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食堂の聖女  作者: あきみらい
第3章
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司祭の務め26


 フォーストンを出発して、本日の野営地への移動は、とてもスムーズだった。

途中二回ほど小型の魔物に遭遇したが、ウルガやオーガスタが速攻で倒して、ジークハルトが天へと送っていた。

素早く動ける人がいると助かるね。

 そういえば、話してみたらジークハルトは三十代後半、イーブンと同じ年だそうな。

印象より若くて、彼も苦労しているんだなとしみじみ思った。神殿で相当こき使われているのかもしれない。

逆に、ジークハルトより若いと思ったエルノの方が若干年上で、そちらもちょっと驚いた。

かの戦乱期の所為で、二十代から三十代半ばぐらいまでの年齢層は非常に少ないのが原因だが、考えてみるとこのパーティの平均年齢は四十前後。

エルフでよく年齢の分からないイリアスは置いとくとしても、他は皆、身体的には衰えが出始めているような年齢層だ。

リドルフィをはじめ、その年齢でここまで現役で動いているのは素直にすごいと思う。

 ……私はどうなのかなんて、訊かないで欲しい。鍛えてなんていないし動けるわけがない。普段はのんびり食堂のおばちゃんをやっているのに、今更冒険者まがいのことしろって言われても無理だ。そもそも若い頃だって体力面では劣っていたし、運動は得意じゃなかった。

大人しく壮年マッチョに担がれるのを受け入れるしかないのかもね。


 途中休憩を三回ほど挟んで、夕暮れよりかなり早めに予定していた野営地につく。

朽ちてボロボロになった旧街道沿いの、昔は集落があった空き地だ。

戦乱期の前には廃村になっていて、今はまともな建物は残っていないが、瓦礫の壁などがいくつか残っている。こちら方面へと出向く必要がある時には、今回のように野営地に使われることも多く、薪があれば使える簡易な竈などが残されていた。

また、当時からある井戸もまだ使えるのがありがたい。


 野営用の荷物を、馬の背から降ろす。

二人乗りを予定されているリドルフィやエルノの馬や、重装備のライナスの馬はほとんど割り振りがなく、逆に身軽に動いているイーブン、オーガスタ、ジークハルトの馬には多めだ。

イリアスの馬は、もしかしたら私が乗るかもしれないということから荷は軽い。

オーガスタから煮炊き用の鍋や食材を受け取り、竈の方へと持っていく。

 ここでは簡単なものしか作れないが、料理できるのはちょっと嬉しい。考えてみると数日ぶりか。

いつの間にか神聖魔法使いとしての自分より、食堂のおばちゃんやっている自分の方がしっくりきていることがちょっとおかしかった。

あの頃はまさかそんな風になるなんて思っても居なかったから。

モーゲンの村で過ごすうちに、食事を作ることが自分の中に定着していたんだね。自分が作った料理を食べて貰える喜び、それが今の私を支えてくれているのだと思う。そんなことを思ってしまうほど、久し振りの野営だ。

 井戸の場所を確認しながら、この後の段取りを考える。

竈で使う薪は、夜間に焚火をする分も合わせて、何人かで集めてくれることになっている。

その間に押し麦を水に浸しておいて、野菜を切っておけばいいか。

今夜はそれに干し肉を加えて煮込んだスープと、持ってきたパン、チーズだ。

ウルガとイーブンが少し前に肉を調達してくると言って出掛けて行ったので、それに狩ってきた何かの肉を炙ったものなどを追加できるだろう。

狩りをするのは想定していたので調味料やハーブは少し多めに持って来てある。


「グレンダ、ちょっといいか?」

「うん?」


 エルノに手伝ってもらって井戸の水を汲み、竈に運んでいれば声をかけられた。

魔法で水を出せなくもないけれど、あるものはきっちり使わせてもらう。

念のため、毒などを警戒してエルノに浄化もして貰ったし、更に煮沸しておけば問題なく使える。


「軽く偵察に行く。手が空くなら来て欲しいんだが」

「今から?」


 私から水の入った鍋を受け取って、運びながらリドルフィが言う。


「あぁ、今から。馬を走らせれば大した時間はかからない距離まで来ているからな。……魔物の数とかを見るのは俺だけでも済むが、魔素溜まりの具合はお前に見せた方が早いだろう」

「それは確かにそうだけども……」

「野菜の下拵えなら私がやっておきますよ。皮を剥いて一口大とかでいいです?」

「うん、そうだけども……」


 もう一つの鍋を抱えていたエルノが請け合ってくれた。


「他には誰がいくの?」

「これからオーガスタに声をかける」

「三人?」

「あぁ、その三人だ」


 オーガスタを選んだのは、一行の中で一番敏捷性が高いからだろう。

いざという時に敵を撒くなどは、彼に任せるのが一番確実だ。


「そしたら、オーガスタに声をかけてきて。その間にこっちも話しとくから」

「わかった。ありがとう。エルノ、すまんな」

「いえ、お気になさらず」


 鍋を竈に置き、リドルフィが馬の世話をしているオーガスタの方へ行ってしまえば、私はエルノに向き直る。


「さて、下拵えなのだけどね」


 エルノは丁寧そうだからしっかり頼んでおけば、イリアスみたいに適当なことはしないだろう。

彼女は、手先は器用なのに変なところで大雑把だからね。

私が説明をし始めたら、エルノが慌ててストップをかけて、メモ帳と鉛筆を取り出した。

注意点などもメモを取りながら話を聞く様子に、私はちょっと考えを改める。

……もしかして、私はかなり細かくこだわったことをしていたのかしらね。



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