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昼休みの出来事~八重百合~

『本当に俺と話したいのか?楓じゃなくて?』


『うん!言ったよね私、あなたのことがもっと知りたいのって?』


あの日、傘を渡してくれた日から彩雫くんの笑顔が頭から離れない。学校で彼のことを見ていたけど、彼はいつも笑顔だった。どうしてそんなに笑顔でいられるのか、その理由が知りたい。私だったら雨に濡れて帰ったらため息が止まらないはずなのに。


でもいつも一緒にいる楓?とかいうあのイケメンはあまり好きになれない。あのすべて悟ったようなあの目、腹の底がまったく読めないし、こちらを見てくる視線が何かイライラする。


『グウゥ』


「ふふっ、お弁当食べましょ」


あぁ彩雫くんが私が作ったお弁当を美味しそうに食べている。よかった、気に入ってくれたようで。今までは何の役にも立っていなかったお家修行が活かせるなんて、人生わからない。今まで真面目に頑張ってきた私えらい!今だけはただ何となく生きてきた自分をほめてもいいかもしれない。


「だし巻き玉子と鳥とひじきの巾着煮です。ちょっと味薄いかなと思ってたけど美味しいなら良かった!」


家で作るのは素材を生かした料理ばかりだから、食べ盛りの男の子には物足りないかもって思ってたけどよかった。


「いや、本当に美味しいよ。俺も少し料理はしたことあるけどここまで繊細に作ることは出来ないし、これだけ美味しく作れたら毎日カップラーメン生活なんて送ってないだろうな」


褒められた!彩雫くんに!自慢じゃないけど私はものすごく褒められる。でもそれは当然のこと。私は皆が思う理想を演じているのだから。でも、こんなにうれしくなることはなかった。


「本当に?嬉しい!いつもより気合い入れて作ったかいがあった♪」


「え、これ八重さんが作ったの?!すご、プロの料理人になれるんじゃないのこれ?」


「うん、家で習ってたから!彩雫君がそうやっていってくれるなら頑張ったかいがあったかな、えへへ」


「なんかの家元って聞いてたしてっきり、お手伝いさんが作ったのかと思ってたよ」


「普段はそうです!今日は……その―――彩雫君に食べっごほん彩雫君はいつも何を食べているんでちゅか!」


危ない、恥ずかしさのラインを超えるところだった。それにこんなこといきなり言ったら彩雫くんに引かれてしまうかもしれない。その代償に嚙んでしまったのは恥ずかしいけど、背に腹は代えられない。


「朝は食べないしたまに夜にお弁当買ったりはするけど普段はカップラーメンと栄養ドリンクかなぁ」


「そういえばさっきも毎日カップラーメン生活送っているって……」


ということは、彩雫くんは一人暮らし!?でも、カップラーメンは栄養バランスが悪いと聞きます。もしも、家で倒れてしまえば誰も気が付かない。そして学校にも来れない!それはっ


「駄目です!そんな不健康な生活を送っていたら体調を崩しちゃう」


「崩しちゃうって言われてもなぁ。料理できんこともないけどカップラーメン美味いじゃん?」


「それじゃあ私のお弁当とどちらがおいしかった?」


「そりゃあ弁当の方がうまかったけど」


ポーカーフェイスは得意だと思ってたのに、ついつい顔がにやけてしまう。そして気持ちがここまで高揚することは今まで私の人生に置いて何かあっただろうか?いや、ない!


「じゃあこれから毎日お弁当作ってくるね!」


「待て待てなぜそうなる?」


「美味しくなかった?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど、そこまでしてもらうわけには……俺、何も返せないぞ?」


「むぅそんなこと考えなくてもいいのに。そうだ!じゃあ彩雫君のこと色々教えて?それとこれからも仲良くして欲しいな。ね?これならどうかな」


「まぁそういうことなら……いやいやいや!それぐらいのことでそこまでしてもらうわけにはいかないだろ」


いや、そこまでのことがある。私は好かれている。でもそれは畏敬の念で心の距離は遠い。誰だってお姫様と友人になろうとは思わないでしょ?もしいてもそれは何か裏がある人ばかり。少なくとも私なら距離を取る。だって、自分より優秀な人を見たら自分が傷ついてしまうから。人間は本能的に察しているんだ。だからこそ「あの子は私とは違う」とまるで異世界であるかのように世界を隔てる。


そんなこと彩雫くんは分からないし理解できない。でもそんな彩雫くんだからこそ仲良くなりたい!そのために私は今日ここにいる。


「私がしたいと思うからするの!」


 ……


 …………


 ………………


『キーンコーンカーンコーン』


……冷静に考えると少し恥ずかしくなってきた。


「あ~八重さん?それは一体……」


あぅ、彩雫くんが困ってる。そ、そうよね。いきなりこんな漫画みたいな展開されたら困惑する……も、もしかして引かれた?


「あっ!ま、また明日ね!それでは!」


「え?八重さーん!?


……逃げてしまった。

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