花火の音は聞こえない
「花火綺麗……」
「だな、ここだと海の音とまじりあって風情があってまた別の良さがあっていい」
百合について海辺へとやってきた。
「ふぅ……今日は楽しかったな」
「うん、楽しかった」
「海で遊んで、体動かして、美味しいもの食べて……セントレアには感謝しないとな。セントレアは感謝とか求めてないって言うだろうけどな」
「ふふ、楽しむことがセントレアにとっての感謝かも」
「じゃあこれからもっと、たくさんの楽しいを作っていかないとだな」
「うん」
初めはどこか歪だった関係。百合は俺にしか興味はなく、楓は女子が苦手で、鳳花も警戒していた。
「セントレアだけじゃなくて、杏華も、鳳花も、楓も……みんなで」
「私と、彩雫くんも」
「だな」
でも、皆で話して遊んでいく中で複雑に絡まっていた関係は解かれ、一束にまとめ上げられた。
「遊園地とかテーマパークも行きたい、百合は行きたいとことかやりたいことないの?」
「私も遊園地行きたいな、彩雫くんと、皆と一緒に」
歪さは今ではその片鱗すら見られない。歪な関係は一束となり絡み合うことでより強固な関係になった。
「じゃ、今度誘って行くか」
そう、時は流れ物事は変わっていく、百合の俺に対する感情も。昔一度告白されて、俺は断った。それは百合が俺に対して恋愛的な感情を抱いていなかったからだ。だが、今はどうだ?百合は確実に俺を好いてくれている。それだけは。俺が断った時から一度も変わっていないだろう。
「でも、私は彩雫くんと一緒に、2人だけでも行きたい!彩雫くん、私は……」
俺は今2回目の告白を受けようとしているんだろう。1回目は断った。じゃあ今回も断るのか?俺は鈍感系じゃない。百合の気持ちはずっと前から気が付いていた。というか、鈍感でもあれだけアタックされたらわかる。でも、まだ一過性だと、俺をしっかりと知ればその気持ちも変わるだろうと思って受け入れなかった……いや、俺は関係が、今の結束された関係が崩れることが怖かった。だから逃げ続けている。
「百合その先の言葉は言わないでくれ」
「ッ!彩雫くん!」
でも、杏華も言っていたじゃないか。何かが変わっても、関係は変わらないと。皆応援してくれている、今2人きっりで居られるのがその証拠だろう。なら、やることは決まっている。
そう、答えはすでに用意されている。
「俺は百合のことが……好きだ。俺と付き合ってください!」
「……ごめんなさい」
これで俺は百合と恋人関係になる。
ん?あれ、今百合なんて……ごめんなさい?え、振られた?ってことは俺のちょっと前の長ーい解説は?百合の感情がどうこうとか、今から告白されるんだろうとか思ってたよ?!え、勘違い野郎?え、恥ずかしい奴?
あああああああああああああああああああ!
「ふふ、彩雫くん私の事好きだったの?」
「……あぁ」
ははは、ふられるとはおもってなかったけどネ?
「知ってる。私は彩雫くんのことなら何でも知ってるから。ずっと前から私のこと好きだったのに、色々と余計なことを考えて、自分の気持ちを見ないようにしてた」
「そう、だな」
「私は告白しても降られて、アプローチしても流され、焦らされてきたんだっから少しくらい意趣返しをしてもいいでしょ?それにいきなり自分からなんてずるい!だから、やり直し……私は彩雫くんのことが大大大好きです。付き合ってください!」
ははは、そうだよな……俺が頑固に凝り固まっていた自分のエゴを譲らなかったから百合に色々と考えさせてしまった。関係を守るためにと、百合の感情を無視して来たんだからこれくらい甘んじて受けるべきだ。
「俺も百合のことが好きだ!」
「彩雫くん!」
「っと!百合」
飛び付いてきた百合を受け止め抱き合う。
ずっと近くにいたのにどこか遠くて踏み込まなかった領域はとても暖かく、幸福に包まれている。
緊張がどんどんとほぐれて行く……
どれだけの間そうしていただろうか。聞こえるはずの花火は聞こえず、ただ世界にあるのは互いの存在だけ。間に存在していた領域は次第に曖昧となっていき、やがて存在が溶け合って一つになる。
「この日をどれだけ恋い焦がれていたか」
「すまん、遅くなった」
「馬鹿……」
百合の身体は震えている。……百合の気持ちは昔から変わらなかった。だが、俺たちの関係は少しずつ変わっていき、そして今日大きく変わった。俺は理解しなければならない。この短い言葉にいったいどれほどの感情が込められているのか。
「彩雫くん、花火」
そういえば、花火の途中だったな。ちょっともったいないことをしたかもな。すまん、セントレア。
「これは……すげぇな。そこらへんでやってる花火大会より迫力あるんじゃないか?ピンクだったりハートばかりなのが気になるところだけどな」
「ふふ、私達にはピッタリでしょ?」
「だな」
……セントレアこっちの状況見てるな?まったく、俺らが付き合う可能性なんてそう高くなかっただろうに、わざわざ花火まで用意して、俺らのムードを高めるための演出までして。さすがだよ。
そろそろフィナーレなのかより一層激しくなっていく。
「ナイアガラもすごいけど水中付近でも花火爆発してるし、なんなら水面を走る花火もあるぞ?」
「うん、本当に奇麗……でも私は」
視線を感じて横を見ると百合と目が合う。
「彩雫くん見てる方が楽しいかな?」
……やばい、この笑顔が素敵できれいな子が俺の彼女なんだ。今までも散々されてきたアプローチだけど、心臓が爆発しそう。
「百合、奇麗だな」
「でへへ、彩雫くん!」
あぁ、抱き合うとすごく落ち着く。やばい、今まで鋼の精神で耐えてきたけどその必要がない今ダムが決壊して溺れそうだ。それほどまでに今の百合は魅力的で、抗うことなどできないし、する気もない。俺が我慢していたらまた百合を傷つけることになるから。
「百合」
「彩雫くん」
「好きだ」
「うん、私も」




