① 腹ペコ美少女
さて、久しぶりのマリーヤルートよ。
「あら、おかしいわね。私の部屋、前より広くなったと感じるのだけど……」
「マリーヤ、おじいさんを穏やかに看取れて満足してたピコ」
「そっか、良かった。ならこれから前向きに明るい未来へと羽ばたけるのね!」
じゃあ、まずプレゼントボックスを開けましょ。
「ん? あれ??」
ここにあったはずのタンスが……ない!
「ここにあったボロい鏡台も、日記を書いてたはずの机と椅子もない……どういうこと?」
あ、ピコピコが暗~~い顔してる……オートプレイの間に何があった。
「ん、ベッドの上に日記帳が」
なになに?
【お金がない……。一昨日も昨日も今日も、朝ごはん牛の乳、昼ごはんヤギの乳、夕ごはん羊の乳……だけ】
乳飲みすぎ――!!
「自家製なんだから平常運転ピコ」
「いや、だけってのが問題よ。まだ若いのに。どうしてそんな急にお金なくなっちゃったの?」
「実はマリーヤ、家にあった全財産をおじいさんの葬儀に使ってしまったピコよ……」
全財産……。
「葬儀の何にそんな使えるの!?」
「まず葬儀参列者に懐石料理のフルコースを振る舞い……」
そんなの村人集結しちゃう!
「次に有名な画家を呼んで、おじいさんのご遺体から想像できる、10代~70代の輝かしいメモリアルな肖像画を描かせて」
まさか10年毎の7枚!?
「石像も建てる予定で彫刻士を予約したピコ」
クーリングオフして!
「まさか、タンスも机も鏡台もないのって……」
「全部質に入ったピコ」
ベッドがかろうじて残って良かった……とりま寝られる。
「ここに来て発覚。マリーヤも頭エリザベースだった」
「一時的なおじいさんロスだピコよ」
「全財産だよ? 失った物が大きすぎる」
それからの彼女はどうしてたんだろう。
たった一冊大事に使ってたこの日記帳が最終ページの最後の行まで埋まっちゃってて、3食乳以降の情報が得られない。
「ねぇピコピコ~~。なんか便利アイテムないの?」
「う~~ん」
「おじいさん出現といいピータン出現といい、バグ出してるんだからさぁ、運営側もお詫びのアイテムくれてもさぁ~」
「う~~。めんどくさいお客サンピコ~~。じゃあ1回だけピコよ! ゲームマスターが使ってる村の監視カメラをハックするピコ~~」
「おお~~有能NPC!」
ご都合主義モニターが現れた!
【はぁ…やっぱり都会に働きに出たいわ。でも都会に出るための旅費がない……】
マリーヤ、ゲームオーバー寸前。もうそこらの男と結婚しちゃえばいいのに。
「プレイヤーがイイ男と恋をして楽しむゲームなんだから、オート中にそういうことしないピコ」
あ、マリーヤ道端で急にダイブした! どうしたの? 大丈夫?
『お嬢さん、大丈夫かね!?』
転んだ彼女を身なりの良い中年男性が抱きかかえ起こした。おじさま、実業家風なのになんでこんな田舎村歩いているの。
「農場経営のお金持ちあたりピコ」
そしてその男性は彼女の顔をじっくり見つめている。
『美しいお嬢さん、お怪我は?』
【いえ、ありません、ありがとうございます】
『それは良かった。少し私と湖のボートに乗りながらお話でもしませんかね? おや、時間がない? それは残念だ。名刺を渡しておくのでいつでもお訪ねくださいね』
ちっ。もうその金持ち中年の後妻に入れよ。
「後妻決めつけピコ~~」
「だってこの子こんな感じでいくらでも道が開けるじゃない。食べるものだって、いくらでも村男たちからもらえそう」
「彼女は下心見えるのが嫌なんだピコ。だから受け取ってないピコ。おじいさんのそれのような、無償の愛を求めてるんだピコ~~」
「無理ゲーすぎる」
「続き見ないのかピコ?」
左手で受け取った名刺は一応エプロンのポケットに入れたみたい。
「使うかどうかはのりえ次第だピコ」
ていうか、マリーヤなんで突然地面にダイブしたの?
彼女が握っていた右手を開いた。
【あぁ、コインだと思ったらボタンだった。お金落ちてないかなぁ、あぁお腹すいた……】
「ねぇもう素直に男子たちから何か恵んでもらおうよ!!」
「泣けてきてしまうピコね……」
「今は私がエリザベースルートでたくさん食べてきたから満腹感あるけど、どうにかしないと」
「のりえも下を向いて歩くようになるピコ」
どうにかしないと――っ!!
「プレボ経由で何か贈られたい……具体的には送金されたい……。大体、タンス質に入れちゃったからログインボーナスもらえないなんて横暴よ!」
「この間のワイヤーと木材はログボってわけじゃないピコ。のりえのプレイの結果、あくまで善意のプレゼントだったピコ。でもまぁずっと使えないと困るから、運営に代わりのボックス用意してもらえるよう問い合わせておくピコ」
とにかく働かなきゃ、しかもできるだけ時給高いバイト。そのためにはフランポフルトに行くのが良い。でも交通費が……。
「ところでフランポフルトまで何で行くの?」
「蒸気機関車だピコ。これは秘密だけど、汽車なんてまだこの時代にはないピコ。でもそれじゃ不便だから、ご都合主義の汽車をゲームマスターが作ったピコ。本当は移動に何十時間もかかるところを3時間で済むように設定もしたピコ」
一瞬で街と街を移動できるゲーム、いくらでもあると思いますが。
「でもほら、汽車の旅での出会い、とかぁ~、芽生える恋・深まる愛とかぁ~~」
宇宙を飛ぶ汽車の旅なら良かったけど、3時間じゃ微妙だなぁ。殺人事件なら発生から解決までいけるかな。
「不吉なこと言わないでピコ」
「で、フランポフルトまで汽車賃はいくらなの?」
「日本円にしたら諭吉ほどではないピコ」
「英世でも今はキツイよトホホ。じゃあ夜が明けたら早速この名刺使っちゃおう」
「もうピコ?」
「やっぱり先立つものがないとね……」
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