良夫帰宅
悪魔と天使、和子宅に上がり台所と風呂の間の壁に背を付けて2人並んで立つ。為子は台所で茶碗や皿を並べている。舞台奥から良夫が現れる。玄関前、涼み台の上に将棋の駒を見つけて拾う。
良夫「ん?なんじゃこりゃ?……あ、わかった。あの爺どもがまたここで将棋やってやがったな。ったく……(家に入って)ただいま」
台所から玄関に向かう為子。悪魔が「よっ」とばかり片手を上げ、天使が「どうも」とばかり頭を下げるが為子にはいっさい見えない。
為子「お帰りぃ。お勤め、ご苦労さんね。暑かったでしょ?さあさ、風呂に入って。汗流して」
良夫「和子は?」
為子「もう帰ってるわ。あんたが入るまで風呂待たせてんの。早く入ってあげて」
悪魔「そうそう早く入って。俺も入りたいんだから」
天使「んだ。お願いしますだ。(口を手で押さえて小声で)はくしょん」
良夫「(居間に入って背広を脱ぎながら)母さん、涼み台にこんなの落ちてたよ。これ、金って、もっと金稼ってぇ当てつけ?」
為子「(駒を受け取りながら)ああ……違うわよ。あたしがそんなことする分けないでしょ?これでも感謝してんのよ、あんたに。これはきっと布袋と寿老の爺さんたちが落として行ったのよ。あとで返しておくわ」
良夫「いいよ。そもそも使わせんなよ、涼み台を。だいたい何でわざわざここに来て将棋なんかしやがるんだ?あのハゲとヒゲ。ったく……」
為子「ハゲって、あんただってハゲてんじゃない」
良夫「俺のはまだ毛が何本か生えてるよ」
為子「似たようなもんよ。とにかくだめよ。あの人たちは町の顔役なんだから。涼み台くらい使ったってどうってことないわよ。さ、風呂入って」




