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㉕ 卒業の春Ⅱ

 川野が変装までしてゲットした、井関のやらかし未遂を裏付けるヤツ自身の証言(コートの内ポケットにボイスレコーダーを仕込んでいた)は、コピーして早川先生に渡した。

 井関がどんな暴言を吐いていたのか、俺たちはぼやかしてしか言ってないが……アレを聞いて、先生は正気を保てるだろうか?

 知らなかったとはいえ、『四天王最強の戦士(かもしれない)』で、今後の上司の上司に当たる人を怒らせるであろう井関。

 どうなるのか、俺は知らねーぞ……合掌。



 俺たちの周りには一応、平穏が戻った。


 今回のことを『姫』は自ら、強くファンクラブへ抗議を入れた。

 当然、ファンクラブには結成以来最大の激震が走った。

 イチハシ・ワダは結成メンバーの一員である『シングルナンバー(会員№が1桁のメンバーのこと)』のメンバーであったが、今回の事件の重さを鑑みて永久追放処分となり、また組織として『処した』とも密かに囁かれている。

 もちろん、字面ほど物騒な話ではない。

 が、メンタルがお亡くなりになりそうな罵詈雑言をメンバー全員から浴びせられ、血の気が多い連中からパンチやビンタが飛んでくる、程度のつるし上げは食らっただろう。

 二人ともすっかり大人しくなり、俺たちの姿を見かけるとビクッと身体を震わせて逃げてゆくようになった。


 どれだけ自覚していたのかわからないが、あの連中が犯罪の片棒を担いでいたのは確かだ。

 このくらいは痛い目にあって当然であり、ある意味、当人たちの為だろう。



 そういう有象無象?の決着はついたが。

 最近、少し気になっているのは林のメンタルだ。


 こいつは良くも悪くも真っ直ぐというか、子供みたいに裏表がないというか、そういう男だ。

 そこが魅力であると同時に、陰がなさ過ぎて男として物足りない。少なくとも俺は、密かにそう思っていた。

 しかし最近、林の表情に陰が多くなった。

 あんな目に遭ったんだし、そりゃあメンタルが通常に戻るまで、多少、時間がかかるのもわからなくはない。

 ああいうのは後になってからの方が、じわじわとメンタルにダメージ来るしな。

 ……しかし、だ。

 自分の彼女が心配するほど暗い顔をし続けたあげく、どことなくよそよそしい態度を取って、その心配している当の彼女を悲しませるって……どういうことだよ、林!


「田中先輩」


 林への鈍い怒りを抱え、ぐるぐるとそんなことを考えながらの帰り道。

 妙にこわばった顔をした林に、俺は呼び止められた。


「ちょっと……お話、してもいいですか?」


「……おう」


 何だかしらんが、ちょうどいい。

 こいつの心に、こびりついているであろうアレコレやら、大事な彼女に暗い顔を向け、よそよそしい態度を取っている真意やらを、聞き出してやる!



 駅の近くにある、河川敷。

 今日はよく晴れていて風もないから、あまり寒くはない。

 土手の草の上に、並んで座る。


「で? 話ってなんだ?」


 林は一瞬下を向いてためらった後、思い切ったのか、俺の目をまっすぐ見てきた。

 ビビるくらい真っ直ぐな、圧のある視線だった。


「田中先輩。不躾な質問をします。お怒りになるかもしれませんけど、正直にお答えいただけますか?」


 ひどく思い詰めた田中の態度。

 俺は思わず背筋を伸ばす。


「……おう。何だかおっかないな。怒るかどーかは内容次第だけどよ、訊かれたことにはきちんと、噓なく答えよう。約束する」


 ありがとうございます、と軽く頭を下げた後、林は再び、ぎょっとするような真っ直ぐの視線を俺へ向ける。


「田中先輩。先輩は……、早川先輩、早川尊子さんが、好きなのではありませんか?」



 そう来たか、と、胸でつぶやく。

 まったく予想してなかった訳ではないが、林が、ここまでストレートに訊いてくるとは思わなかった。


「それ訊いてどうするんだ? 俺の気持ちがどうあれ、お前には基本、関係ないんじゃね?」


「訊いてるのは俺です。質問に質問で返さないで下さい」


 林とも思えない?強気での返しだ。俺は一度、大きく息をついた。


「好きだ」


 ごまかしもためらいもなく俺は、シンプルにストレートに、答えた。

 そちらから訊いてきたにもかかわらず、林は、目を見張って絶句した。


「いつ、から……、ですか?」


 かすれ気味の声での林の問いに、俺はまたあっさりと答える。


「気付いたのは高二、だったかな? 割と最近だ。俺は救いようのない間抜けでね、自分でもアホかと思うほど、自分の気持ちに気付けなかったんだよな。でもまあ、よくよく考えてみれば。一番最初に出会った瞬間から、俺はあいつが好きだったんだと思う。……恋愛的な意味でね」


 急に強い風が吹いてきた。

 林は寒そうに、一度ブルッと震えた。


「林」


 今度は俺が、ヤツの目を真っ直ぐ見つめて問うた。


「今度は俺が訊く。お前は早川尊子が好きなのか?」


「好きです」


 打てば響くように答える林へ、俺は目に力を込めてもう一度問う。


「じゃあ。その好きな、大切な女の子に、お前はどうして最近、そっけなくしているんだ?」


 急に林の顔色が悪くなる。


「それは……」


 うつむき、小さな声でヤツはぼそぼそ答える。


「俺が……あの人に相応しい、男だと思えないからです」

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