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矜持

「お待たせ、買ってきた。ありがとう、すごく、助かった」


私じゃこんな服買えなかったし、自分を変えるきっかけにはならなかったけど、自分を知ることが出来たから、とりあえず良しとしよう。


「あー俺らのやることは特にないけど、椎名さんなんかやりたいこととかある?」


「ない、けど……」


あ、水着屋さんがある。お母さんも海にでも、誘いなさいと言っていた。ゲームのキャラクターも楽しんでいた。海、行きたいな。


「椎名さん?」


「海、行きたいな」


「いや、それは無理だろ」


「あ、ご、ごめん、だめだよね」


つい、言葉が出てしまった。でも、言えた。……残念ながら断られてしまったけど。


「だめというか、今日海行くのは無理だろ?」


「無理ね、でも、夏休みはまだまだ残ってるし、私はいつでもいいわよ?」


「え、いいの?」


「もちろんだろ?え?俺らが断ると思ってたわけ?」


「本当は彩雫くんと二人で行きたいけど……杏華も、それにみんなもいたほうが楽しいでしょ?」


私は……深く考えすぎていたのかもしれない。


最近、アプリコットという仮面を無くすための努力をしていた。皆の前ではなるべく椎名杏華であろうとしていた。その努力が裏目に出てしまった。アプリコットなら自信を持ってすぐにでもみんなを誘えていたかもしれない。椎名杏華なら皆を信頼して誘えていたかもしれない。アプリコットと椎名杏華の本質は変わらない。でも、私はそんなアプリコットに憧れていたし、アプリコットもまた、椎名杏華に憧れていた。


でも、仮面と素顔があいまいになることで、アプリコットの自信は中途半端に残り、既に()()()()椎名杏華を変えようとする意志を持たせ、椎名杏華は皆を大切に思うが余りに考えすぎてアプリコットの()()()()()()()意志の行く手を遮ってしまった。


そう、簡単なこと。いつも通り、のうきんの私でよかった。柄にもなく色々なことを考えてしまったからややこしくなってしまった。


「海行くなら、水着、欲しい」


「持ってないの?」


「あるけど、スクール水着しか、ない」


……中学から体型変わってないから。自分のことながら意外と似合うだろうことが想像できる。


「スクール水着ってどんな属性だよ」


「彩雫くんスクール水着好きなの?」


「いや、別に好きじゃないが?!」


「そうなの?」


「そうなの」


「ん、だから、私の水着、百合ちゃんに選んでほしい」


うん、いつも通り。そう、いつも通り。


「うん、でも、彩雫くんに選んでもらうのもいいんじゃない?」


「い、いい。美少女の百合ちゃんに選んでもらう、でへへ」


「俺も水着選ぶのはレベル高すぎるから無理だが?」


……ちょっと残念かも。


「八重さんはあるの?」


「あるけど、ちょっと小さいかも」


「お、じゃあちょうどいいじゃん、一緒に買っちゃえば?そうだ、八重さんは椎名さんに選んでもらえばいいんじゃね?」


「うーん、彩雫くんに選んでもらいた……でも、うん、杏華に任せてみようかな」


「え、わたし?」


そんな、完璧美少女の百合ちゃんの水着を私が?でへへ……


「でも、ただ選ぶだけじゃ面白くないでしょ?彩雫くんにどちらがいい水着を選んできたか審判してもらお!」


「つまり、勝負。百合ちゃんが、珍しい。受けて立つ」


「俺は嫌なんですけど」


自分のおしゃれは正直あまり興味ないけど、人のは興味がある。ゲームでもおしゃれは重要だし、勉強はしている。それが百合ちゃんなら私の実力を完全に活かすことが出来る、勝てる可能性はある。


「じゃあ、このお店の着替え室の前に5分後集合ね?よーい、スタート」


「え、俺の意見は?ちょっと?え、聞こえてない?おーい……」


5分、短い。その間にこのお店で一番百合ちゃんに似合う水着を探さないと。一番じゃなくてもいいかもしれない。でも、完璧美少女の百合ちゃんが着る水着、一番似合うもの以外ありえない。私がそんなの納得できない。


