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遠き日の……(中)


 王都大神殿の奥。

普段は一般公開されてない、奥の聖堂。

そこに、百人近い人が集まっていた。

祭壇の前には、大司祭と、その補佐二人が静かに待ち、

その更に手前には、中央の通路の両側に八人の現役聖騎士たちが並び、剣を掲げている。

賓客席には、今日の主役の親族や友人の他、新たな聖騎士の誕生を見守る王族の姿もあった。


 聖騎士。

生え抜きの騎士の中でも、神聖魔法をも習得したほんのわずかな者たちにだけ許された、称号。

努力だけでなれるものではなく、光の祝福を受けることが出来た者だけが、まずその候補生となれる。

そして幼い頃から親元を離れ、聖騎士としての精神も含め十年以上もの訓練を経て、最後の試練を越えられた者だけが、聖騎士を名乗ることが出来るようになるのだ。

 ただでさえ光の祝福を受ける子供は多くなく、しかも騎士になれる素質のある子となると更に少ない。

そのため国内の聖騎士候補生は皆、ヴェルデアリアの神殿併設の養成校に集められ大事に育てられる。

そうやって育てられても、最後の試練を志願して受け、越えられるのは五人に一人程度。

試練を辞退した者も、試練を越えられなかった者も、聖騎士にはならなくとも、一流の騎士として活躍したり、上級司祭として奉仕したりしている。


 ところどころに銀糸の刺繍の入った薄鈍色の上着に黒いズボン、黒いブーツ。

鉄紺色のシャツに白いスカーフ、そして、宵闇色のマント。

騎士団の物とは意匠は似ていても色合いや細かなデザインの違うそれは、聖騎士のみに許された騎士服だ。

 聖騎士とは、白く清き聖なるものを、守る者。

それ故に聖騎士は首元のスカーフ以外白を身に着けない。

必要とあらば、白き者を己の身を呈して庇い守るために、敢えて黒を纏うのだ。

絶対的守護者である聖騎士は、守護者である故に光だけではなく闇も知らねばならない。

ただ善人で清く正しいだけでは聖騎士にはなれないのだ。

清濁併せた全てを飲みこみ、それでも前を向く強さを持つ者。

それを象徴しているのが、この聖騎士の騎士服だった。


 真新しい聖騎士の騎士服を身に纏い、今日の主役は、皆が見守る中、祭壇へと進む。

驕ることもなく、そして、臆することなく。

真直ぐに前を向き、自然と浮かんだ優しい笑みを湛え。

やがて、大司祭の前へと辿り着けば、静かに膝を折る。


「光の祝福を受けし者よ

 汝、その生まれしこの地を愛すべし

 汝、須らく弱き者を尊び、かの者たちの守護者たるべし

 汝、敵を前にして退くことなかれ

 汝、嘘偽りを述べるなかれ、汝の誓言に忠実たるべし

 汝、いついかなる時も正義と善の味方となりて、不正と悪に立ち向かうべし

 ……――、

 今まさに聖騎士にならんとする者よ

 汝は、聖騎士とし、これらをすべてを守り、生涯聖騎士として生きることを誓うか」


 大司祭が厳かに誓いを問いかける。


「あぁ、誓う」


 若く、そして力強い声が応えた。

横に控えていた司祭が、大司祭に剣を差し出す。

それを受け取った大司祭は、一歩、一歩と静かに進み、青年の肩を剣身の平らなところでゆっくり三回叩き、鞘に納めてから両手で差し出した。

誓いを行った青年はその剣を受け取り、すらりと抜くと高く掲げる――……。


 その瞬間に、わぁぁぁ、と、聖堂にいた者たちから歓声が上がった。

数年ぶりの新たな聖騎士の誕生に、皆が喜んでいた。



「――兄ぃ、カッコよかった」


 参列席の、一番端っこ。

まだ養成校に所属する聖騎士見習いたちに割り当てられた席の一番前で、お行儀よく座っていた少女は、ほぅぅ、と息を吐いた。

式典用の子供用の白い法衣を纏い、黒い髪は器用に編みこんでの、おめかし姿だ。


「……――は確かにカッコよかったけど、あと何年かしたら俺だってあぁなるんだぞ」

「――も? 聖騎士の試練って大変じゃないの?」

「そりゃ、ものすごく大変らしいけど、絶対なる!」


 少女の隣にいた、やっぱり式典用の子供用騎士服を着た少年が言い切る。

色合いは聖騎士の者と同じだがスカーフの代わりにネクタイで、上着の形も違う。マントも片側だけにたなびく短いものだ。

少年の迷いのない言葉に、うわ、言い切った!とその横の同じ姿の少年たちが笑った。


「――はやっぱり聖騎士めざしかー。僕は辞退確定だからなぁ」

「――兄ぃはならないの?」

「そりゃ、聖騎士は憧れるけど、僕は家を継がなきゃだからねー」

「俺は受けるぞ、試練! 受かるかわかんないけど!」

「いや、そこは絶対受かるつもりで受けなきゃダメだろ」


 何年も寝起きを共にした先輩の晴れ姿に興奮して、見習いたちはわいわいと盛り上がる。


「そういや、聖騎士の儀式もカッコいいけど、聖女のもすごく綺麗らしいよな」

「確かもう百年近くいないんだろ、聖女って。生きてるうちに見れるかなー」

「――――がなるんじゃないか?」


 名前を出されて見習い少女は、え、と、びっくりした顔になる。

その顔に逆に名を出した方もびっくりして。


「あれ、違うのか。前、聖女になりたいって言ってなかったっけ?」

「うん、確かになりたいって言ったけども」


 少女は、この数十年の間で出てきた、たった一人の聖女候補。

聖女になれる可能性があるほどの、強い光の祝福を受けた、子。

だからこそ、普通の司祭見習いの子供たちとは違い、遠く親元を離れたヴェルデアリアの養成校に入らねばならなかった。

現状、少女のような強さの祝福をもった子を受け入れられるのは、聖騎士見習いを育てるここしかないから。

だから、当然のように少女も聖女になるつもりで勉強をしている。


「でも、今は違うよー」


 少女は、ふふふーと笑う。

そして、祭壇の近く、今日聖騎士になった青年を優しい目で見つめている金髪の女性へと視線を向けた。

一年程前に合同訓練の時に会って以来、時々会っては姉のように接してくれる年の離れた友人。

彼女が一か月後になるものに、自分もなりたい。


「じゃぁ、何になりたいんだよ。まさか、大司祭様か!?」

「確かに大司祭様もすっごいけども!」

「まさかー。おじいちゃんみたいになりたいわけじゃないよ。そうじゃなくて」


 内緒だよ、と笑って言う。周りの少年たちが皆聞いているのにどこが内緒なのかは謎だけども。


「花嫁さんになりたい。――のドレスの試着、見せて貰ったの。とっても幸せそうで、すっごくすごく綺麗だったのよ」


 私もあんな風になりたい、そうちょっと照れながら笑う少女に。

隣にいた少年だけは、なぜか真っ赤になってそっぽを向いたまま、少女の頭を撫でたのだった。


誓いの言葉は十戒から一部お借りしました。

この手の言い回しって難しい。後日書き直すかもです。

後半は書きながら私が照れた!(脱兎)


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