③ 天国へのぼるおじいさん杯
「おじいさん、また話せる元気がある時、話してね」
おじいさん目ェばちっと開いたぁ――! さては聞いてもらいたがりね?
「マリーヤ……子どもたち連れて…川遊び…行った時はぁ、楽しかったなぁ……」
「……うん?」
ピコピコからおじいさんの設定を聞いたの。若い頃厄介なヤンキーで、村の鼻つまみ者だったって。で、イキってどこか殴り込み行った先で子ども作って、その子だけ連れて村に帰ってきた。それがマリーヤの父親。マリーヤの両親はマリーヤ生まれてすぐ死んじゃって、彼女は5歳からおじいさんに育てられてる。
マリーヤがフランポフルトから帰ってきた後は、おじいさんも人が丸くなって、それなりに村人たちと交流もあったようだ。
「川遊び、ねぇ……」
散歩で川にやってきた。おじいさんにとってマリーヤは可愛い孫娘だっただろうけど、もし孫が男だったら、雰囲気違うじいちゃんだっただろうな。なんせ元ヤンだし。
「ここけっこう魚泳いでるね」
「村民のいい釣り場みたいだピコよ」
「釣りかぁ、好きな人は楽しいだろうけど、あんまりみんなで盛り上がる感じじゃないなぁ」
「現代人にとって釣りは楽しむものだけど、ここの人らは食生活かかってるピコよ」
「あそっか。でも私はやっぱり現代人だから、楽しみたい。でも釣るより掬いたいな」
「すくう?」
「うん。金魚すくいみたいに。よくおじいちゃんと縁日いったんだよねー、思い出した」
「ここは金魚すくいの水槽よりよっぽど大きいピコ」
「……大きい水槽みたいなこの川で、魚すくってたら、楽しさは伝わる?」
おじいさんを最後に1度だけ、川に連れてこよう! みんなに協力してもらって! まずはスチーブンのところだ。
「ねぇスチーブン、おじいさんに冥土の土産となる、思い出の風景を見せたいんだけど、協力してくれる?」
はい、ちょっとウインクしてっと。
「もちろんさ! 君のために頑張るよ!」
「人数いっぱい欲しいから、アベシとフラソツとギャフンの家に案内して!」
まずはアベシのとこよ。
「ねぇアベシ、おじいさんに~中略~してくれる?」
えーい、上目遣い&ウインクだっ!
「もちろんさ! 君になら一日中踏まれててもいい!」
この人もかっこいいじゃないの……もっと自分を大切にして?
「ねぇフラソツ、ほぼ略」
特別に上目遣い&投げキッスよ。
「もちろんさ! 5股されててもいいっ」
5股バレてーら。それにしても子分が増えて、桃太郎になった気分ね。
「きびだんごいらないなんて、エコだピコ~~」
「ねぇギャフン、もういろいろバレてると思うけど、協力して!」
「もちろんさ! 誰のものにもならない崇高な君が好き!」
このモテっぷりをエリザベースにちょっとでいいから分けてやれ……。
「片田舎と社交界じゃ釣り堀の質が違うから仕方ないピコ……」
「一応5人集まったけど、もっと欲しいなぁ」
「はい!」
挙手をしたのは、えーっと、フラソツかな。
「はい、フラソツ」
「マリーヤに憧れてる男子、もっといるから呼べると思うよ」
マジか。
「じゃあ私がリクルートするわね。あとやっぱり女子もいた方がいいのだけど」
「はい!」
「どうぞ、スチーブン」
「僕の4人の姉ちゃんたちに声かけてみるよ。僕8人兄弟の末っ子だから!」
おお~、末っ子強そう!
「でも人を集めて、君は何をしたいんだい?」
それはね。
「天国へのぼるおじいさん杯! 川魚すくい大会を開きます!!」
「「「「???」」」」
さて、解散して夜も更け。ああは言ったものの、金魚すくいに必要なあれ。
「あれ、なんて言うピコ?」
「ポイよ、ポイ」
ポーイ……あ、思い出しちゃった。
「あんなの作れるピコ? 紙なんてほいほい使えないピコよ?」
「そうよね、でも紙じゃなくて、もうひとつあるわ」
そう、それとは。
「最中!! さいちゅうと書いて、も・な・か!」
「モナカは日本のお菓子ピコ」
「小麦粉があれば何でも作れるぅぅ!!」
「ムチャ振りピコ――!」
「ムチャは百も承知よ。でもこの歴史において発明って、無茶をする人間によってなされてきたの」
私は特許は申請しないわ。おじいさんが喜んでくれればそれでいい。
「あともちろんプラスチックなんてないピコ」
「最中ポイは針金ホルダーだからプラスチックはいらないけど、針金なんてどうすれば……」
「…………」
ピコピコ、なにか言いたげね。ええ、私も気付いたわ。
「このタンスに詰め込まれてるこれぇぇ!」
開けたらまたなだれ出てきました。強度マシマシのこのワイヤー束。
「じゃあ、男性陣はおじいさんを川まで運ぶ担架、背もたれが斜めのベッドっぽい椅子、を木材で。ワイヤーでホルダーを作る作業をお願い。女性陣は薄焼きクレープを作って、実際水に付けて試して改良する。よろしくお願いします!!」
うわぁ~~文化祭感出てきたぁ!
「友達いないから文化祭嫌いだったピコ?」
言うな……。
マリーヤ、男性に対して5股とかふざけたことしてる割に、この女性たちともうまくやってるみたい。
「腹黒じゃなくてコミュ力高いって設定だピコ」
転生するならそれがいいな……。
「ちょっと男性の方、見てきますね~~」
ワイヤーの方はちゃんと説明通り作ってくれてる、みんな器用だね。だけど椅子の方がね、けっこう大がかりで、なかなか。
ん、足音が近付いて来てる?
「なんで俺をのけ者にするんだい?」
「ピータン……」
「俺は職業:大工だよ? プロフェッショナルだ」
ヤギのお世話係じゃなかったのね。言われてみれば、その引き締まったイイ身体は肉体労働の賜物か。
「ピータン、お願いできるかしら?」
「任せて、マリーヤ」
え、なんで自然にウインクするの。ちょっとドキドキする…。やっぱりピータンかっこいい。でももう元カレなんだよね。
お読みくださりありがとうございます。
続けてお読みいただけたら嬉しいです。
エリザベース紹介: 青い目のおフランス人形めいた娘。
趣味はお散歩。何か頼まれたら断れない性格。
マリーヤ紹介: ツイン三つ編みの娘。
何か発明をして特許を取りたいと片田舎で密かに
野望を抱いているフシがある。