「百合ちゃんなら……黒一択」


百合ちゃんの黒髪と白く玉のような肌を目立たせるなら黒色しかない。あとはどういうタイプの水着にするか。


「うーん、ワンピースタイプは、なんか、違う気がする」


やっぱり、ビキニかな?百合ちゃん肌出すのに苦手意識とかなさそうだし。彩雫くんに喜んでもらうためなら一番いいかも。でも……なら、バンドゥビキニの方がいいかな?胸の大きさ気にしてそうだし、クロスデザインの水着か、ホルターネックの水着がいいかも。


あ、このフリル付の黒い水着いいかも。でも、ちょっと子供っぽいかな?個人的な趣味だけど、百合ちゃんにはかわいい系よりセクシー系を着てほしい。


「ん!これ、いいかも」


予定通り、黒いホルターネックの水着。銀のアクセサリー?みたいなのもついてて百合ちゃんに似合いそうだし、これにしよ。


「あ、杏華も決めた?じゃあ、はい、これ着替えて出てきてね?」


「う、うん」


あれ、深く考えてなかったけど、水着着て三矢くんと百合ちゃんに見てもらうの?……う、自信がいくら付いたと言って完璧美少女と男の子の前で水着になるのは。


「いや、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ。百合ちゃんがせっかく、選んでくれた。三矢くんも期待してる」


よしっ!


「彩雫くん、どうかな?」


「三矢くん、どうかな?」


あ、百合ちゃんと被っちゃった。


……百合ちゃんとても綺麗。やっぱり黒の水着にして良かった。すごく似合ってる。


「あー2人ともに合ってるよ」


「あ、ありがと。うぅ、でも、百合ちゃんかわいい、スタイルいい」


「私よりスタイルいい癖に。じゃなくて、杏華も可愛いから自信を持って、……彩雫くん、かわいいわよね?」


「そうだな」


か、かわいい。


う、恥ずかしくて、心臓がバクバク言ってる。もしこれで、百合ちゃんが選んだのがビキニだったら、私倒れてたかも。あ、百合ちゃんがこうなること分かってワンピースタイプにしてくれたのかな?でも、そもそも私身長低いからビキニは似合わないからかも。アニメとかでもビキニ来てるのは百合ちゃん見たいなスタイルがいい人が巨乳の人。私は胸はあるカモだけど、身長が低いからやっぱりアニメだとスクール水着になっちゃう?さすがにそれを彩雫くんに見せるなんて……私には無理。


……だめかも、心臓の音が鳴り止まない。ひーふーひーふー。よし。


「でも、やっぱり、三矢くんも、八重さんに視線、行ってるし」


「み、見てないし!……と言えばウソにはなる、そもそも、スタイルがすべてじゃないしな。やっぱり全体のバランスでしょ。ほら、椎名さん全体的にいいバランスだし、そこに黄色のワンピースがいい感じに馴染んでかわいらしくなってるでしょ」


