【第十四話】退院、そして。
フラグ回収って難しいけど楽しい。
入院生活の1日は、短いと言えば短いが長いと言えば長かった。
否、今思うと短く感じ、入院中はとてつもなく長く感じた。
例えるなら学生生活も似たような感覚だろう。
現役の時は毎日が長くて退屈だが、社会人になった途端に
風の如く過ぎ去った時間を惜しむあの感覚だろうか。
一日一日、景色自体は変わらないが感覚は日を重ねるごとに
段々と変わっていくものである。
初日なんざ時刻構わずかき鳴らすサイレン音が耳障りで
仕方がなかったが、数日も経てば
今日も彼らは人の命を助けるためにいつも必死に
なっているのだと実感する。彼らはその覚悟を持って今も、こうして
仕事をしているのであろう。
そしてそんな俺はオフの日のこいつらを楽しませる仕事だ。
…なんていざこの場で活躍している彼らを前にそう割り切れる
はずもなく。
俺にはこんなことしかできないんだという感覚の方がどちらかといえば近い。
しかし職業を問われたときに返答した時の反応は確実と言っていいほど
医者たちには驚かれた。何を隠そうあれは本当の反応だった。
俺の職業も、数多の人間が憧れ叶えることのできなかった、
努力だけでなく、強大な運がないとできない職業。
やろうと思えばできるが、そこで人気になれるかはそれこそ
人々を楽しませる努力と強大な運がかかってくる。
ひょっとしたら、これで成功するのは医者よりも難しいことかもしれない。
入院最後の日、院内で知り合ったやつらが、廊下ですれ違うたびに
話しかけてきてくれて、俺の退院を祝い、同時に
俺がいなくなることを惜しんでくれる人までいた。
ネットだけでなく
リアルでも俺のことを必要に思ってくれる人がいた事実に
不謹慎ながら少し喜ばしいとも思ってしまった。
「おにーーさん!!!!!」
やっぱり来たか。
お前なら必ず来てくれると信じていた。俺は最後にあいつに
話したいことがあったからな。
そして同じように、彼も話したいことがあったらしく。
少年は一つの紙を抱えて俺をじっと見つめる。
「ねぇ、イラスト描いたよ!もらって」
「お、本当に描いてくれたんだ!ありがとう」
「あとさぁ、、、お兄さんのばぁか」
「……え?」
いきなりすぎる発言に困惑する俺。
「今は病気だから髪ないけど、私は女の子だよ、ばぁか!」
…え、あ、そうだったのか!?お、女の子!?え、申し訳な、、
あ、だから今まで「男なのに」「少年」、そう言ったときに…
彼…いや、彼女が顔を顰めたのはそれが原因だったのだと理解する。
「ご、ごめんな、じゃあ代わりにお兄さんがいいこと教えるから、許してくれ」
「いいことぉ、?」
「お兄さんね、配信者やってるんだ、がぶりえるって名前なんだけど、
暇な時は俺を見て、元気出してくれ」
「!!がぶたん!わたし、しってる!!いつもみてるよ!!!!おじさんのひと!」
「うぉ、まじで!?!?じゃあこれからもよろしくな!少年…じゃなくて
…名前、なんて言うんだ?」
「かなみだよ!!」
「じゃあこれからもよろしくな、かなみ」
「!!」
最後に彼女は過去一の笑顔を俺に披露してくれた。
「うん!!よろしくね!!!」
目にうっすらと涙を灯しながら。
俺が知らなかった人も、この職業のお陰で間接的にだが
俺の存在を知っていてもらえる。
今の世界って本当に進歩したものだな。
ところで彼女がこの前言っていた「お兄さんの声、なんか聞いたことある」
これって彼女は俺の声を配信を通じて覚えててくれたということか。
よし、いつか一緒に飲みに行こう。
イラストは直接持って帰るのは原則的にあれなため、特別に
近いうちに家に送ってくれることになった。
久しぶりにTwitterを開くと、一週間更新してないこともあってか
リスナーたちが困惑しており、死亡説まで唱えるやつまでいた。
久しぶりの投稿だ…みんなの反応が楽しみで仕方ない。
『ただいま、今日配信するからみんな待っててね!!』
まさかの女の子でした!!そして退院おめでとう(?)
どんなイラストを描いてくれたんでしょうね!
評価&ブクマ登録、よければぜひ、!!