① ブイヤベース、それは地中海沿岸地域の代表的な海鮮料理
夏真っ盛りの放課後──。
とあるゲームソフトを片手に、私は学校からの帰り道、軽快かつハイスピードのスキップで勇ましく前進していた。
だってもう嬉しくてたまらない! この開放感!
なんてったって、明日から夏休みだもんねーっ!! 高校最後の夏休み!
実は私、クラスでは教室片隅ぼっち。でも私は悪くない。小学部からの一貫校、お嬢様学園の帰国子女枠にねじ込んだ親が悪い。そんなとこに中2の2学期から入ったって、もうグループはでき上がってて輪に入っていけないわ。しかもお嬢様たちとはまったくソリが合わない。
夏休みだってぼっちだけど、無問題よ。ゲーム三昧で過ごしてやる。大学は推薦で行けるからね。
さっき中古ショップでさ、財布に750円しか入ってなかったから、それで買えるやつ適当にボックスから拾ったんだけど。
とりあえず今夜はこれ貫徹でプレイするぞー!
って、あれ、眠くなってきた……。おっかしいなぁ、スキップしてる真っ最中に眠くなるなんて、そんなの……この人生で経験したこと……ない……。
目を覚ましたら、そこは何もない空間だった。薄いピンクの壁に囲まれてる。それなりに部屋っぽい。
「時空の控え室にいらっしゃいピコ~! 初めましてピコ~~。ボクはピコピコ! キミのための案内NPCだピコよ!」
目の前に現れたのは毛むくじゃらで目が大きいぬいぐるみみたいな、ピコピコ喋る物体だった。羽ぱたぱたしながら飛んでいる。
「物体とは失礼だピコ。懇切丁寧に説明してやろうと思ってたけど、4割くらい雑にいくピコ」
「スミマセン、丁寧にお願いします」
4割くらい深めに頭下げてみる。
「分かったピコ。任せるピコ」
御しやすいぬいぐるみだ。
「キミは……さっき死んだピコ!」
「えっ……ええええええええ! 知らない! そんなの聞いてない!」
「即死で良かったピコね。そりゃあんな豪快なスキップしてたら、轢かれても仕方ないピコよ」
ああああスキップしなきゃよかったぁあああ!!
「ぼっちで陰キャだけど、人生これからだったのに……」
「そいでもお客サン、ラッキーですゼ? そのゲームソフト片手にスキップして死んだキミは、ななななんと! 転生のチャンスが与えられたピコ!」
「転、生……?」
私は唯一の持ち物、ゲームソフトを目にした。可愛い金髪の少女がふたり、パッケージに描かれている。
「このゲームのふたりのヒロインのうち、どちらか選んで転生できるピコ。イイソフト選びましたなぁ~。ところでお客サン、キミの名は?」
「えっと私は……」
あれ? 私名前何? 思い出せない!
「あぁそうだったピコ。死者は名前なんて思い出せないんだった」
「えっ?」
「だって死者もう名前必要ないピコ」
そ、そりゃそうだけど~~。
「でもこれからしばらく世話してやるのに、名前ないと不便だピコ。ボクが便宜上名付けるピコ。君は……“のりえ”だァ!」
そんな80年代少女漫画に出てきそうな名前――!!
「ゲームの中に入ったら、彼女たちの名で呼ばれるから問題ないピコ」
「ゲームの中?」
私は諦め気味にパッケージ裏を読んでみた。
「麗しの悪役令嬢エリザベース、可憐な村娘マリーヤ、あなたはどちらの恋物語を選ぶ……??」
「フレキシブルに選んで遊べるピコ」
「ちょっと待って。この令嬢、エリザベートじゃなくて、エリザベース? なんでそんなブイヤベースみたいな語感になってんの?」
「ぶ、ブイ?」
「ブイヤベース。海鮮料理よ。私好物だったの」
ってなんで私好物は覚えてるのに(しかもブイヤベースって!)自分の名前忘れてんだ!?
「おかげで80年代感漂う名前付けられちゃって……」
哀しい。
「のりえも漢字にするとなかなかいいピコ」
そこでご都合主義に黒板とチョークが現れた。
「乃梨江……っと。ほら、とってもナウでオシャンティ!」
「“ナウ”と“オシャンティ”の間には若干のタイムラグがあるわ……。で? ゲームに入るって?」
「これからキミの転生先を選ぶのに、このふたりのルートを体験させてあげるピコ。こんな美少女ふたりから選べるなんて、本当にツイてるピコ~~」
「車に轢かれた時点でツイてないけどね……。じゃあ早速令嬢の方からプレイしてみようか」
ご都合主義に現れた65インチのゲーム画面でスタートしてみた。
お読みくださりありがとうございます。
全国の under30の “のりえ”さん、80年代などと申して申し訳ございません!
(土下座)
over30ののりえさんは当時ナウナウネームであったはずなので謝りません!……あ、いえやっぱりすみませんでした(土下座)