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⑱ 君が誰を好きだとしても、俺は君だけのナイトでありたい

「ハヤカワー!」


 何を考えるよりも早く、俺はあいつに呼びかけると走り寄る。

 川野も追いかける。

 あいつは一瞬、ハッとしたように俺たちの方を見たが、何故か顔色を変えて走り始めた。


「おい!」

「どーしたんだよ、たあ子ちゃん!」



 何とか追いつき、俺はあいつの腕を捕まえた。

 三人ともゼイゼイと息が乱れている。

 寝不足のせいもあるのか、俺はなんだかちょっと気分が悪くなってきた。


 ここは小さな児童公園だ。

 朝の光にしょぼい遊具がぼんやり照らされているだけで、ひと気はない。

 というか、こんなところに公園があったんだな。

 駅から高校(がっこう)と逆方向へは滅多に来ないから知らなかった。

 頭の隅でそんなのん気なことを思いながら、俺は無理に息をととのえ、あいつに訊く。


「おい、どーしたんだよ、まったく。朝からガッコと逆方向へ行くし、俺たちの顔見た途端、逃げるしよ」


「そうだよ」


 大息をついた後、川野も言う。


「ナンか……あったんだろ?」


 早川は青い顔をしたまま、うつむいて黙っていたが、さすがにもう逃げる気はなくしたみたいだ。

 そばにあったベンチに座ることにした。

 川野がさっさと自販機で、お茶や水やコーヒーを買ってくる。


「……林くんが」


 渡されたペットボトルのお茶をひとくち飲んだ後、早川はぼそぼそと話し始める。


「昨日から家へ帰ってない……んだ。いったん家へ帰ったのは確かなんだけどね、アタシも近くまで送っていったから知ってるし。でも、それからLINEの既読、つかなくなって。変だなあとは思ってたけど、家で急用とかが出来たのかもしれないし……」


 俺と川野は嫌な予感を噛みしめながら、それぞれ水やコーヒーを飲んだ。


「今朝、いつも通り林くんを迎えに、家の近くまで来た時。急にLINEの通知が鳴って。それが……」


 言いながら早川は、スマホを取り出した。



  『ごめんなさい。さよならします。ごめんなさい』



「なんだこりゃ?」


 間の抜けた声が出てしまっても仕方ないだろう。

 つい昨日までイチャイチャラブラブしていたくせに、急に『さよならします』ってどういうことだ? 意味不明だろうが。


「訳わからないし納得もできないし、とりあえずアタシ、林くんの家へ行ったんだよ。そしたらお母さんが出てきて。林くん……昨日の夕方から、戻ってこなくなってるって」


「え?」


 川野の声。意外なくらい鋭い緊迫感がこもっている。


「ナンか知ってるのかよ?」


 俺が問うと、川野はやや青ざめた顔で俺と早川を見ると、ため息をつくような感じでこう言った。


「……勇者ゴーグルの『さいごのたたかい』が、明日の午後5時から始まるよ!()()()()()()を目当てに、ナマイキな魔族の姫が乗り込んでくる予定。一緒にコテンパンにのして、どっちが強いか『わからせ』てやりましょう!……今朝方送られてきた、パーティメンバーへの通知にそうあった。俺は……『賢者』の枠へエントリーしてる。他に候補者は多分いないから、潜り込めるとは思う」


 川野はまずそうに顔をしかめながら、ブラックコーヒーをすする。


「『戦士』と『武闘家』には倉田と佐々木……俺がバイト先で知り合った、北中出身の他校の一年生に入ってもらっている。戦士と武闘家は実戦、賢者は文字通り知識と技術……『さいごのたたかい』の動画撮影と編集、動画サイトへのUPが主な担当になる。『僧侶』と『魔法使い』については、俺がエントリーした時にはもう埋まっていたから詳細はわからん。けど基本、実動というか実戦担当だと思う」


 思いがけない情報の氾濫に、早川は目を見張って絶句していた。


「『囚われの王子』がマジで人間……林、だとまでは、さすがに俺も思わなかったよ。てっきり、適当な話を何かでっちあげて、たあ子ちゃんを誘い出すつもりなんだろうって……」


「これ……ファンクラブの子たちの、嫌がらせじゃなかったの?」


 かすれた声でそう言う早川へ、川野は首を振る。


「違う。俺たちもこの辺のあらましをちゃんと知ったのは、つい昨日だったんだがな。まず。井関がわざわざショーヘイへ『挨拶』に現れてよ。俺は俺で最近、バイト先の後輩からきな臭い噂をチラチラ聞いてて、気になって探り始めたところだったんだ」


 川野はもうひとくち、まずそうにコーヒーをすすった。


「ウチのガッコのファンクラブが嫌がらせしてるとか、そんなかわいらしい話じゃねえんだよ。この件、鬱陶しいことに井関がガッツリ噛んでる……ってか、ヤツこそが主催者だ。それも、中坊の頃みたいに単純に喧嘩を売ってくるんじゃなくて。もっと凶悪で質が悪くていやらしい……たあ子ちゃんを、辱める、のが最終目的だ」


「……はずかしめる」


 川野の言葉を繰り返す早川は、言葉の意味を知らない幼子のようだった。

 遠い目をしてつぶやく。


「これはアタシの問題だから、アタシが何とかしなくちゃって思って……」


「ダメだ」


 俺は声をしぼり出す。


「早川ひとりで、ヤローが複数いるようなところへ行くのはダメだ、絶対ダメだ。川野が言ったろーが。連中の目的は、その、お前の……。そりゃ、フツーのレベルのヤローが複数いようが、お前は勝つだろうよ、単純な喧嘩ならな。でも……林を人質に取られてるんだから。向こうが圧倒的に有利だろうが」


「そうだな」


 川野も苦く同意する。


「林を傷付ける、って脅されたら。たあ子ちゃんは動けなくなる。動けなくなった後のことなんて……考えたくもねえ」

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