事情聴取
裏世界のシエルさんに助けられた件について
「シエル?」
容姿からして外国人だとは思っていたが、珍しい名前だな。
「珍しい名前な気がする」
「これには事情があってね」
事情…どうやら訳アリらしい。
「…そろそろいいか?」
「おっと、そうでした…」
名前に気を取られすぎて、メインを忘れていた。
「薄々気づいてると思うが、今回集まってもらったのはお前が昨日遭遇した奴についての事だ」
やっぱりか。あの現実離れした怪物の事をクリスさんも掴んでいるようだ。
「あれは本来、地上に出ることはなく地下深くの場所に生息しているものだ。そこで地上に出る災害を妨げてくれるんだ」
「地下深くに?では何故地上に…」
「貴方が呼んだんだよ」
「…俺が?」
すると横からシエルがそんなことを言う。え?俺が怪物を呼んだだって?あんなの初めて見たし接点なんてどこにも…。
「奴は特定のものを求めてお前に襲いかかった。本来あるはずのないものを、な」
あるはずのない?そんなもの一体…もしかして…?そんなことを思っていると『これだよ。』シエルがポケットからブレスレットを出し机の上に置いた。…いつの前に腕から外したんだよ。
「怪物はブレスレットを、いや、ブレスレットに付いていた心核を求めていてね」
「心核?」
「本来は心の内側に存在し制御を行っているんだよ」
「制御装置みたいなものか」
「言ってしまえばね。でもその制御装置が無くなり、本能が心核を求めて暴走を起こした。私が本体を倒したから、この心核は効力を失った」
なるほどな…。あれ?本来なら心の内側にあるやつなのになんでブレスレットに付いてたりしたんだ?
「気づいたような顔をしているな。本来は無いものだ。しかし何故お前は持っていた?まだ体長が小さかったからまだしも、巨体が大きいものだと都市一つを破壊することも可能だ」
急に背筋が凍った。そんなもの相手に逃げてたのかよ俺…。
「実は襲われる少し前、とある人から買わされたものなんですよ。なんか『御守り』とか言ってて」
そんなことを言った瞬間、空気が一変した。
「とある人とは誰のことだ?しかも『御守り』だと?」
「えっと、魔女の帽子を被っている人でした。深く被っていたので顔までは分かりませんでしたが。急に呼ばれていきなり『御守りだから』と買わされて…」
そんなことを言うと何やら険しい顔をしている2人。あれ、もしかして何かやばいこと言っちゃった?
「魔女の帽子、それに『御守り』か。…間違いない」
「多分その人は《魔女会》の人だろうね」
何やら同じことを考えているみたいだか《魔女会》…なんかファンタジーみたい。
「魔女会ってなんですか?」
つい口にしてしまった俺は後に後悔することになる。
「…《魔女会》とは、裏世界から干渉し、世界そのものを混沌の底へ陥れようとしている組織かな」
世界そのものを混沌の底へ…、なんか急にスケールが大きくなってきた。
「《魔女会》は様々な事を行っていてね、多分君にブレスレットを渡したのもそのうちの一つかもしれないね」
…なるほど。つまり…うん、現実離れしたことをあれこれ話され、少し目が回ってきた。
「つまりはそういう事だ。今回の騒動は《魔女会》が関係している。さて、そろそろ終わりにしよう。まだ調べることがあるんでな。…また面倒事に巻き込まれるなよ、すず…鈴音」
今なにか言おうとしていたが多分気のせいだろう。俺とシエルは警視庁を後にした。
《魔女会》か、一連の出来事を体験した俺はその言葉を決して忘れないだろう。
「シエルはこの後どうするんだ?」
一緒に出てきたシエルにそんなことを言うと、何やら考え出した。
「…何も考えてなかった」
おいおい、と言おうとしたがよくよく考えてみたら俺も特に考えていなかった。
「貴方…そういえば名前を聞いていなかったね。彼が何回も言ってたけど名前間違えられてたらしいし?」
「そうだな…。あの人いつも間違えるから。九条鈴音だ」
「鈴音…女性らしい名前だね」
やっぱりこの名前聞くとそう思うよなー。
「まあな。でも男性だからな」
「分かってるよ」
そんなことを話しているとお互いに微笑んだ。…彼女その微笑みが脳裏に刻まれたことは言わないでおこう。その後、シエルと別れ俺は我が家に帰った。
「ただいまー」
すっかり日が暮れた頃、俺は自宅のマンションに帰ってきた。このマンションには俺しか住んでいない。両親はどこに?それは俺には分からない。物心ついた時にはすでにいなかったからだ。
「さて、ラノベの最新作でもみよっと…ん?」
家モードになりラノベを片手に座った俺は、違和感に気がついた。どこも変わっていない家。しかし、直感が訴えている。ここは危険だと。俺は以前怪物に襲われたからか、この直感を信じ逃げることにした。靴を履き、ドアを開けた…。いや、開かない!?鍵は掛かってないし向きも間違ってないのに!
「なんで開かないんだー!って寒っ!?」
何故かリビングから冷たい風が吹いてくる。全部閉まってたはずなんだけど…。
「ねえ」
…え?誰かの声?廊下から?いや、廊下からは聞こえてこなかった。てことは、家の中から?俺は無意識にリビングの方へと向かっていた。そこに居たのは、前も見た魔女帽子の人。声の特徴からして前にブレスレットを売った人と同一人物だ。
「ねえ」
「…っ」
この風は彼女から発せられているのか。どうやって出しているのか…じゃなくて何故家にいるんだ。どうやって入ってきた?
「貴方、良い素質を持っているね。」
「素質?」
「そう。貴方は、以前私が渡したブレスレットを覚えている?」
「もちろん覚えている。そのせいで散々な目にあったからな」
「その時のことについては謝らせていただきます。実は貴方が、《魔女会》のメンバーに値する存在なのか試していました」
「っ!?」
「貴方は《免疫》と戦い、無事に勝利を収めた」
《免疫》だと?それってつまりあの怪物のことなのか?それにいま『戦い』って言っていた。俺が戦ったことになっている?シエルが戦ったこいつに知られていない?
「まて、俺は──」
「その件が認められ、貴方は《魔女会》のメンバーとして迎えられます。おめでとうございます」
なんという強制力!さてはこいつ、俺に隙を与えるつもりなんてないな!
「待て、俺はまだ入るなんて言っていない」
「…?」
何すっとぼけているんだこいつは。
「だから俺は入るつもりなんてない。はやく帰ってくれ」
「申し訳ないですがそれは出来ません。もし入らないと言うのなら実力行使をしてでも来てもらいます」
拒否権なんて元々なかった…。俺こんな物騒な組織に入りたくないし!こいつら頭のネジ外れすぎだって!
「…実力行使されても俺はそんな組織には入らないからな」
「…分かりました。交渉は決裂と言うことで」
この瞬間をもって俺と《魔女会》のメンバーとの戦いは始まった。
こうなってあーなっただとー!?つまりはそういう事なんですね分かりません。