85話→勉強会!
あの壮絶な体育祭から何日経っただろうか。
今となっては、体育祭翌日の猛烈な筋肉痛もいい思い出になっている。
優の姉さんからは、まだ何の命令もされていない。
いつ、どんな命令をされるのかと内心ビクビクしているのは内緒だ。
体育祭が終わると、1学期の大型イベントは特になく、あとは夏休みを待つだけである。
そんな、夏休みまであと2週間を切った今日。
外ではミンミンとうるさい蝉の鳴き声をBGMに、俺は明後日に控えた期末試験の為に猛勉強していた。
今年の夏は、例年と違い外出の予定を色々と考えている。
今までは自宅警備員にも似た夏休みを過ごしていたので、かなり楽しみなのだ。
しかし、その楽しみも『追試』という悪魔に邪魔されかねない。
邪魔されない為にも、全力で勉強するしかないのだ。
コンコン。
ノックの音とともに、氷が沢山ぶちこまれた、ジュースが並々に注がれているコップを両手にアイリスが部屋に入ってきた。
「はやと様。お疲れさまです」
そう言って、俺にコップを渡してくる。
「さんきゅー」
俺は一言お礼を言ってコップを受け取ると、一気に飲み干した。
さすがメイドだ。
俺が金持ちの主人なら何か褒美をとらせるような気遣い、本当にありがたい。
「アイリスは、テスト大丈夫なのか?」
俺は、コップを机に置くとなんとなく質問してみた。
「はい。ギリギリ大丈夫ですね。でも、現代文は自信がないです」
えへへ、と苦笑いするアイリス。
「・・・実はさ、俺、現代文は得意なんだが数学が全くわかんないんだよ。・・・・・・というわけで、お互いに教え合わない?いや、無理にとは言わないけど」
俺の数学の点数はまじでやばい。
赤点の30を大幅に下回る点数なのだ。
「いいんですか!?私でよければ、喜んで一緒に勉強したいです!」
俺の提案に、すんごいスマイルで答えてくれたアイリス。
そういえば、最初の頃に比べて俺をご主人様っぽく扱ってくれなくなったな・・・・。
まぁ、そんな扱いより、普通に接してもらったほうが嬉しいからいいんだけど。
なんか、ちょっと残念な気もする。
とりあえず様付けて呼ばれるのも止めてくれると有り難いんだが、たぶん無理だろうな。
なんかこだわりあるみたいだし。
っと、余計な考えはこの辺りでストップさせて本題に入るかな。
「よし、なら勉強道具持ってきてくれ。・・・・ぁ、そっちの部屋がいいなら俺が行くけど」
俺の提案に、大きく首を横に振ると慌てて部屋を出ていくアイリス。
そんなに部屋を見られたくないのか?
少し覗いてみたい気もしたが、なんとなく自重した。
開けてビックリ玉手箱、なんて洒落にならんからな。
しばらくすると、勉強道具だけにしては少し大きなカバンを片手に、アイリスが戻ってきた。
「どうしたの?その荷物」
俺の質問に、アイリスはコホンと咳こみ、恥ずかしそうに言葉を口にした。
「勉強に集中するために、今日はこの部屋に泊まらせていただきますね」
・・・・・・なんだって?同じ寮の中なのに泊まるって言うのか?・・・・じゃなくて、なんでいきなり。
変な間違いを起こさないためにも、こういうのは謹むべきである。
いや、しかし待てよ。前は無断で部屋に入るような奴が一々おれに断って泊まろうというのだ。
ここは泊まらせてやるのが人間として当たり前のことなんじゃないか?
いや、別に下心とかは・・・・・・まったくないとは言えないけど。
「まぁ、いいけど・・・・他の奴らにはばれないようにな?俺の命に関わるから」
「はい、二人だけの秘密ですね!」
む・・・・なんかその響きいいな。二人だけの秘密っての。
そんなこんなで二人だけの勉強会が始まった。