚めた。

夢を見ていたように思う。

でも何の夢だったのか、思い出せない。

もぞっと身じろぎすれば、私が起きたのに気が付いたリドルフィが、優しい手つきで顔の上に散らばっていた私の髪を退けてくれた。


「……少しは休めたか?」


 その言葉に、私は今一度目を閉じて自分の状態を確認する。

地面の上とはいえ、ロドヴィックのおかげで柔らかな草の上で眠ることができたので、変なこわばりはない。

先ほど随分使ってしまった魔力も、横になる前に飲んだポーションのおかげで多少なりとも回復している。

寝ていていいと言われたらもう少し眠れそうだけど、起きろと言われれば十分活動できるぐらいには休めた感じがした。

彼の問いへの返事代わりに、私はむくりと体を起こす。

起きながらあちこちを伸ばし、ついこぼれ出た欠伸を口に手を当てて隠した。


「……あなたは?」


 おそらく、休憩中も皆を休ませるために自分自身は起きていたのだろうリドルフィに訊くと、大丈夫だ、という言葉と共に頭を撫でられた。

その手を、ぺしっと払って、寝ていたのと乱暴に撫でられたのとで乱れた髪を私は整え直す。

なんとなく、この人は私を最後の最後まで子ども扱いし続けるんだろうな、なんて思った。

ダメ押しのように寝起きの一本、と、渡されたポーションを飲みながら周りを見渡せば、散策に行っていたオーガスタも戻ってきているし、寝ていた面々も起きてストレッチをしたり追加のポーションを飲んだりしている。

……しっかり自分を整える努力をしている辺りに、それぞれに年を感じたりするが、指摘するのは野暮だろう。それこそお互い様、というやつだ。

ちなみに見た目はともかく中身は一番年上のはずのイリアスは、いつも通りのほほんとしていた。

長寿種はズルい、と、ちょっと思う。

 太陽の位置を確認すれば、どうやら昼より少し前のようだ。

早朝に野営地を出てきたおかげで、七つ首の大蛇を倒し、しっかり休んだ後でもまだ午前中である。

今日はできるものなら浄化の後にフォーストンの街まで帰還したいところだ。

そろそろ動き出すのはいい選択のように思う。

飲み終わったポーションの瓶をさりげなく受け取りながら、リドルフィが立ち上がる。

同じく立ち上がろうとした私に手を差し出し、引き起こしてからゆっくりと皆を見渡した。

行けるか?と問う視線を一人一人に向け、大丈夫だと判断した男は一つ頷き、言う。


「よし、そろそろ行くか」


戦闘前とほぼ同じ言葉に、つい笑ってしまった。

この人は、本当いつもこうだ。どんな大変な時も揺らがない。



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