① 踏んだり蹴っ……踏まれたり、ですわ
「本日も私のお部屋からスタートですわね。ピコピコ、ログインしたから早速プレゼントボックスを確認するとしますわ」
「空かもしれないピコよ? そこのクローゼットが便宜上プレボだピコ」
私は開ける手を一瞬止めました。だってまた何かなだれてきたら危ないですもの。
「そぉっと、そぉっと……え?」
驚いて取っ手を普通に引いてしまいましたわ。
「やっぱりなだれてきたぁぁ! なにこれ……木材?」
「ピータンからメッセージカードが届いているピコ」
「なになに?【君はよろしくのキスをくれたのに、俺は何もお返しできず君に逃げられてしまったので、こちらこそよろしくの木材を贈ります。】……って、木切り過ぎただけだろ!!」
「令嬢の言葉づかいじゃないピコ~~」
「こんなクローゼットいっぱいの木材、何に使えというのよ……」
「たまにはDIYでもするピコ……」
さて、オートプレイの間、エリザベースはどう過ごしていたのかしら。日記帳は、と。
【3月3日。おーほっほっほっほ。よくってよ、よくってよ。私は世界が認めた令嬢の中の令嬢、エリザベースでございます!】
個人の日記で自己紹介する人、初めて見た。こんなテンションになるくらい、いいことがあったのかな。
「どうやら知人の紹介でいいご縁があったようだピコ。相手の爵位は同じ子爵だけど、縁があるだけマシだって彼女は分かってるピコ」
まぁ上を目指して嫁ぎそびれるよりはね……。で、進展はあったの?
【6月3日。遠くへ行きたい……。知らない街を歩いてみたい……。】
その3ヶ月の間に何があった――!!?
「もう彼女の日記読むの怖いよ。くすん」
「どうやら……散歩中、犬に踏まれたり」
えっ犬を踏みそうになって転んだ、じゃなくて、犬に踏まれたの?
「暴風雨の中を出かけたら傘がラッパ傘になって、それをそこらの悪ガキにからかわれたから泣きべそかいて逃げたり」
誰か暴風の中出かける彼女を止めて!
「あげくの果てには……」
聞かなきゃダメ?
「その子爵家令息との初デートの日、美容院の前で待ち合わせだったのに、間違えて病院の前で待ってたピコ」
「まさか気付かずに丸1日待ってたの!?」
「待ってもお相手は来ないし、そのうち病院の中に引き込まれて、入院患者のお婆さんたちの話相手になってあげてたピコ。そして後日、相手の家から断りの連絡が……」
「ねぇもうほんとにエリザベース大丈夫?」
本気で心配です。オートに任せない方がいいかしら。
「一人っ子で箱入り娘だから仕方ないピコ」
ならずっと一人で箱に入ってるといいわ。
「実際、お婆さんたちに寄り添う、心の優しい娘だピコよ……」
しかも意外に聞き上手っていうんでしょ。
「で、その後も舞踏会に参加したけど、ずっと壁の花だったピコ」
その落ちたテンションのままパーティー行っても、ねぇ。
「ってことは今、完全にフリー。選び放題ですわよ」
「イイ男は上から順に売却されていくから、下層で選び放題ピコ。女も然りピコね」
夢のないこと言うな……。
「次の社交パーティーはどんな雰囲気のところかしら」
ピコピコがご都合主義にスケジュール帳を取り出した。
「次はまだちょっと先だけど、晩餐会に出席するみたいだピコ」
「晩餐会、夕ご飯とおしゃべりを楽しむ親睦会ね。そこで目立つ作戦を立てましょう」
「目立つ~~?」
「だって、そういうのって主催者の決めた席順で決まってしまうじゃない。隣に座った人だけでなくて、さくっと目立ってたくさん釣れるの待ち作戦ですわよ」
「簡単に言うけど~~、どうやって目立つピコ?」
う――ん。
「やっぱり、持ち込み企画かな!」
「?」
「何何する人この指止まれ~~、って言い出した人は目立つでしょ」
「何かゲームを始めて、そこで勝って目立つってことピコ?」
「そう、ゲーム! ゲームは大人になってもみんな大好き! でも勝って目立つのは難しい。そういうのってね、勝ち星の下に生まれた人しか、勝てないようになってるの」
「勝ち星?」
「そういうので勝って目立てる人っていつも決まってるんだもん。この世のすべては運ゲーなのよ」
「実力ゲーで負け続けた人の詭弁だピコ……」
「だから、仕切る係で目立つ方に舵を取りますわ。企画持ち込んだ本人なら可能ですわ」
そういったわけで、考え事するためにお散歩に出ましたわ。
「エリザベースも歩けば棒に当たるピコ~~」
ん! かるたはどうかしら!!
「トランプはみんな好きピコ」
でも、10人以上が一緒に遊ぶのは無理ですわよね。
「ゥゥ~~」
その時、私に向かって唸る一匹の犬に遭遇しましたの。なによ何か文句ありまして?
「こら! ビンゴ!!」
この犬の飼い主かしら。走り寄ってくる男性……いっ、イケメン~~!!
「もう平民に手を出すなピコ」
「ビンゴ、ダメだぞ。はっ、あなたは!!」
あら、運命の出会いを感じてしまわれたのかしら? よくってよ。
「以前、このビンゴが踏んづけたお嬢様!」
こいつか……ガルルルル。
「お怪我はありませんでしたか? その節はうちのビンゴがとんでもないことを。申し訳なくて、あなたのお顔を忘れられませんでした」
はぁ美しいって罪。
「大事ありませんでしたわ。私が油断したのがよろしくなかったのですし」
美しいのに謙虚。どう?
「そうですよね! どんだけ油断したら犬に踏まれるんだって話ですよね!」
……いくらイケメンでも、この方とはまっっったくソリが合わなさそうですわ。
「ふぅ。それにしても、ビンゴか。……よし、決めたわ! ゲームはビンゴで決まり!!」
「仇敵と同じ名を冠するゲームに運命を託すピコ?」
「私はあの犬にそこまで張り合っていません~~」
おとといこいですわ! ビンゴめ!
「だってビンゴはその場にいる全員が、お食事やおしゃべりの片手間に遊べるゲームですのよ。そして私は司会者をしていれば、その間顔を売ることができるのですわ」
「まぁ実際できるかどうかは別だピコ。この時代に現代のビンゴは存在しないピコ。その原型となるゲームがどこかで発祥して、変形して伝わっている過渡期だピコ」
「そんなに言うほど難しいことかしら? ルールなんて単純ですし」
「やるのは問題ないピコよ。ボクが言ってるのは準備の話だピコ」
「準備?」
「ビンゴやるには何が必要ピコ?」
「……ビンゴカード」
「現代みたいにワンコインショップ入ったらすぐ希望の商品出てくると思うなピコよ」
……ビンゴカード、作るしか!??
お読みくださりありがとうございます。
のりえの一口メモ: 「ラッパ傘になる」って私は普通に言うんだけど、これ
調べたら方言だったのよ…。(マジか…) 新潟県と
石川県でよく使われてるらしいのね、でも私その辺に
住んだことないよ。もうこれ標準語で良くない?
…はい、すみません。「傘がひっくり返る」「裏返る」が普通で、「おちょこになる」も標準語?らしいですが。「こうもりになる」も多いのかな。