う、うぅ。ちょっと、うれしい、かな。


「むぅ、杏華にだけしっかり感想言ってる。私にももう少し具体的に……ほら、もっと見てもいいから、ね?」


「八重さん鬼畜すぎだろ」


「やっぱり、八重さんの黒くてきれいな髪に黒い水着がよく似合ってるね」


「あとは?」


「スタイリッシュな形の水着が八重さんのスタイルを引き出してる」


「ふふ、ありがとう、あと?」


「……いつもよりスタイルがよく見えるね」


……はぁ、本当に百合ちゃんはきれい。彩雫くんも百合ちゃんのことよくわかってるみたいだし、本当にお似合い。


「椎名さんからもなんか言ってくれよ、こういうのはゲーオタにはきつすぎるって」


「え?あ、うん。でも、意外。三矢くん、結構、いいこと言ってた」


「それなら、椎名さんが八重さんの水着に興奮しなかったのも意外だけどな。お前美少女好きだろ?」


否定はできない。普段の私なら、興奮して鼻血だしてたかも……でも、色々考えることが合ってそれどころじゃなかったしあんまりきもくなかったはず、はず。


「私は、三矢くんとは、違う。そんなキモイこと、しない……はず」


「じゃあ、彩雫くんちょっと、外で待っててね。水着、買ってくるから!いこ、杏華」







「ここまで、来たらいいかな?杏華唐突なんだけどちょっとお話しない?」


「う、うん、何?」


「私が実は性格悪いの知ってるでしょ?」


「知ってる」


「もうちょっと、オブラートに包んでくれても」


「でも、そんなところも百合ちゃんの魅力、かわいい」


「ありがと。……私ね、最初はあなたと仲良くなる気はあまりなかったの。偶然彩雫くんと関わりが出来て、その偶然にしがみついているだけ……そんな人に彩雫くんと私が話す時間が取られるんじゃないかって」


「……うん」


それは本当のことだ。偶然が無かったら私から彩雫くんに話しかけるなんてことはしなかった。


「でも、間違いだった。杏華は彩雫くんの相棒に足る人で、下手をしたらこんな私よりも彩雫くんにふさわしい人だった」


「そ、そんなこと。百合ちゃんの方が……」


「そういう所、ねぇ杏華今悩んでいるでしょ?、杏華に信頼されてる私に相談してみない?」


「で、でも」


百合ちゃん、すべてわかっているんだ。そのうえで……


「杏華の自分よりも皆を優先する漢気、本当にすごい……でもね、私も杏華をもう認めてるの。私達にそんなに気を使わなくても大丈夫、私にもセントレアさんみたいにもっと気軽に接して?私たちは対等なんだから。杏華が悩んでいたら私も楽しめないから、ね?」


「わたし、わたしは」


気が付かないふりをしていた。それが自分らしくないと分かっていながらも。



「私は彩雫くんが好き」



でも、この気持ちは隠しておかなければと思った。私は彩雫くんの相棒だから。こ、恋人は八重百合の方が相応しいと、彩雫くんと出会う前から思ってしまっていたから。そして、出会った後には確信に変わった。でも、やっぱりアプリコット()らしく割り切ることは出来なくて、抱え込んでいた。


そんな私の気持ちを百合ちゃんは……


「ご、ごめんなさい、迷惑かけちゃうと思って、ごめんなさい」


「ちょっと杏華、泣かないで?もう、本当に難儀な子なんだから」


「だって、もう私が入る隙間なんてないのに」


「うん、そんな隙間私は作らない!でも、恋心なんてだれかが制御できるわけじゃないでしょう?杏華に彩雫くんをあげる気はない。でも、その恋心で悩んでいる杏華を見るのもつらい、私性格悪いから、ね?私は杏華に諦めてほしい、でも、私はそれを強制なんてできないし、する気もない。でも、今の状況は杏華らしくない。追うも辞めるも杏華次第、でも逃げるのだけは違うでしょ?」


「うん、ありがと。何も解決してないし、自分は、一つも曲げてない。性格悪い……でも、やっぱり百合ちゃんは百合ちゃん」


結局、言ったことは彩雫くんは私のものっていうこと。でも、私のことをしっかりと考えてくれているのがよくわかる。そのおかげで……。


 ふぅ、吹っ切れた。もしかしたら、アプリコットと杏華の境界線を曖昧にしていたのはこの気持ちなのかもしれない。


「もう、大丈夫、じゃあ、行こ?」


「そうだね。彩雫くんも待ってるし」


「うん」


吹っ切れるとやっぱり気が楽だ。それこそ初めてアプリコットをやって漢キャラでやっていこうといろいろ吹っ切れた時と同じ感覚。もう、悩むことはない。いつも通り思った事を口に出すだけ。


「お、やっと来たか。遅かったじゃん」


「うん、ちょっとサイズ調整してもらって」


「なるじゃあ、行くか」


「うん!」


「百合ちゃん」


「ん?」


「私、諦めるから」


私は相棒。それは今も昔も変わらない。

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