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司祭の務め31



 ほどなくして。

ライナスが受け持っていた頭も力尽き、地に落ちた。

その頭に魔法でトドメを刺したロドヴィックの横で、エルノも立ち上がっている。

イリアスたちにリドルフィが合流し、代わりにオーガスタとウルガが離脱していた。

本体の陰にまだ生きている小蛇が紛れていないかを見て回りながら、確実に潰していく。

リドルフィが大きく大剣を振りかぶったのを確認し、イリアスが一気に距離をとる。

ざん、と、無造作にも見える動きでリドルフィが最後に残った首を斬り落とした。

多頭だった大蛇の体がひと際大きくのたうち、そして、静かになった。




 リドルフィが大剣を担いだまま、ゆっくりと歩いていく。

最後に斬り落とした蛇の頭の横を歩き、七つに枝分かれした付け根へと辿り着けば、蛇の体に手を当ててしばらく止まった。

一度、静かに首を垂れる。

ぽんぽん、と、馬を宥める時に叩くのに似た仕草で蛇の胴体を叩けば、顔を上げた。

二歩下がり、大剣を両手で構える。

槍の、突きに似た構えで腰を低く落とせば、じり、と剣先に魔力を込める。

そうして。

音もたてずに蛇の胴へと突き入れた。

動きを止めていた頭を失った蛇は、その攻撃にびくん、びくん、と大きく痙攣し、そして二度と動かなくなった。

動かなくなるのを最後まで見届けてから、リドルフィが大剣を引き抜く。

ぶん、と、纏わりついていた蛇の体液を振り落した後、背の鞘へと納めた。


 その、静かな動きを、私は瓦礫の上からじっと見守っていた。

武器が大きい故に無造作で大雑把に見えるが、全ての動きに無駄がなく、洗練されている。

長年の訓練と経験が作り上げた、リドルフィの戦い方。

もう何十年も見続けてきた背中。

私が見ているのに気が付いたのか、男は振り返り、こちらを向いた。

視線がぶつかる。

ふっと、こちらに柔らかく笑んで見せてから、男はまた歩き始める。


「オーガスタ、ウルガ、全部片付いたか?」

「おそらく」「あぁ」

「イーブン、そちらからも動いているのは見えないな?」

「いないな」


 リドルフィは歩きながら、小蛇を片付けていた面々に声をかけた。

念のため、もう一通り確認する、と、三人が警戒しつつ近辺を探る。

大小さまざまな瓦礫が転がり、大きな蛇の亡骸も横たわっているため、隠れているものがいてもおかしくない。


「ジーク、エルノ、これを送るのを頼む」

「わかりました」「了解です」


 エルノが、向こうの瓦礫から下り始める。

ジークハルトは、パンパンと自分の体を叩き、法衣の汚れを浄化する。

司祭の中で一人、前衛と一緒に地表にいた分、砂埃をたくさん浴びていたのだろう。


「ロド、イリアス、この後、休憩にする。適当なところに結界石ばらまいて休めるところを作ってくれ」

「承知しました」「りょーかい!」


 瓦礫の上に座っていたイリアスが立ち上がり、伸びをした。

エルノと一緒に大きな瓦礫から下りてきたロドヴィックが辺りを見渡し、こちらの瓦礫の下辺りを指さす。二階の床が半分残っているおかげで日影ができている場所だ。そこを休憩場にするようだ。


「ライナス、一度武装解除しろ。少し休め」

「……すみません」

「いや、よくやった」


 長い時間、最前線でひたすら大蛇の攻撃を受け止め続けていたライナスが、息を吐きながらヘルムを取った。遠目にも分かるほど汗をかいている。フルプレートの金属音を立てながら、イリアスたちが作る休憩所の方へとゆっくり歩いてくる。


 リドルフィは指示を出しながら歩き続け、まだ展開されている光壁の前へと来たところで、やっと足を止めた。

一度振り返り、全員の場所を確認しつつ、再び鞘から大剣を抜く。

無造作に剣を持っているだけのような姿勢で、首だけこちらを向け、私を見た。


「グレンダ、壁の解除を」

「はい」


 私は一度大きく息を吸い、吐き出す。

錫杖を構え、目を閉じ、呪文を唱え始める。

構築と違って、解除はそんなに小難しい呪文もなければ、負担も大きくない。


「……鎮まれ、光よ」


 呪文の最後、吐息に混ぜるようにして願い、瞼を上げれば、聖なる光の壁が細かな粒子になってほどけるようにして霧散するところだった。

光壁に遮られて見えなくなっていた魔素溜まりの暗がりが、再び見えるようになる。

その中にまだいくらか残っていた小蛇がわらわらと動き出すのが見えた。

 リドルフィの構えた大剣が、ゆっくりと光り始める。

ぐいっと体をねじるようにして、溜め。

一息に、横一線――……!

光を纏った大剣が、軌跡を残した。

小蛇たちが一瞬固まり、光に切断され、黒い靄になって消えていく。

それを見届けてから、リドルフィはもう一度私を見上げる。

私は高台の上から目を細め、魔素溜まりを確認する。

目を凝らすがもう動いているものは特に見当たらなかった。

錫杖を消し、頭の上で大きく丸を作って見せれば、リドルフィが剣を治め、片手を上げて応えた。



 イリアスが結界石を置き、ロドヴィックが魔法で地面を均した後に柔らかい草を生やした。その場所で、ライナスががしょがしょと音を立てながらフルプレートを外していた。

崩れかけの階段を下りてそこへと向かえば、私はまずはライナスに近づく。


「怪我は?」

「小さいのがいくつかと、後はあちこち打ち身ですね」


 ライナスが苦笑を浮かべている。そりゃ、あれだけ何度も大蛇に頭突き食らわされていれば打ち身もできる。


「治すよ。ここに座って」

「はい」


 ロドヴィックがカーペット代わりに生やしてくれた芝生は柔らかくて、いっそ寝ころびたいぐらいに気持ちよさそうだ。

頭上にある二階の床もこれ以上崩れないように加工してくれたらしい。砂や小石が降ってくる様子もなく日差しを遮ってくれている。

座らせた重騎士の、見える範囲の傷や打ち身を確認してから、手を取る。

ほんの少し顔を顰めたところを見ると、手首にもダメージがありそうだ。

私は口の中で呪文を唱えると、ゆっくり時間をかけて治癒を施す。

どうやら骨は折れていない様子だし、先ほどのウルガの時と違ってライナスは痛みを感じて居なさそうだった。


「お疲れ様だよ」

「ありがとうございます」


 通わせる魔力で治し忘れがないかを確認し終われば、そっと手を離す。

顔を上げれば、先ほどよりずっと楽そうな表情のライナスがいた。

よし、次、と座ったまま近くにいたイリアスを手招きする。

その後、私が各自を癒して回り、ついでにロドヴィックが各自の返り血やら砂埃にまみれた服を綺麗にし、なんてことを続け。

半時後には、全員がこざっぱりとして、一息つける状態になった。



改めて、リドのおっちゃん規格外だなぁと書いてる私がしみじみしてしまったのでした。

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